採用支援AI、集中力が見えるメガネ。HRテック最前線を覗くHIP conferenceレポート
三浦孝文 / 金学千 / 辻聡美 / 前川知也 / 安藤昌也 / 辻大志 / 中川源洋 / 大室正志
2018.12.20

「5年以内に都市で実装されるであろうテクノロジー」をテーマに、イノベーションコンサルティング事業を行うQuantumと、HIPで共同開催するイベント『HIP conference』。これまで、AI、ドローン、そしてヘルステックをテーマに、進化を続けるテクノロジーの最前線を議論してきた。

第4回となる今回は「監視か、エンパワーか。テクノロジーは働き方をどう変える?」と題して「HR(Human Resource)テクノロジー」についての最新事例と未来のあり方が議論され、150人以上におよぶ参加者たちが熱心に聞き入った。

政府が「働き方改革」を推進し、長時間労働を是とするこれまでとは異なる価値観が求められる時代。この先テクノロジーは、働く人々をどのように支えていくのか? そして、テクノロジーとの共存は、われわれに何をもたらすのだろうか? イベントの様子から、HRテックが生み出す「未来の働き方」を覗いてみよう。


取材・文:萩原雄太 写真:朝山啓司

入社候補者の未来を予測し、採用を支援するAIツール。本当に使えるの?

新たなテクノロジーでわれわれの「働き方」を支えるさまざまなツールやサービスが日々生まれるなか、その導入や運用に携わる総務人事のスタッフも課題に直面している。導入に際しての目的設定をどうするか、費用対効果をいかに可視化するか、導入済みサービスの利用率をいかに向上させるか、導入後のデータ活用をどうするか。HRテックの第一線で活躍するプレイヤーたちを登壇者として迎えた本イベントでは、これらの課題に示唆を与える議論が交わされた。

オープニングセッションにて、総務人事が抱える課題感について語り合うQUANTUMの金氏(左)と、オイシックス・ラ・大地株式会社 人材企画室の三浦氏(右)

第1部では、ユーザーエクスペリエンス(UX)デザインを専門とする千葉工業大学教授の安藤昌也氏がモデレーターを務めた。ゲストには、スマートフォンアプリを使って働き方改革を楽しく続けるサービス「Happiness Planet」を開発した株式会社日立製作所の辻聡美氏と、AIで人事の高度化を図るサービス「HR君」を提供する株式会社エクサウィザーズの前川知也氏が登壇した。

エクサウィーズの「HR君」は、社員の入社前から入社後の教育や評価、そして退職に至るまでに人事が行う業務を、AIを駆使して効率化する。特に大企業の採用の現場で活用されているこのサービスは、過去、最終的に内定が出た人、内定辞退した人、入社後に会社にフィットした人、活躍した人……などのデータを学習したAIが、入社候補者の未来を予測し人材採用を支援してくれるという。

だが、イベント直前の2018年10月には、Amazonで開発が進んでいたAIによる人材採用システムに女性差別的な判断をする欠陥が見つかり、開発中止が発表されたばかり。本当に、AIによる人材採用支援は可能なのだろうか?

前川知也氏(以下、前川):一般的にAIによる予測モデルは、その企業の過去の採用実績からつくられます。そのため、これまでの人の手による採用の過程でバイアスがかかっていれば、予測モデルに影響を与えることはあります。

株式会社エクサウィザーズ 前川知也氏

前川:「HR君」を活用くださっている企業の人事担当の方には、性別などの限定的な要因で内定率が変わるという事態が起こらないよう、データから生み出されたAIの予測モデルをそのまま使うのではなく、細かいチューニングを人の手で行っていただいています。

採用支援AIという新たなツールの普及にあたり、あらためて採用時の社会的倫理の重要性を考える必要が出てきたのではないでしょうか。

ウェアラブル端末で組織の「元気度」を算出。「縁の下の力持ち」を見つけ出すツールとは?

一方の日立製作所は、2004年から1万人以上の職場行動のデータを分析。ウェアラブルセンサーで人間の身体の無意識の揺れ(加速度)を計測し、その統計的分布に、組織の活性状態が表れていることを発見した。そこから開発されたのが、加速度データから組織の「ハピネス度」を算出する技術だ。

担当の辻氏によれば、この技術を活用したサービス「Happiness Planet」によって、チーム全体のデータを統計的に処理することで、これまでの評価基準からは見えにくかった「縁の下の力持ち」の存在が可視化されるという。

辻聡美氏(以下、辻聡美):従来の評価システムのなかでは、どうしても結果を出した人が評価されがちです。でも、4番バッターだけを集めても必ずしもいいチームはできない。守備が得意な人、応援が得意な人、分析が得意な人……チームにはさまざまな人が必要ですし、直接は得点を決めないこうした人々の貢献も、きちんと評価されるべきです。

株式会社日立製作所 辻聡美氏。手に持っているのが身体の加速度を計測するウェアラブルセンサー

辻聡美:「Happiness Planet」を使ってある組織を分析したところ、事務担当の人が朝早く出社している日は、営業チーム全体のハピネス度が高くなることがわかりました。一見、なぜだろう? と思いますが、データからわかるのは相関関係のみ。因果関係については実際にチームで働く方々との話し合いで類推していく必要があります。

その結果、たとえば「受注したので注文書をつくってください」「請求書を出してください」といった事務作業への対応スピードが、営業担当の仕事の効率に大きく影響しているのではないかという仮説が出てきました。事務の方が朝早く出社する日は、全体の仕事が前倒しで円滑に進むから、全体のハピネス度が高まるのではないかと。データを分析することで、裏方も決してチームに欠かすことができない存在であることが見えてきます。

AIが普及しても、人と人とのコミュニケーションは残る。未来の人事の仕事はどうなる?

このように、大切なのはデータによる結果より、コミュニケーションを通じてデータに解釈を加えていくプロセスだと、辻氏は語る。

辻聡美:調査された本人たちが結果をふまえ、「この日は部長が怒っていたから……」「うちの職場は酒飲みが多いから、金曜日のハピネス度が高いのかな」など、職場ならではの解釈、ストーリーを話し合って、行動を振り返ることが大切です。そして「うちの職場はこうだよね」「もっとこうなっていきたいね」という会話が生まれるきっかけにできればと思っているんです。

前川:データだけにしばられず「人」を介して納得度を高めることは重要ですよね。ある人材会社の実験によると、転職斡旋の際「AIが提案した場合」「専門家が提案した場合」「親しい友人が紹介した場合」の3パターンでは、「友人の勧め」の場合が最も決まりやすく、ユーザーの満足度も高かったそうです。

AIが普及しても、人と人とのコミュニケーションは残っていく。「HR君」も、人事業務における評価や採用の負担を圧縮するものであり、すべてを任せきりにするものではありません。

前川:一方で、「あえてAIに勧められたい」という人も一定数います。たとえば人事からの評価のみでは「自分はもっとできるはず」と不満を抱えてしまう人の場合、AIからの評価と合わせて提示することで納得度が上がるケースもあります。

社員一人ひとりに向き合うことが主だったこれまでの人事の仕事の質は、AIの補佐が入ることによって、きっと少しずつ変化していく。たとえばこれまでの仕事が、ある人員計画に沿って社員を採用したり配置したりすることなら、これからはそのポジションに人をあてがうべきか、はたまたAI、ロボットなのか、そうしたレイヤーに頭を使うのが人事の仕事になるのではないでしょうか。

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