気軽にヨガでリフレッシュ。ニコンがなぜオフィスワーカーを支援?
一方ニコンは、これまでピッチングフォームやランニングフォームの測定など、アスリートを対象に使用されてきた「姿勢解析システム」を使い、オフィスワーカー向けのストレッチ・チュートリアル・サービス「POZ(ポズ)」をリリース、実証実験を開始した。QUANTUMと共同開発したもので、ヨガインストラクターの動きと比較しながら、自分の動きを分析、評価してくれる。
中川源洋氏(以下、中川):姿勢解析システムをアスリート向け以外にも活用できないかと模索するなかで、座りっぱなしのオフィスワーカーに、オフィス内でのストレッチを通じて心身ともにリフレッシュできる環境を提供できるのではないか、という発想から「POZ」が生まれました。
「POZ」ではカメラから得られる距離画像を利用して、人の姿勢を三次元データとして捉えます。センシング用のデバイスを身体に取りつける面倒な手間なく、リアルタイムで自分の姿勢を把握し、ただ動画を閲覧するだけよりも正確な姿勢で、効果的にヨガの練習ができる。
しかし、これらのサービスを導入しても、積極的に利用されなければ意味がない。サービスの稼働率を上げ、社員の健康を促すためには、利用に対してインセンティブを与え、モチベーションを生み出すことが必要になる。
中川:たとえば「POZ」の利用率と欠勤率との相関関係などのデータを取って、「POZ」が社員の健康に寄与していることが証明できれば、利用した社員に対して企業側がインセンティブを与える理由になるはずです。1回の利用ごとにポイントを付与して、それをためると社食でコーヒーやランチが無料になるとか。そうすれば、社員も積極的に利用するようになるのではないでしょうか。
企業による個人情報の収集は「監視」か否か。40代以上は特に拒否反応
視線の動きによる集中力の測定や、カメラを使った姿勢の三次元データ化といった、あたかもSF小説のようなテクノロジーの最前線が語られるなか、大室氏は産業医としての立場からこんな警鐘を鳴らす。
大室正志氏:企業による個人情報の収集は、社員に対する「監視」か否かが大きなテーマとなってきます。かつて産業医として関わっていたある運送会社では、ドライブレコーダーを導入し、アクセルやブレーキ操作などの運転中のデータを取るようにしたところ、ドライバーから反発がありました。それまでは時間内に荷物を届けさえすれば、休憩時間などを自由に決めることができていたんです。
しかし、結果的にはデータの計測を始めたことで事故率が下がり、業績も上がった。それに伴って給料も上がったんです。これを従業員の「監視」として否定的に見るか否かはとても難しい問題ですね。
しかし、そんな大室氏からの問いかけに対し、辻氏はこんな希望を語った。
辻大志:どこの企業でも、ユーザーが許可してくれた場合のみデータを取らせていただいていると思いますが、たしかに個人情報を渡すという気持ち悪さはやはり根強く、ハードルは決して低くありません。年代による違いははっきりとあり、40代以上は特に拒否反応を示される方が多いです。
しかし、Googleのサービスが典型的なように、データを提供してもらうことでいかに利便性が向上するかを示すことは大きなポイントです。20代や30代のあいだには、自分にメリットがあるなら積極的にデータを提供しようという考え方も広がっていると感じます。
企業と個人がいかに共創していけるか。HRテック発展に向けての重要なポイント
採用、幸福度、集中力、リラックスなど、HRテックがさまざまな角度から社員の働き方を支援する動きは始まったばかり。これから「当たり前」になっていくであろうこれらのサービスの最前線を知ることで、参加者の脳裏には、よりリアルに5年後の働き方が見えてきた。
イベントのラップアップセッションには、オイシックス・ラ・大地株式会社人材企画室に所属し、企業を横断して約1,000人の人事を束ねるコミュニティー「人事ごった煮会」の発起人でもある三浦孝文氏と、QUANTUMの金学千(きむはくちょん)氏が登壇し、次のような感想を語った。
三浦孝文氏:HRテックのさまざまなツールやサービスは、これまでのところ企業側が主体で運用しているように感じます。開発側も、つくったものをいかに企業の管理部門に導入してもらうかということに視点がいきがちなのではないでしょうか。
しかし本来HRテックの目的は、社員一人ひとりの生産性を高めたり、負担を軽減したりすることのはず。これからはいかに個人を巻き込み、共創していけるかが、よりよいツールやサービスが生まれる秘訣になるのではないかと思いました。
金学千氏:人事には採用や勤怠や評価、さまざまなデータが集まっていますが、どんなデータをどう活かせば社員がエンパワーされるのか、と悩んでいる人事担当の方も多いのではないかと思います。
まずは社内外に迷惑のかからない範囲で、さまざまなデータの活用を試してみて、実際に業務が改善されたか、社員がエンパワーされたかといった結果を検証していくことができる場が必要なのではないかと感じました。
全社的に取り組みを行うばかりでなく、チームの大きさやフェーズに合わせて、まずは小さくトライしてみるのでもいい。それが、HRテックにとって本当に有効なデータを見出す鍵になるのかもしれませんね。
終了後の懇親会では、ストレッチ・チュートリアル・サービス「POZ」の体験が実施されたほか、各プレイヤーたちが語った変わりゆくHRテックについて、活発な議論が展開された。いったい、テクノロジーの発達によって、5年後にはどんな働き方が実現するのだろうか? HRテックが支える「働き方改革」は、まだ始まったばかりだ。