INTERVIEW
人間の脳をシミュレーションしたAI開発は既に可能— 「WIRED A.I. 2015 Tokyo Singularity Summit #1」イベントレポート(後編)
山川宏(ドワンゴ人工知能研究所) / 一杉裕志(産業技術総合研究所 人工知能研究センター) / 松田卓也(宇宙物理学者 / 神戸大学)ほか

INFORMATION

2015.11.10

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2015年は「人工知能(AI)」に関する話題が数多く登場した。未来学者レイ・カーツワイルは、「2045年にはコンピューターが人類の知能を超える」と予見し、その時点のことを「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼んだ。そのターニングポイントまで、あと30年。2015年現在、人工知能の開発はどのような状況にあるのか、本当にシンギュラリティは訪れるのか。

人工知能の可能性と未来の社会を考えるカンファレンス「WIRED A.I. 2015 Tokyo Singularity Summit」の模様をお伝えする。(この記事は「人間レベルのAI誕生まであとわずか?— 「WIRED A.I. 2015 Tokyo Singularity Summit #1」イベントレポート(前編)」の続編です。)

取材・文:HIP編集部 写真:DAIZABURO NAGASHIMA

人間の脳全体をシミュレーションして人工知能を開発することが可能に?

前編の記事でも触れた通り、人工知能には特定の目的のために開発された「狭い人工知能(Narrow AI)」と、人間のように思考する「汎用人工知能(Artificial General Intelligence、以下AGI)」の2つがある。2014年10月に設立されたドワンゴ人工知能研究所の所長・山川宏氏が登壇した「汎用人工知能はオープン・コミュニティから生まれるか?」のセッションでは、このAGIを機械学習と「認知アーキテクチャ」を組み合わせることで開発しようとしている彼らの試みについて紹介された。

山川氏の話す「認知アーキテクチャ」とは、人間のように思考し、行動するプロセスを作るための設計図のようなものだ。人間の脳全体のアーキテクチャに学び、脳の各器官をモジュールとして開発する。それらが機械学習をする。こうした「認知アーキテクチャ」を構築することで、人間のようなAGIを作る「全脳アーキテクチャ」というアプローチをとっている。

山川宏氏(ドワンゴ人工知能研究所)

「人間のようなAI:本質的危険性と安全性」のセッションに登壇した産業技術総合研究所 人工知能研究センターのAI研究者・一杉裕志氏は、山川氏と共に「全脳アーキテクチャ勉強会」というコミュニティを立ち上げている。彼らのミッションステートメントは、「脳全体のアーキテクチャに学び、人間並みの汎用人工知能を創る」だ。

一杉裕志氏「脳の研究に関しては、誤解されていることが非常に多いのです。実は既に膨大な知見があるので、人間の脳全体をシミュレーションすることが可能になっています。脳の知能に関係する主要な器官の計算論的モデルも、不完全ながら出そろってきています。その上で、これらの器官の間の連携モデルを考えるという、脳全体の機能の再現に挑戦すべき時期に来ています。」

人工知能開発は、研究者だけに留まらず多種多様な専門家との連携が必要

山川氏は、人工知能の開発にはオープン・コミュニティが有用であると話す。全脳アーキテクチャのアプローチでは、人工知能研究者が脳科学や神経科学など異なる領域の専門家とコミュニケーションをとることが必要となるため、既に多種多様な専門家との連携を始めているそうだ。

山川宏氏「汎用人工知能が社会に登場した際のインパクトは計り知れません。人間性、経済、法律、政治、社会など、さまざまな領域に影響をもたらします。これらのすべてに対応するのは技術者だけでは不可能ですので、関連する諸分野との連携は必須です。」

一杉裕志氏(産業技術総合研究所 人工知能研究センター)

「AI社会の未来図」のセッションに登壇したAI研究者のベン・ゲーツェル氏も、オープンソースでAGIを開発する「OpenCog」という取り組みを行っている。LinuxがオープンソースでWindowsやMac OSXに匹敵するOSを開発したように、オープンソースの強みを活かしてAGIを生み出そうとしているのだ。

人間のような人工知能の開発は、研究者だけに留まることなく、オープンに実行していくことがスタンダードになりそうだ。

人間生活を大きく変える、人間より知的能力の高い「超知能」の誕生

「シンギュラリティへといたる道」セッションに登壇した宇宙物理学者・神戸大学名誉教授の松田卓也氏は、「人間よりはるかに知的能力の高い『超知能』ができること」をシンギュラリティだと語る。

「超知能」とは、「全人類の知能を合わせたくらいのもの」だと松田氏は説明する。超知能により、科学技術は爆発的に進化し、人間生活が大きく変化する。これが、松田氏が定義する「シンギュラリティ」だ。

シンギュラリティが訪れるにはいくつかのステージがある。現在を基準にすると、2029年までの間に「狭い人工知能(Narrow AI)」が発展し、「汎用人工知能(AGI)」ができる。その後、2045年に世界はシンギュラリティへと到達する。これが、未来学者レイ・カーツワイルが描いたシンギュラリティへと至る道筋だ。

松田卓也氏「日本の少子高齢化による衰退を止めるためには、生産性の抜本的な向上が必要。そのためには、日本からシンギュラリティを起こさなければなりません。」

そう松田氏は会場に呼びかけた。「シンギュラリティ」と呼ばれるターニングポイントまで、残りあと30年。それまでに、日本はどんなアクションができるだろうか。

松田卓也氏(宇宙物理学者 / 神戸大学)

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