全アスリートを応援「Unlim」。博報堂DYMPや静岡新聞社らが描く未来
市川 貴洋(博報堂DYメディアパートナーズ) / 萩原諒(株式会社静岡新聞社)
2021.02.12

相次ぐスポーツイベントの中止や縮小など、窮地に立たされているスポーツ界。多くのスポーツ選手が活躍の場を失うばかりか、経済的にも苦しんでいる。そんななか、アスリートやスポーツ関係者が直面する資金的課題を解決してくれるかもしれない、スポーツギフティングサービス「Unlim(アンリム)」がいま話題になっている。

2020年2月に始動した同サービスは、ミクシィが設立したアスリートフラッグ財団がサービス提供を行っている。現在は、博報堂DYメディアパートナーズ(以下、博報堂DYMP)と協業し、メディアとの連携によるスポーツギフティングのエコシステム構築に向けた協業プロジェクトを実施。その最初のメディア連携パートナーとして、静岡新聞社が参画した。

プラットフォーマー、広告代理店、メディアがそれぞれの強みを活かし、アスリートが目標や夢に向かって競技と活動に打ち込む環境を整備するために、どんな協業術を実践しているのだろうか。今回は、同プロジェクトを推進する博報堂DYMPの市川貴洋氏、静岡新聞社の萩原諒氏に、取り組みにかける熱い思いや協業のコツなどをうかがった。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
(※本取材はオンラインで行い、写真は提供画像を使用しています)

寄付金だからこその利点。アスリートに寄り添ったスポーツギフティングとは?

HIP編集部(以下、HIP):まずはUnlimについて教えていただけますか?

市川貴洋氏(以下、市川):簡単にいうと、自分が応援したいアスリートに寄付金としてお金を送ることができるサービスです。Unlimのプラットフォームを通じてアスリートフラッグ財団に寄付金をお送りいただくと、同額の「応援ポイント」が付与されます。そのポイントを選手に贈ることで、財団から選手に支援金が届けられるという流れですね。

メディアやSNSをとおして選手・チームの熱い想いを発信し、それに共感してくれたファンの寄付金が結果的にアスリート・チーム・スポーツ振興団体などに贈られるというのがUnlimのビジネスモデル。現在は120名ほどのスポーツチームや個人アスリートと提携している(2021年1月時点)(画像提供:博報堂DYMP)
博報堂DYメディアパートナーズ ビジネスイノベーション局 ディレクターの市川貴洋氏(画像提供:博報堂DYMP)

HIP:Unlimのウェブサイトではこの仕組みを「スポーツギフティング」と呼んでいます。一般的なクラウドファンディングとの違いは何でしょうか?

市川:クラウドファンディングは応援に対して何かしらのリターンで応える仕組みですが、Unlimのスポーツギフティングはあくまで「寄付」ですので、リターンはありません。つまり、選手が負担を負うことなく、競技に専念することができます。トレーニングに専念し、試合で良いパフォーマンスを出すことでファンに喜んでもらえる。

クラウドファンディングに比べ、よりアスリートに寄り添った仕組みであるといえますね。また、寄付金だからこそ、アスリートが幅広い目的で利用できるのも特徴です。

スキージャンプの高梨沙羅さん、総合格闘家の堀口恭司さんなど認知度の高い方から、アマチュアの選手まで幅広いアスリートが提携。寄付金の使われ方は、個人の活動費用や競技全体の環境改善、社会貢献活動など、アスリートの意向によってさまざま(画像提供:ミクシィ)

HIP:昨秋からは「メディアとの提携」に取り組まれているとうかがいました。どんな狙いがあるのでしょうか?

市川:Unlimを活用するうえで、メジャーなスポーツのチームや著名なアスリートであれば、自身のSNSなどで人を集められます。しかし、マイナーな競技のチームや選手は寄付を募ろうにも、認知度が低いために広くリーチできません。でも、実際に遠征費や活動費を必要としているのは、そういう選手たちが大半なんです。

そこで重要になるのが、マスメディアとの連携。新聞社やテレビ局、あるいはスポーツ関連のデジタルメディアといった媒体で提携アスリートにまつわるコンテンツを発信することで、多くのファンや読者、視聴者にアスリートの想いや活動を届けることができます。エンゲージメントを創出することで、Unlimを通じて寄付ができる流れをつくることが大きな狙いです。

また、スポーツとメディアは、相互作用によってお互いの価値を高めていくと考えています。Unlimとしても以前から一部メディアとの取り組み実績はあったものの、地域に縁のあるアスリートをフォーカスするような地方メディアとの連携は実施できていませんでした。その流れや仕組みを構築するために、最初のトライアルとして、静岡新聞社、静岡放送と一緒に「SHIZUOKA PRIDE」という企画を昨年12月に立ち上げました。現在までに2本のコンテンツを配信しています。

第一弾コンテンツでは、女子サッカーチーム「静岡SSUアスレジーナ」にフォーカス。所属選手へのインタビューで、現状の課題や今後のビジョンなど熱い想いを発信している

もともと同じような事業構想があった。競合ではなく、協業を選択した狙い

HIP:Unlimは設立当初から、アスリートフラッグ財団と博報堂DYMPの協同プロジェクトとして始動したのでしょうか?

市川:いえ、もともとはミクシィさんが新規事業として2020年2月に立ち上げたサービスでした。ミクシィさんはゲーム以外の事業の柱をつくるため、数年前からスポーツ関連の事業に力を入れています。そのなかで、アスリートを応援するアスリートフラッグ財団を設立し、Unlimの仕組みが生まれました。その後、2020年9月に弊社からミクシィさんに対して、パートナーシップのご提案をしたという経緯です。

HIP:博報堂DYMPが参画した狙いは何だったのでしょうか?

市川:博報堂DYグループはお正月の箱根駅伝をはじめ、Jリーグやプロ野球(NPB)などさまざまなスポーツコンテンツに関わるビジネスを行っています。スポーツとメディアは、いわば博報堂DYグループにとってド真ん中の事業です。

しかし、昨年からの新型コロナウイルスの影響でスポーツビジネスが大きな打撃を受けました。われわれも厳しい状況が続いていますが、それ以上に苦しんでいるのはアスリートです。パフォーマンスを発揮する場がなくなり、競技どころか生活すらままならないケースもある。

そんななかでも諦めずに頑張っているアスリートの姿や想いを多くの人へ届け、それが応援につながるような仕組みを博報堂DYMPでつくれないかと考えていたんです。

Unlimのサイト

HIP:ということは、同時に博報堂DYMPもUnlimのような仕組みを考えていたと。

市川:はい。Unlimだけでなく、ここ数年は投げ銭プラットフォーマーやクラウドファンディングの活用などがスポーツ業界でも盛んになってきており、われわれもこの領域で新しいビジネスを立ち上げたいと考えていました。

いろいろとベンチマークするなかで、ミクシィさんがアスリートフラッグ財団として立ち上げたUnlimに最も注目したのです。いちばんアスリートに寄り添った仕組みだと感じましたし、アスリートフラッグ財団のメンバーにバレーボールの朝日健太郎さん(現・参議院議員)や陸上の為末大さんをアサインするなど、スキームもしっかり確立されていた。

これらを自前でイチからつくるよりは、パートナーシップを組んでお互いの強みを補完しあったほうが賢明だと考えたんです。スポーツ業界やアスリートに対して同じビジョンを持っているのに、ライバルとして市場を奪い合うのではもったいない。だったら、協業して事業価値の最大化を目指したほうが良いなと。

HIP:とはいえ、多くの大企業ではまだまだ自前主義が根強いと思います。どのように社内を説得し、協業の選択を意思決定させたのでしょうか。

市川:早く協業の提案をしないと、ミクシィさん(アスリートフラッグ財団)がどんどんシェアを拡大して、当社のド真ん中の分野で強力なライバルになってしまうという危機感を即座に共有しました。

同時に、競合として戦うよりも、パートナーとして協業してしまったほうが絶対に良いはずだと伝えました。弊社がいままで培ってきたスポーツ業界やメディアとの関係性やノウハウなどをUnlimに活かすことができれば、われわれも新たなビジネスモデルのなかで必要不可欠な存在になれるかもしれませんと説得しましたね。

協業の提案を実現させるには? 具体的なイメージを示すためのパートナー選び

HIP:社内を説得したのち、ミクシィ(アスリートフラッグ財団)に協業を提案したと思います。どんな提案をされたのですか?

市川:協業によるシナジーで実現できることを示しました。ミクシィさんがゲーム事業で培ってきた、アプリケーションなどのプロダクトの開発力やエンターテイメントを生み出す力と、弊社の強みであるメディアとのリレーション、スポーツ業界とのネットワーク、マーケティングのノウハウなどを組み合わせれば、強力なスポーツギフティングのエコシステムをつくれるはずですという仮説をお話ししました。

ただ、提案で重要なのは、いかに具体的なイメージを示せるか。理想を語るだけなく、「どんなメディアや放送局と組んで、何ができるのか」という具体案まであったほうが、実現により近づくだろうなと思ったんです。そこで、並行して相談したのが静岡新聞社さんでした。

HIP:もともと静岡新聞社とは、つながりがあったのでしょうか?

市川:はい。弊社も静岡新聞社も、虎ノ門ヒルズのインキュベーションセンター「ARCH」の会員だったので、もともと交流がありました。特に静岡新聞社の萩原さんとは、ARCHのなかでよく顔を合わせていて信頼できる人だと感じていたんです。

静岡新聞社が新規事業にチャレンジしようと企業変革をされていることも知っていたので、同じ目線で取り組んでいただけるのではないかと。それに、「サッカー王国」と称されるなど、静岡にはスポーツが盛んなイメージもあるので、協業パートナーとしては最適です。静岡新聞社にとっても意義がある取り組みになったら嬉しいなと思って相談しました。

大企業の事業創出を支援する会員制インキュベーションセンター「ARCH」

萩原諒氏(以下、萩原):お話をいただいて、とても面白い試みだと思いましたし、ぼくらメディア側としても新しい報道のあり方を模索する良い機会だと感じたので、ぜひご一緒したいと伝えました。

新聞の取材や報道は、ジャーナリズムの観点からどうしてもファクトベースになる。そのため、試合の結果は載っていても、特定の選手の考えやストーリーを深掘りした記事はなかなか出せていません。だからこそ、地元・静岡に根ざしたチームやアスリートの思いを伝えるコンテンツを配信し、選手とファンをつないでギフティングを促すというのは、有意義なチャレンジになると思いましたね。

株式会社静岡新聞社 社長室経営戦略推進部の萩原諒氏(画像提供:静岡新聞社)

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