落合陽一、竹中平蔵、松本理寿輝らが語る未来の東京『HIP Conference vol.7』
落合陽一(メディアアーティスト)
2017.08.21

「東京をイノベーティブにする」をテーマに、全7回に渡り開催してきた『HIP Conference』。最終回となった第7回のテーマは、「『未来の東京』テクノロジー、アート、コミュニティーから考える未来の都市のカタチ」だ。

セッションIには「現代の魔法使い」こと落合陽一氏が登壇。脱近代をテーマに人工知能がもたらすパラダイムシフト、人口減少社会だからこその「日本再興戦略」を株式会社ロフトワーク代表取締役の林千晶と語り合った。

続くセッションIIでは、若くして「まちの保育園」を立ち上げたナチュラルスマイルジャパン株式会社の松本理寿輝氏が登壇。松本氏は子、親、祖父母の全世代が集まるコミュニティーのハブとして位置づけたユニークな保育園運営を行なっている。建築家として都市やコミュニティーの問題に幅広く取り組む藤村龍至氏とともに、理想的な都市のコミュニティーについて議論を展開した。

セッション終了後のラップアップには、小泉内閣を支えた経営学者の竹中平蔵氏が登壇。小池都政を総括しつつ、東京の成長戦略、都市を率いるリーダーシップについて語った。テクノロジー、アート、コミュニティー、行政。重なり合うさまざまなトピックの先に浮かび上がる「未来の東京」の姿とは?


構成:原光樹

落合陽一氏が語る、人間の思考を超えた「デジタルネイチャー」の世界とは?

「『テクノロジーとアートが変える未来の都市』落合陽一の考える理想都市とは」と題されたセッションI。株式会社ロフトワーク代表の林千晶氏が聞き手を務め、議論は落合氏が掲げるテーマ「脱近現代」の説明から始まった。

私たちが生きる近現代は、いわば「人間中心主義」の世界。言葉と数式を使い、「人間とは何か?」「人権とは何か?」を定義するなど、論理的に世界を捉えようとする価値観が中心となった社会だ。しかし現在は、その「人間中心主義」の世界が限界を迎え、大きなパラダイムシフトが起きようとしている。

たとえば、人工知能(以下、AI)はその顕著な例だ。膨大な情報を高速処理するディープラーニング技術は、その情報処理の過程から結果までを、もはや人間が理解できないレベルで行なっている。論理や科学の力で世界を捉えようとしたのが近現代だったが、脱近現代では人間を超越したコンピューターサイエンスの力で世界を読み解こうとする。落合氏はこのパラダイムシフトを、仏教用語を用いて説明した。

落合陽一氏

落合陽一氏(以下、落合):ディープラーニングが主流となったいまのコンピューターサイエンスでは、「人工知能がある問題を解いてから、その証明を学者が行う」という順序で情報処理を行なっています。近現代までのように人間が問題を解いてから、それをコンピューターが計算するという順序とは正反対です。ここ5年のコンピューターサイエンス業界で起こっている一番大きな変化であり、「脱近代」の世界へと移行しつつある象徴だといえます。これは仏教、華厳宗で唱えられている「事事無碍法界(じじむげほっかい ※1)」に通じる世界の捉え方です。モノと機械がつながり、その各々の結節点、部分が全体をも包括しうる。その過程で人間の理性についての議論や標準化についての議論が時代遅れに近づく。

林千晶氏(以下、林):落合さんは、そういった人間の理屈では捉えきれない領域を「デジタルネイチャー」と呼んでいますね。先日お会いした、東京大学で人工知能を研究している松尾豊先生は「これから人工知能は人間が理解できない言語を生み出し、物事を解決していく」とおっしゃっていました。

※ 1:事事無碍法界とは世界のあらゆる事物がすべてつなぎ合わさり、作用し合あっているという仏教思想の一つ。対する「理事無碍法界(りじむげほっかい)」はあらゆる事物の背景には理(ことわり)との関わり合いがあるという思想のこと。落合氏はそれぞれを「脱近現代」「近現代」の世界観に通じる例えとして述べた。

林千晶氏

近現代が生んだ「差別」の問題をテクノロジーで解決する

落合氏は「人間」という定義が近現代の産物であるとしたうえで、一度それをすべて捨てるべきではないかと説く。なぜなら、このような世界の捉え方がダイバーシティの軽視につながり、あらゆる差別問題を生んだ一因でもあるからだ。たとえば、20世紀までは「白人こそが標準的な人類」という理屈により黒人は公民権を失っていた歴史がある。脱近現代へのパラダイムシフトは、このような問題をさらに解決するカギになるという。

落合:ぼくが「事事無碍法界」の話を主張すると、偉い学者の人に「君たちは、血みどろの歴史があって人権が定義されたことを忘れているんだ」と言われることがあります。たしかに近現代は「理事無碍法界」のような関係性による世界観によって発展を遂げましたが、その中で標準化が生んだ差別の問題も同様に根深いと思うんです。

ジェンダー間、障がい者などの差別問題は、いまの時代においても根深く残っていますよね。「健常者」という概念があるからこそ、そこに属さない「障がい者」という概念が生まれ、「男」と「女」という区分が「LGBT」という言葉を生みました。こうしたカテゴリーが「マイノリティー」をつくりだし、少数派に属する方々のダイバーシティが軽視されることとなるのです。

自身の研究がすべてダイバーシティの問題につながることに、ある日気がついたという落合氏。現在は脱近代的である「事事無碍法界」の価値観に依拠した問題解決を強く意識しているという。たとえば、彼の作品である『Holographic Whisper』は、空間のある一点に向けて音を放出できる超指向性スピーカーだ。

「Holographic Whisper」

空間の数か所に異なる音声を同時に出力する技術を用いれば、音声によって位置情報を伝えることが可能だ。つまり目が見えない人がある空間を移動する際に「あなたはいまここで合っています」と伝えることで歩行を補助することができる。この作品に関しては2017年1月に行われた『HIP Fireside Chat 2017』で落合氏が詳しく説明してくれた。

「AIで1人の人間をつくりだす」。テクノロジーで切り開く、落合陽一流の「日本復興戦略」

さらに落合氏は、こうしたダイバーシティにおける問題を解決することで、人間の代替となるAIを開発し、人口減少によって引き起こされる問題をクリアできるという持論を展開した。

落合:足がない人には最先端の機能が搭載された義足が装着され、盲目の人は音で空間を把握できるようになり、耳が聞こえない人の目には字幕が映し出されるようになる。このようにテクノロジーを用いて人々のハンディキャップを解決し続けていけば、人間が持つ能力のすべてが、代替可能な技術としてラインナップされるはずです。さらに認知症も解決できれば、脳の機能補完のためのシステムをつくることもできるかもしれない。それらを垂直統合すれば、1人の人間に相当するだけの機能を持ったAI基盤環境を生み出せます。

世界でも稀にみる人口減少社会の日本ですが、移民を受け入れずともこのようにテクノロジーを発展させることで生産性を高め、経済成長することが可能です。これを我が国の首相は「人口減少ボーナス」と呼びました。移民の受け入れが困難な島国に住む私たちだからこそ機械化のロジックを正当化し、その先の発展をみることができるのです。

ダイバーシティの問題を解決した先に、日本のとるべき「復興戦略」のシナリオが見える。テクノロジーがもたらす都市発展の可能性が示されたところで、白熱したセッションは幕引きとなった。

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若者と高齢者をつなぐ、コミュニティーのハブを目指す「まちの保育園」

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