東京都知事に求められるダイナミックなリーダーシップのあり方。竹中平蔵氏が語る。
2つのセッション終了後のラップアップに登壇したのは、小泉政権時代に規制緩和政策を推進した竹中平蔵氏。「小池都政をどう評価しますか?」というNewsPicks編集長、佐々木紀彦氏の問いかけで議論は始まった。
竹中平蔵氏(以下、竹中):昨日まで出張先のドバイ、ナイロビに行っていたのですが、日本に帰ってきたあとに築地市場移転のニュースを見て、ちょっと乱暴な言い方ですけど「豊洲と築地なんてどっちでもいいな」って思ったんですよ。もちろん重要なトピックだと思いますけれども、私たちが食べるもののうち、築地市場などを通っているものって、どんどん比率が低下しているわけです。イオンなどの企業は自社で仕入れ先を確保し、流通網を構築しているわけですから。
グローバル社会のなかでそういった企業が増えていくなかで、築地の問題が、10年後、20年後の東京のあり方に決定的な影響を与えるとはとても思えないんですね。もちろん安全性は重要なんですけれども、日本全体が大騒ぎするような話では、まったくないと思います。豊洲の安全性を確認してから移転します。そのためにしっかりと後処理をします。もうそれ以外にない。築地のような問題に固執するのではなく、もっと大きな視点から議論するべきトピックがリーダーにはあるはずなんですよ。
佐々木紀彦氏(以下、佐々木):地方の方にとってもこれほど毎日、全国ネットのマスメディアで築地の話をされているのは迷惑ですよね。これは都政というよりメディアの問題でもありますが。
民間企業が中心となって運営される「トランジットモール化した都市」
リーダーに本来求められる役割は、戦略的なアジェンダを設定し、旗を掲げることと語る竹中氏。「小池都知事にぜひ取り組んでほしいアジェンダはありますか?」と質問が向けられると、「都心部のトランジットモール化」「公共施設の民間への解放」の2点を挙げた。
竹中:1つは、銀座・新宿・渋谷・池袋といった都市から自家用車をすべて締め出し、電気自動車のバスを走らせるトランジットモール化を推進すること。東京は歩いて暮らせるエコな都市になります。
トランジットモールとは自家用自動車の通行を制限し、公共交通機関だけが優先的に通行できる形態の歩車共存道路のこと。アメリカのオレゴン州ポートランドなどの都市で導入された例が有名だ。
竹中:もう1つは、公共施設を民間企業に解放することです。申し訳ないけれど、公務員が自分たちの力だけでテクノロジーやアートを活用した改革案を実行しても上手くいきません。民間のスペシャリストの方々と協力し、たとえば、すべての地下鉄をバリアフリー化するだけでも世界で突き抜けた存在になれます。東京は資産の塊ですから。
世界一の都市になるために必要な3つの改革。カギは、民間企業への規制緩和。
竹中氏の提唱により始まった「世界の都市総合力ランキング」(森記念財団 都市戦略研究所)は、世界を代表する主要42都市を「経済」「研究・開発」「文化・交流」「居住」「環境」「交通・アクセス」といった6つの項目、約70の指標に基づいて評価をするもの。2016年度のランキングでは、東京は世界第3位だったが、竹中氏は「3つの要素を改善すれば、東京は1位になれる」とそのポテンシャルの高さを主張した。氏が改善すべきと話したのは以下の3項目である。
1. 法人税を安くすること
2. 空港へのアクセスを便利にすること
3. 民間企業に対する規制緩和を進めること
法人税の緩和により、企業活動を活発化し、空港へのアクセスを改善することで国内外の移動を活発化する。タックスヘイブンとして知られるシンガポールや、約350都市と直接の交通網をひいているロンドン・ヒースロー空港を引き合いに出しながら、日本のとるべき改革案を示した。なかでも重要なのは規制緩和だという。
竹中:イギリスとシンガポールに次いで、規制緩和政策である「レギュラトリー・サンドボックス」を日本が導入したことは画期的な動きだと思います。もともとはFintech(ファイナンス・テクノロジーの略。金融とITを掛け合わした分野のこと)の推進のために検討されていましたが、教育などといった他の分野にも適用できるはずです。こうした大局的な戦略を考えるのが、国や都市のリーダーに求められるガバナンスだと思いますね。
政府は今年6月9日に、「レギュラトリー・サンドボックス」にまつわる法案を閣議決定した。レギュラリーサンドボックスとは「砂場の規制」を意味する金融用語。政府が企業の要望などを踏まえて規制を一時的に停止し、革新的な事業を行いやすくする規制緩和策だ。テクノロジーが目まぐるしく発展する現代において、さまざまなテーマの知見を横断し、政治に活かしていくことが重要だとまとめ、竹中氏のセッションは幕を閉じた。
アート、コミュニティー、行政と多角的な視点から「未来の東京」について議論がなされた『HIP Conference vol.7』。一見異なるジャンルの話に見えるが、AIの発達、コミュニティー、規制緩和によるチャレンジできる場の創出など、根底に流れるテーマは共通している。東京が、これからの世界でどのような存在感を出すことできるのか。領域横断的に未来を見据える姿勢が求められている。