『2020年東京オリンピック・パラリンピック』のゴールドパートナーとなった株式会社LIXIL。住まいと暮らしに関するさまざまな製品やサービスを提供している同社は、オフィスや学校、商業施設といった公共の場における「パブリックトイレ」の課題分析にも力を入れている企業だ。
2016年、LIXILではLGBT(性的マイノリティ)のトイレ問題に関する意識調査も行った。どんな人でも快適に暮らすことができる東京の街に必要なパブリックトイレのあり方とは、どのようなものなのだろうか?
取材・文:市來孝人 写真:豊島豊
「トイレは用を足す場所」という既成概念から飛び出したい
HIP編集部(以下HIP):中村さんが所属されている部署では、どのような業務を手がけられているのでしょうか?
中村治之氏(以下中村):スペースプランニング部では「トイレという空間をどう作るか」という視点で、主にディベロッパーや設計事務所の方にご提案をさせていただいています。LIXILの前身の一つであるINAXにおいて、この部署が立ち上がったのが1980年代。当時は、水まわりがリビングなどと並ぶ重要な空間であるという構想を伝えるべく、『第3空間』という冊子を作っていたんです。
HIP:「たかがトイレ・バス、されど人間空間」というコピーが印象的ですね。当時、トイレとはどのような場所として捉えられていたのでしょうか?
中村:まだまだ当時は「トイレは用を足す場所」という認識でしたね。そうした既成概念から飛び出そうという思いがINAXにはあり、1987年にアーク森ビルさんの最上階に世界のトイレを展示するショールームを開設、1988年には、松屋銀座さんのトイレを「用を足すだけでなく、くつろげる空間」としてご提案しました。
2000年代に入ると、いわゆる「2003年問題」とも言われた、オフィスビルが大量に供給される時代がありました。そのような環境下で、どれだけ他のオフィスビルと差別化して競争力を高められるかという点が開発事業者の視点からも重要視されるようになりました。それからオフィスのトイレ空間のご提案がだいぶ受け入れられるようになり、2010年代には「オフィスのトイレはキレイなのが当たり前」というところまで来たという実感がありますね。
日本においては、「トイレの居室化」がキーワードに
HIP:トイレ空間の重要性が認識されるようになったのは、意外と最近のことなんですね。現在のトレンドとして挙げられる点はありますか?
中村:バリアフリーという点で、多機能トイレだけではなく一般のトイレのなかにも車いすが入れるように設計したり、お子さま連れの配慮をしたりなど、快適かつ多目的に使えるようなトイレ空間作りに力を入れていることが多いです。
また、日本においては、「トイレの居室化」がキーワードとして挙げられるのではないかと思います。海外だと、防犯上の観点から足元を空けて見えるようにしていますが、日本では隣の音が聞こえないようにするなど、できるだけ個室化をしようという動きが進んでいますね。
HIP:やはり、日本独自のトイレの発展、という面もあるのでしょうか?
中村:日本人の「家にお客さんを招くときにちゃんとトイレをキレイにしておこう」という感覚は、オフィスなどパブリックな空間でも活かされているように感じます。テナントさんがオフィス選びをするときに、トイレや給湯室などの水まわりをオフィスの外観以上にチェックしている傾向もあるそうですし。そのような環境や居心地というものに対して、日本は特に注力しているのではと思いますね。