INTERVIEW
全アスリートを応援「Unlim」。博報堂DYMPや静岡新聞社らが描く未来
市川 貴洋(博報堂DYメディアパートナーズ) / 萩原諒(株式会社静岡新聞社)

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2021.02.12

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新規事業を動かすうえで、必要な覚悟。先が読めない時代において大事なもの

HIP:ミクシィ(アスリートフラッグ財団)の反応はいかがでしたか?

市川:良好でしたね。というのも、ミクシィさんもサービスを拡大していくにあたり、メディアの力を活用したいと考えていたようです。

実際に、新聞社やテレビ局にコンタクトを取ろうと試みたこともあったそうで。しかし、そうしたトラディショナルなマスメディアとの接点がないため、とてもご苦労されていたとおっしゃっていました。そんなタイミングだったこともあり、スムーズに協業の話が進みました。

今回はオンラインで取材インタビューを実施。写真は博報堂DYMPの市川氏

HIP:その結果、協業することになり、「スポーツギフティング×メディア」の取り組みとして、前述の「SHIZUOKA PRIDE」という企画が立ち上がったと。静岡新聞社としても新たなチャレンジですが、この事業をスタートさせる際、社内の承認を得るために何か意識したことはありましたか?

萩原:いろいろありましたね。特に新たな事業を始める際、会社としてはどうしても事業の将来性や収益の見通しを重視してしまうと思うので、社内説得はカギでした。正直、将来性が見込める事業だとしても、いまの世の中でどう転ぶかなんて誰もわからない。だから、情熱や責任感を持って動かしたい事業で、スピード感が必要な場面がきたとしたら、極論、動かしたあとに上層部に報告するくらいの覚悟を持っていたほうが良いと思うんです。

今回に関しては、ぼくが経営戦略というポジションだったこともあり、局長会義をなかば強引に入れて説得しました。以前「HIP」の記事で詳しく取り上げていただきましたが、現在の局長たちの多くがシリコンバレーでのブートキャンプを経験しており、「新しいことをやろう」というマインドセットになっていた。それがプラスに働いたのは大きいですね。

これまでの静岡新聞社だと躊躇して実現できなかったかもしれませんが、今回の取り組みを前向きに実施できたことで、弊社にとっても新たな一歩になったと思います。

HIP:実際に「SHIZUOKA PRIDE」の記事をつくるにあたって、何か新しい発見などはありましたか?

萩原:積極的に参加してくれるメンバーがいたのは、ポジティブな発見でしたね。たとえば、静岡放送の岡村久則アナウンサーは「コロナで苦しむアスリートの助けになるなら」と、自ら取材の調整をして選手へのインタビューを行うなど積極的に動いてくれました。

ほかにも、内々で「こういう企画があるんだけど」と話すと、多くの社員が興味を示してくれました。現業の都合で実際に参加することは叶わなくても、社内に熱い思いを持った人間がいるということがわかったのは、今後この試みを広げていくうえでも大きな収穫でしたね。

「本当は新しいことをしてみたい」と思っている人は、社内にまだいるはず。そういう人を見つけて巻き込むには、とにかくこちらの情熱を周知させていくしかないと思っています。熱量の部分では、社内の人間に伝えきれていない部分も多いので、もっと発信していきたいです。

オンライン取材時の静岡新聞社・萩原氏

協業のタイミングは、足りないピースが合致したとき。信頼関係の築き方が肝心

HIP:別々の会社で協業する場合、アポイントを取って打ち合わせなどを行うのが普通ですが、お二人はARCHで顔を合わせる機会も多いと思います。協業するうえで、気軽に直接コミュニケーションがとれる環境なのも、大きなメリットですね。

市川:そうですね。萩原さんが東京に来られる際は基本的にARCHにいるので、コミュニケーションは取りやすいです。ちょっとした確認や相談をしたいときも、すぐに話しかけられるので。

萩原:「SHIZUOKA PRIDE」のプロジェクトが大詰めを迎えていた昨年10月から11月は特に、ARCHだったからこそトントン拍子に進められたのだと思います。

また、ARCHはそれぞれの会社のなかでも「新規事業を担当する人」が集まっているというのがポイントですよね。みんな実際に行動を起こしている人たちなので目線が近いし、基本的にオープンイノベーションのマインドを持っている。

気軽に声をかけやすいから一緒に何かを始めやすく、実際に協業がスタートしてからも同じ熱量で、オープンかつフラットにぶつかり合えるのだと思います。

ARCH」内にあるカフェスペースでは、定期的に会員が登壇するピッチ大会を開催。会員同士のコラボレーションが生まれるきっかけになっている

市川:協業が始まるときって、互いの足りないピースが合致したタイミングだと思うんですよ。今回の萩原さんとのプロジェクトも、まさにそうでした。でも、いくら利害が一致しても、もともとの信頼関係がなければここまでスピーディーには事は運ばなかったとも思います。そういう意味では、普段から交流があるというのは大きいです。

HIP:そうした信頼関係を得るために、日頃から心がけていることはありますか?

市川:まずは「自分から与える」ということは意識しています。普段の会話のなかでさりげなく情報を提供するとか、何かを頼まれたらすぐに応えるとか。そんな日頃のコミュニケーションから信頼が生まれ、コラボレーションしやすい土壌ができるのかなと思います。

選手、ファン、メディアにとって意義のある、三方良しの取り組みにしたい

HIP:最後に今後のビジョンをお聞きします。まずは萩原さん、「SHIZUOKA PRIDE」の展望について教えていただけますか。

萩原:引き続き「SHIZUOKA PRIDE」の記事を配信するのに加えて、どこかのタイミングでコンテンツに対するユーザーインタビューを必ず実施したいと考えています。

これも以前の「HIP」の記事内でお話していますが、弊社の方針やビジョンを記した「静岡新聞社イノベーションリポート」を作成する際に、たどり着いた答えが「ユーザーファースト」。「ユーザーファーストで、変わり続けるのが当たり前の企業文化を身につける」とリポートには書いています。

ユーザーの一人ひとりが必要とする情報を届けて課題を解決するのがわれわれの役目であるからこそ、記事を読んで実際に寄付をしてくれた読者に話を聞き、その選手のどんな思いに共感したのか、しっかり深掘りする。それを「SHIZUOKA PRIDE」に限らず、静岡新聞社、静岡放送のすべてのコンテンツ制作に活かしていけたらと考えています。

HIP:そうなれば、まさにメディアにとっても価値のある取り組みになりますね。では、市川さん、今回の協業で実現したい未来を教えてください。

市川:アスリートにとってこの仕組みは単に寄付を得るというだけでなく、ファンの「想い」や「応援」を受け取るものでもあります。たとえば、たった100円の寄付金でも、それが小学生のファンが自分のお小遣いから100円を寄付してくれたとします。同じ100円を稼ぐこと以上に、そこに込められた想いや応援の気持ちが、選手としてはすごく大きなモチベーションになりますよね。

そんなかたちで選手とファンをつなげる、そこに新聞やテレビが一役買い、メディア自体も新たな発信の可能性を見出していく。そんな、三方良しの仕組みにしていきたいですね。そして、これを静岡県だけでなく全国に広げていきたいと考えています。

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プロフィール

市川 貴洋(博報堂DYメディアパートナーズ ビジネスイノベーション局 ディレクター)

SIerでのグローバルM&A・アライアンス、事業戦略等に従事した後、2018年博報堂DYメディアパートナーズ入社。現在は、スタートアップをはじめとした外部パートナーとのオープンイノベーションによる新規事業開発に従事。

萩原諒(株式会社静岡新聞社 社長室経営戦略推進部)

2008年、静岡新聞社・静岡放送に入社。東部総局(沼津)、東京、静岡にて新聞・テレビ・ラジオ・イベントの営業を経験。2019年10月より現職。既存事業の変革とともに、新規事業創出を実施、各事業の伴走者として走る。

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