INTERVIEW
採用支援AI、集中力が見えるメガネ。HRテック最前線を覗くHIP conferenceレポート
三浦孝文 / 金学千 / 辻聡美 / 前川知也 / 安藤昌也 / 辻大志 / 中川源洋 / 大室正志

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2018.12.20

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気軽にヨガでリフレッシュ。ニコンがなぜオフィスワーカーを支援?

一方ニコンは、これまでピッチングフォームやランニングフォームの測定など、アスリートを対象に使用されてきた「姿勢解析システム」を使い、オフィスワーカー向けのストレッチ・チュートリアル・サービス「POZ(ポズ)」をリリース、実証実験を開始した。QUANTUMと共同開発したもので、ヨガインストラクターの動きと比較しながら、自分の動きを分析、評価してくれる。

中川源洋氏(以下、中川):姿勢解析システムをアスリート向け以外にも活用できないかと模索するなかで、座りっぱなしのオフィスワーカーに、オフィス内でのストレッチを通じて心身ともにリフレッシュできる環境を提供できるのではないか、という発想から「POZ」が生まれました。

「POZ」ではカメラから得られる距離画像を利用して、人の姿勢を三次元データとして捉えます。センシング用のデバイスを身体に取りつける面倒な手間なく、リアルタイムで自分の姿勢を把握し、ただ動画を閲覧するだけよりも正確な姿勢で、効果的にヨガの練習ができる。

株式会社ニコン 中川源洋氏
自分の姿勢をリアルタイムで確認できる「POZ」

しかし、これらのサービスを導入しても、積極的に利用されなければ意味がない。サービスの稼働率を上げ、社員の健康を促すためには、利用に対してインセンティブを与え、モチベーションを生み出すことが必要になる。

中川:たとえば「POZ」の利用率と欠勤率との相関関係などのデータを取って、「POZ」が社員の健康に寄与していることが証明できれば、利用した社員に対して企業側がインセンティブを与える理由になるはずです。1回の利用ごとにポイントを付与して、それをためると社食でコーヒーやランチが無料になるとか。そうすれば、社員も積極的に利用するようになるのではないでしょうか。

企業による個人情報の収集は「監視」か否か。40代以上は特に拒否反応

視線の動きによる集中力の測定や、カメラを使った姿勢の三次元データ化といった、あたかもSF小説のようなテクノロジーの最前線が語られるなか、大室氏は産業医としての立場からこんな警鐘を鳴らす。

大室正志氏:企業による個人情報の収集は、社員に対する「監視」か否かが大きなテーマとなってきます。かつて産業医として関わっていたある運送会社では、ドライブレコーダーを導入し、アクセルやブレーキ操作などの運転中のデータを取るようにしたところ、ドライバーから反発がありました。それまでは時間内に荷物を届けさえすれば、休憩時間などを自由に決めることができていたんです。

しかし、結果的にはデータの計測を始めたことで事故率が下がり、業績も上がった。それに伴って給料も上がったんです。これを従業員の「監視」として否定的に見るか否かはとても難しい問題ですね。

大室産業医事務所 大室正志氏

しかし、そんな大室氏からの問いかけに対し、辻氏はこんな希望を語った。

辻大志:どこの企業でも、ユーザーが許可してくれた場合のみデータを取らせていただいていると思いますが、たしかに個人情報を渡すという気持ち悪さはやはり根強く、ハードルは決して低くありません。年代による違いははっきりとあり、40代以上は特に拒否反応を示される方が多いです。

しかし、Googleのサービスが典型的なように、データを提供してもらうことでいかに利便性が向上するかを示すことは大きなポイントです。20代や30代のあいだには、自分にメリットがあるなら積極的にデータを提供しようという考え方も広がっていると感じます。

企業と個人がいかに共創していけるか。HRテック発展に向けての重要なポイント

採用、幸福度、集中力、リラックスなど、HRテックがさまざまな角度から社員の働き方を支援する動きは始まったばかり。これから「当たり前」になっていくであろうこれらのサービスの最前線を知ることで、参加者の脳裏には、よりリアルに5年後の働き方が見えてきた。

イベントのラップアップセッションには、オイシックス・ラ・大地株式会社人材企画室に所属し、企業を横断して約1,000人の人事を束ねるコミュニティー「人事ごった煮会」の発起人でもある三浦孝文氏と、QUANTUMの金学千(きむはくちょん)氏が登壇し、次のような感想を語った。

三浦孝文氏:HRテックのさまざまなツールやサービスは、これまでのところ企業側が主体で運用しているように感じます。開発側も、つくったものをいかに企業の管理部門に導入してもらうかということに視点がいきがちなのではないでしょうか。

しかし本来HRテックの目的は、社員一人ひとりの生産性を高めたり、負担を軽減したりすることのはず。これからはいかに個人を巻き込み、共創していけるかが、よりよいツールやサービスが生まれる秘訣になるのではないかと思いました。

オイシックス・ラ・大地株式会社 三浦孝文氏

金学千氏:人事には採用や勤怠や評価、さまざまなデータが集まっていますが、どんなデータをどう活かせば社員がエンパワーされるのか、と悩んでいる人事担当の方も多いのではないかと思います。

まずは社内外に迷惑のかからない範囲で、さまざまなデータの活用を試してみて、実際に業務が改善されたか、社員がエンパワーされたかといった結果を検証していくことができる場が必要なのではないかと感じました。

全社的に取り組みを行うばかりでなく、チームの大きさやフェーズに合わせて、まずは小さくトライしてみるのでもいい。それが、HRテックにとって本当に有効なデータを見出す鍵になるのかもしれませんね。

QUANTUM 金学千氏

終了後の懇親会では、ストレッチ・チュートリアル・サービス「POZ」の体験が実施されたほか、各プレイヤーたちが語った変わりゆくHRテックについて、活発な議論が展開された。いったい、テクノロジーの発達によって、5年後にはどんな働き方が実現するのだろうか? HRテックが支える「働き方改革」は、まだ始まったばかりだ。

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Profile

プロフィール

三浦孝文(人事ごった煮会発起人・運営メンバー / オイシックス・ラ・大地 株式会社 人材企画室 人材紹介スカウトセクション マネージャー)

新卒入社したD2Cで採用全般を、Cookpadで採用と子会社人事機能立ち上げを経験後、現職へ。事業会社の人事としてマネージャーをしつつ、社外では「人事ごった煮会」という900人を超える人事が所属する人事コミュニティーを発起人として運営。

金学千QUANTUM Inc. BizDev Senior Manager / Producer)

博報堂にてアカウントプラニング職・ストラテジックプラニング職を経験した後QUANTUMへ参画。イノベーション開発に特化したファシリテーションのプロフェッショナルで、大企業とスタートアップとの共創を目指したワークショップを数多く企画運営している。プラニングスキルとファリテーションスキルを掛け合わせて、まだ見ぬ体験や新規事業創造を目指し、LEANSTARTUPプログラムや事業開発をリードしている。

辻聡美(株式会社日立製作所 研究開発グループ 主任研究員)

2006年より日立製作所にて、ウェアラブルセンサーを用いた職場の対面コミュニケーションや行動データの分析に着手。センサーで人間行動を分析し、企業マネジメントに役立てるための研究に従事。スマートフォンを使って働き方改革を楽しく続けるソリューション「Happiness Planet」を開発した。Academy of Management会員。

前川知也(株式会社エクサウィザーズ HR Tech事業部長)

京都大学法学部卒業。在学中、エンジェル投資家の瀧本哲史氏から出資を受け、C2Cのウェブサービス事業を起業。事業譲渡の後ボストン・コンサルティング・グループに入社し、金融・電機・自動車・物流・ウェブ・通信等の業種で、新規事業・営業戦略・ビジョン策定・組織再編等、幅広いテーマを担当。多様な企業の戦略立案に携わるなかで、AIをはじめとする技術の可能性と、企業の成長における組織・人事の重要性を感じ、エクサウィザーズに入社。HR×AIで人事の高度化を図るべく、「HR君」の開発をはじめHR Tech事業全体の推進を担当。急ピッチで人員拡大が進むエクサウィザーズでは採用業務にも携わっている。

安藤昌也(千葉工業大学 先進工学部知能メディア工学科 教授)

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。NTTデータ通信株式会社(現株式会社NTTデータ)を経て、経営コンサルティング会社取締役に就任。2011年より千葉工業大学工学部デザイン科学科准教授。2015年より教授。2016年4月より現職。ユーザーエクスペリエンスデザイン、人間中心デザインが専門。現在は「利他的UX」を提唱し、「やってあげるデザイン」の原理の研究などに注力している。主著に『UXデザインの教科書』(丸善出版)がある。

辻大志(KDDI株式会社 商品・CS統括本部 商品技術部 部長)

メーカー(大手ICT企業)に約10年勤務して、通信キャリア向けの基地局開発や回路設計、LSI設計、開発管理などを担当。KDDI入社後は、端末開発部に11年間在席し、途中プロジェクトの立ち上げにも関与する。次いで役員補佐を1年務め、2015年、商品技術部長となってからは、約30名のメンバーが行う新規通信技術などの検討を指揮している。

中川源洋(株式会社ニコン 新規事業開発本部)

東北大学大学院工学研究科博士課程後期修了。博士(工学)。2004年電機メーカー入社後、中央研究所において半導体集積回路の基礎・応用研究に従事。2012年株式会社ニコン入社。新事業開発本部所属。姿勢解析技術の技術・アプリケーション開発を推進更にスポーツ領域から用途の拡張を目指し、健康促進活動に利用できる姿勢解析技術を採用したシステムを開発中。
POZウェブサイト:http://poz.co.jp/

大室正志(大室産業医事務所)

産業医科大学医学部医学科卒業。ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社統括産業医を経て現職。約30社の産業医を務める。メンタルヘルス対策や生活習慣病対策など企業における健康リスク低減に従事。著書に『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社)、共著に『産業医と弁護士が解決する 社員のメンタルヘルス問題』(中央経済社)がある。

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