INTERVIEW
未来のトイレはどうあるべきか? バリアフリーからLGBTまでを考える
中村治之(株式会社 LIXIL ジャパンマーケティング本部 セールスプロモーション統括部 スペースプランニング部 グループリーダー)

INFORMATION

2016.12.27

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五輪に向けトイレのニーズの調査をしていくなかで知った、LGBTの方の需要

HIP:御社は2016年4月に、NPO法人虹色ダイバーシティと共同でLGBTなど性的マイノリティの方のトイレ問題に関する意識調査も実施されています。これはどのような経緯から行ったのでしょうか?

中村:2020年の『東京オリンピック・パラリンピック』には、外国人の方が多く訪れます。なので、パブリックトイレの利用者が変わる機会になると捉え、どのような配慮をしたらいいか考え直すことにしたんです。そこで外国人の方のトイレに関するニーズの調査を進めていくなかで、LGBTの方の需要があるということを知り、どういった配慮をしていくと良いかのデータがなかったため、虹色ダイバーシティさんと共同で意識調査を実施しました。

HIP:調査結果からどのようなことが見えてきましたか?

中村:LGBTの方に対して、「LGBTの方用のトイレを作る」ということではないなと感じています。LGBTといってもカミングアウトされない方などいろんな方がいて、「この解決方法がいい」とすべての方に当てはまるわけではないですから。

また、男女共用の「多機能トイレ」には、車椅子の方以外は使いづらい印象がありますが、たとえば、オストメイト(人工肛門・人口膀胱を付けた人)のように外見では障害がわからない方のニーズもありますし、男女共用になっているおかげで、異性の介助が必要な方や、父親も含めたお子さまのおむつ替えをするために利用される方のニーズもあります。いろんなニーズを持つ方が、普通に使っていただけるようなトイレにしていくべく、ご提案していきたいですね。「誰でも使える多機能トイレ」を増やすというご提案が最善の解決になるかどうかも、いろんな方のご意見を伺わなくては決められないことだと思います。

HIP:誰もが使いやすいトイレ空間を作っていくためには、丁寧な調査やヒアリングが重要なんですね。

中村:そうですね。メーカーとして最適なトイレ機器を提供するだけでなく、建物を作られる方々に適切な判断をしていただけるように、こうした利用者の意識調査のデータをご提供し、モデルプランのご提案をしていくことが、弊社の役割と考えています。建物全体を設計していくなかで、トイレにかけられるパワーというのはやはり限られているんですよね。ただ、トイレを利用する価値は確実に上がってきているので、プロの設計の方でも迷われる方が多い。そのなかで、私たちのような製品やサービスを提供する企業が持っているノウハウをご提案することで、より良いトイレ空間の設計ができるのではと考えています。

プライベートとパブリックの中間にあるからこそ、「もやっと」ポイントも多いトイレ

HIP:御社の提案資料には、「トイレを着替えに使っている方が約4割」など、「なるほど」と思わせられるデータが並んでいますね。

中村:トイレは、プライベートとパブリックの中間にあるような、独特な立ち位置の場所なんですよね。歯を磨いたりお化粧を直したりと、プライベートなことも行う空間です。だからこそ、利用者が「もやっと」するポイントも多い。調査をしてみると、たとえば男性でも手荷物の置き所を気にしていることや、外国人にも男女共用トイレに抵抗がある方が少なくないことなど、どんな人が何に「もやっと」思っているか、ニーズがちゃんと見えてきます。イノベーションを起こすための根幹は、やはりユーザーの声に真摯に耳を傾けることなんですよね。

HIP:ユーザーの方に耳を傾け、提案に反映されるときに意識されていることはありますか?

中村:変わったことを提案するというより、ユーザーが快適に使っていただける提案をするよう意識しています。たとえば、どんなに工夫してデザインされたトイレのサインマークも、1年後にサインマークを説明する張り紙がされることもある。これは、設計者にとっても利用者にとっても不本意ですよね。両者のずれがないように、敏感にニーズを察知し、提案するようにしています。そのためにも、私たちの部署では新しい施設のトイレを積極的に体験しに行って、気づいたことを社内で共有しているんです。ヒアリングだけでなく、実際に自分が利用者として体験してみることは気づきが多いですね。

まだまだ課題の多いパブリックトイレ。全国的に発展させていくためには何が必要か?

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