サントリーに根づく「やってみなはれ精神」。少数精鋭のスタートアップ共創術
鈴木雄一(サントリーホールディングス株式会社 事業開発部 課長SUNTORY X START-UP TEAM) / 阿部出氏(サントリーホールディングス株式会社 事業開発部 SUNTORY X START-UP TEAM)
2019.08.30

サントリーはビジネス基盤をさらに強固なものにするべく、2017年頃からオープンイノベーションにチャレンジしている。その先陣を切る部隊が「SUNTORY X START-UP TEAM」だ。

たった4名で構成されたチームながら、わずか半年で約90社の有望なスタートアップと接触。さらに、実証実験に持っていくまでのスピードを早めるべく、チームには一定の決裁権が委ねられているという。大企業において、これだけの独自決裁を少人数のチームに与えられるケースは珍しい。

その背景には、サントリーに根づく「やってみなはれ精神」があるそうだ。サントリーホールディングス事業開発部の「SUNTORY X START-UP TEAM」に所属する鈴木雄一氏と阿部出氏に、スタートアップとの共創に必要な「情熱」を保つための秘訣を訊いた。


取材・文:末吉陽子 写真:柏木鈴代

きっかけは社長からの「やってみろ」。サントリー初のオープンイノベーションが誕生した背景

HIP編集部(以下、HIP):サントリーのスタートアップ共創プロジェクト「SUNTORY X START-UP TEAM」が立ち上がった経緯を教えてください。

鈴木雄一氏(以下、鈴木):きっかけは、現社長の新浪剛史の「やってみろ」という一言でした。以前、ローソンの代表を務めていた新浪は、シリコンバレーのベンチャーに投資して新たなサービスをつくりあげていました。その経験を活かして、同様の仕組みをサントリーでも展開できないかと考えたようです。

サントリーでは、10年ほど前から研究領域でアカデミア中心に技術探索することはありましたが、スタートアップと共創した経験はほぼゼロでした。ですが、2016年にシリコンバレーのベンチャーキャピタルへの出資を皮切りに、スタートアップとの共創を模索し始めました。

飲料業界全体を見ても、オープンイノベーションに取り組む企業はまだまだ少なかった。だからこそ、いまのうちにわれわれが先陣を切ろうということで、日本のスタートアップとの共創を目指し、2017年にこのチームを発足しました。現在は「健康」と「酒」に関する領域をはじめ、シナジーを感じる分野のスタートアップとの共創を推進しています。

サントリーホールディングス株式会社 事業開発部 課長SUNTORY X START-UP TEAMの鈴木雄一氏

HIP:具体的にどんな活動を行っているのでしょうか?

鈴木:弊社にはないアイデアや技術を持ったスタートアップと直接お会いし、事業共創につなげています。シリコンバレーのベンチャーキャピタルを通じて探索活動を実施したり、イスラエルのエージェントと新たに契約して、現地のスタートアップと面談したり。国内外問わず活動してきました。

とはいえ、事業の共創を現実的に考えると、まずは国内のスタートアップと取り組んだほうがお互いに動きやすいと思うので、最近はより国内に絞って探索活動をしています。

失敗を繰り返しながら、精度を高める。スタートアップ共創のカギは独自決裁にあり

HIP:現在はどんな技術を持ったパートナーを求めていらっしゃるのでしょうか?

阿部出氏(以下、阿部):「健康」領域であれば、サントリーには体脂肪を減らすのを助ける「伊右衛門 特茶」などを開発した実績とノウハウがあります。それを活かして、身体の状態や健康リスクを計測し、人の行動変容を促すようなアイデアとスキルを持つスタートアップと連携できれば、面白いものが生まれるのではと考えています。

「酒」の領域ですと、「飲み方」に注目しています。最近は「若者の酒離れ」が加速していて、データでも飲酒習慣の下降が明らかです。サントリーにとってお酒は主要事業のひとつなので、若者にもっとお酒の魅力を伝えていく必要がある。ですので、これまでにないお酒の飲み方やシチュエーションなどを創出したいんです。そういったアイデアを保有するスタートアップとの出会いは喫緊の課題ですね。

両領域とも、共創の可能性がありそうな企業に1社でも多く出会いたいので、探索活動は続けていく予定です。そして、そこから事業開発につなげるためにも、PoC(Proof of Concept / 実証実験)に注力しています。

サントリーホールディングス株式会社 事業開発部 SUNTORY X START-UP TEAMの阿部出氏

HIP:ちなみに、探索活動からPoCにつながった成果は何件くらいあるのでしょうか?

鈴木:2018年は84社のスタートアップと面談し、うち7社とPoCを行いました。PoCにつながるかは、ご縁やいろいろな兼ね合いもあるので、まずは母数である面談数を増やすことが大事。2019年に入ってからは、半年間で昨年の面談数を超えました。

HIP:かなりの数ですね。面談からPoCにつなげる際はその都度、経営層に稟議を上げているのでしょうか?

鈴木:いいえ。決裁や報告の経路を簡潔にして、基本的にはチームの判断で動けるようにしています。ですので、いわば独自決裁です。事業共創するうえで大事なのは、意志決定の工程を短縮し、PoCをいかに早く、数多く実施するかということ。

そのために、PoCを含む年間予算がチームに割り当てられていて、われわれは「その枠内であれば、自分たちで判断して動いていい」という承認を会社から得ています。

誰もしていないことを、やり続ける。サントリーに根づく「やってみなはれ」の精神

HIP:サントリーのような大企業において、これだけの少人数チームに独自決裁の権限が与えられるケースは珍しいですね。

阿部:そうですね。もちろん、大きな事業になれば、経営層まで事業計画を立てて稟議を上げなければなりません。しかし、このチームは「いきなり大きな事業を手掛けること」を目標に発足したのではありません。むしろスタートアップと一緒に、いちからコツコツと事業を育てていくことが目的なんです。

だからこそ、小さな仮説から検証、テストまでの一連作業を、スピーディーに繰り返すことを第一にしています。小さな失敗ならやり直しがききますし、その教訓が技術とノウハウにもつながります。大きな事業で一発の成功を狙うよりも、地道な経験を積み重ねたほうが、のちに確かな財産になると考えています。

鈴木:また、PoCはとにかく繰り返しが大事なので、少額からすぐにスタートするようにしています。必要な費用は必ずわれわれサイドが捻出します。お互い少額であれば動きやすいですし、リスクも少ない。実績や工数を振り返って結果が乏しい場合、ダメなものはダメだと速やかに見極めることもできます。

ただ一方で、ある程度継続することも大事です。継続し続けることで、別の可能性を見出せることもありますからね。

阿部:「やってみないとわからないこと」にチャレンジするのが、われわれのミッション。これまで誰もしていないことをやるので、机上で計算しても意味がないわけです。お金をかけずにPoCをやり続けるのも、少人数で動きやすいチーム編成にしているのも、「とにかくやってみる」を実践できる環境にしたいからです。

HIP:未知な分野にも果敢に挑戦する姿勢は、サントリー創業者の鳥井信治郎氏の口癖だった「やってみなはれ」にも通じますね。

鈴木:そうですね。その風土は、根づいていると思います。いわゆるベンチャースピリッツのようなものが根底にあるからこそ、実際にいくつものスタートアップとPoCを実現できているのかもしれません。

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「やる or やらない」の判断基準は、面白さ。そこから共創を加速させるための秘訣とは?

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