INTERVIEW
地方銀行発のビジネスコンテストとして10年。「X-Tech Innovation」が築いた、地域とスタートアップの巨大ネットワーク
永吉健一(みんなの銀行 取締役頭取、ふくおかフィナンシャルグループ執行役員)

INFORMATION

2025.06.16
取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:佐藤翔 編集:HIP編集部、篠崎奈津子(CINRA)

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デジタルテクノロジーを軸にしたビジネスコンテストとして、2015年から毎年開催されている「X-Tech Innovation(クロステック・イノベーション)」。ふくおかフィナンシャルグループ(福岡銀行ほか)、沖縄銀行、北海道銀行、岩手銀行、七十七銀行の地方銀行5行による共催というかたちで行われ、これまでに累計1,000組を超えるスタートアップや団体がエントリーしてきた。

その狙いの一つは、優れた技術やアイデアを持つスタートアップと地場の企業をマッチングし、地域経済の活性化、地域課題の解決につながる共創を生み出すこと。地方銀行の本懐ともいえる「地域に貢献する」という理念を体現するようなビジネスコンテストとなっている。

創設から10年が経過し、現在では全国の地場企業、大手企業、スタートアップがつながる巨大なネットワークを築くまでに発展したX-Tech Innovation。開始当初から現在までの歴史を知る永吉健一氏(みんなの銀行 取締役頭取、ふくおかフィナンシャルグループ執行役員)に、これまでの歩みや成果、今後の展望を語ってもらった。

地銀5行が共催する、全業界横断型ビジネスコンテスト「X-Tech Innovation」

HIP編集部
(以下、HIP)
X-Tech Innovationは地方銀行5行が共催するビジネスコンテストということですが、どのような特徴があるのでしょうか?
永吉健一氏
(以下、永吉)

X-Tech Innovationはデジタルテクノロジーを軸にしたビジネスコンテストとして2015年からスタートし、今年で10周年を迎えました。小売業からインフラ、医療など、業界や業種を問わず、デジタルテクノロジーを活用した新しいサービスを募集しています。

最初は福岡銀行のみの主催でしたが、2年目からはコンセプトに共感していただいた沖縄銀行さん、3年目から北海道銀行さん、最終的には岩手銀行さん、七十七銀行さんが参加いただき、地方銀行5行による共催となっています。

コンテストは、北海道・東北・九州・沖縄の4つのエリアごとに地区大会を行い、選考を突破した方々がグランプリファイナルに進むという流れです。全国区の共通テーマと、地区大会では、各地域の課題に関連するテーマが設定されています。その課題解決につながる技術、またはアイデアを持ったスタートアップや団体にエントリーしていただくというフォーマットになっています。

HIP
X-Tech Innovationは、いつ、どのようなきっかけでスタートしましたか?
永吉

もともとは「金融業界に押し寄せるFinTech(フィンテック)の波にどう対応するか」という、銀行視点の課題感が出発点でした。2015年はFinTech元年といわれ、どの銀行もテクノロジーを用いて、いかに新しい価値を生み出していくのかを模索し始めていました。東京では、毎日のようにFinTech関連のイベントが開催されていて、全国の銀行員が情報を集めたり、関連技術を持つパートナーと接点を設けようとしたりして、やっきになっていたんです。

ただ、我々ふくおかフィナンシャルグループは九州を拠点とする銀行グループであるため、頻繁に東京のイベントに顔を出してコミュニケーションをとるのは難しい。そこで、デジタルテクノロジーを軸にしたビジネスコンテストを開発することで、優れた技術やアイデアを持つスタートアップとの接点をつくろうと考えました。

HIP
当初は、銀行の課題を解決する目的でスタートしたわけですね。
永吉

そうです。ただ、実現に向けて議論を深めるなかで方針をあらためました。テクノロジーの活用に悩んでいるのは、何も銀行だけではありません。そもそも地方銀行の役割の一つは、地場の企業の課題を解決すべくサポートすること。ならば自分たちのことよりも、取引先がテクノロジーに何を期待し、どんな課題を解決したいのかという点に目を向けるべきなのではないかと考えました。

せっかくやるなら、FinTechに限定せず、さまざまなテクノロジーを持ったスタートアップの方々に門戸を開いたほうが、より多くの業界、企業の課題解決につながるはずです。そうした考えから「X-Tech」と命名し、全ての業界・業種を横断するかたちのビジネスコンテストとして舵を切りました。

地場の企業とスタートアップをつなぐ、マッチングの場としても機能

HIP
それから10年。共催する地方銀行、協賛企業、各地方のゲストパートナー(スタートアップとのマッチングを希望する地場の企業)も増え、どんどん規模が拡大しています。
永吉

そうですね。それにともない、業界・業種の壁を越えるだけでなく、北海道、東北、九州、沖縄と、全国各地にまたがるコンテストとして成長していきました。

このコンテストは地場・大手企業とスタートアップにマッチング機会を提供することを目的としていますが、一つのエリアだけでやると、つながることができる範囲が限定されてしまいます。北海道から沖縄まで、幅広いエリアを対象に開催すれば、各地域のプレーヤー、地方銀行の取引先である地場の大手企業に参加いただくことができ、エリアを超えてつながりを育むことができます。これは、地方銀行が共催するビジネスコンテストならではの強みではないかと思います。

HIP
各地域の「ゲストパートナー」には、地場のインフラ企業や有力企業など、錚々たるメンバーが名を連ねていますね。
永吉

ゲストパートナーは各銀行の取引先のみなさまで、さまざまな業界・業種の企業に参加いただいています。

また、各地のゲストパートナーとは別に「協賛企業」というかたちで、ナショナルクライアントや大手テクノロジーカンパニー、コンサルティングファーム、Sler(※)などにもパートナーに加わっていただいています。

エントリーするスタートアップ企業からすると、普段は接点のない全国規模の大手企業や、各地方のゲストパートナーとつながることができる、またとない機会にもなります。コンテストを通じて、技術やアイデアが認められれば投資を受けられるかもしれません。また、地場の企業と手を組み、地域課題を解決する共創パートナーになれる可能性もあるでしょう。

X-Tech Innovationの最大の特徴は、それぞれの地域から出たアイデアをコンテストに関わる全員で共有し、共創につながる仕組みをつくっていることです。

※Sler:システムインテグレーター(System Integrator)の略称。システム構築や開発、運用・保守など、システムに関わるあらゆる業務を請け負う企業のこと

X-Tech Innovation 10th Anniversaryで最優秀賞およびオーディエンス賞を受賞した、徳島市の医療機器製造業 株式会社サウスウッド
HIP
たとえば、沖縄の地区大会にエントリーしたスタートアップが、北海道のゲストパートナーとつながるようなこともあるのでしょうか?
永吉

もちろんあります。毎回、4つの地区合計で100社以上がエントリーしていただきますが、最終選考に残るかどうかに関係なく、参加企業の情報はコンテストに携わる全員に共有されます。気になるスタートアップがあれば、地域に関係なくコンタクトを取ることができるネットワークが形成されているんです。

「地域課題」というと、エリアごとに別々の課題があるように思われがちですが、実際はどの地域も似たような課題を抱えています。それを解決できる技術やアイデアがあるのなら、より多くのパートナー同士でシェアするべきではないでしょうか。

X-Tech Innovationの発展による地方銀行のメリットとは?

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