共創には、粗を探す必要はない。大切なのはキラリと光るものを見つけること
HIP:実際にこれまで、どのようなPoCを実施されたのでしょうか?
鈴木:たとえば、実験型料理教室「ハクシノレシピ」を提供している株式会社Hacksiiとの取り組みです。この料理教室は、レシピを使用せずに、子どもたちに料理をしてもらうというもの。そうすることで、自発的な疑問や好奇心を子どもたちに持ってもらうのが狙いです。
その料理用の素材として、子会社のサントリーフラワーズが自社開発している「本気野菜」を提供しました。「本気野菜」とは、野菜本来のおいしさを追求し、家庭菜園向け野菜苗と青果商品でシリーズ展開する野菜ブランドです。そのラインナップのなかには、生で食べるより加熱すると非常においしくなるトマトなど、珍しい野菜もあります。
このような特徴のある野菜が実験型の料理教室の素材に適したことと、「本気野菜」の認知度向上を図りたいサントリー側の意向がマッチして協業につながりました。両社の今後にとっても有意義な取り組みでしたし、お互いのシナジーが発揮された事例ですね。
鈴木:ほかにもインバウンド向けの動画配信サービスを手掛ける株式会社レアリスタと組んで、サントリーグループのダイナック系列の店舗を紹介する動画を制作したり、生体計測の技術を持つスタートアップ数社と共同開発に取り組んだりと、順調に意義のあるPoCを実施できています。
HIP:面談からPoCにつながった企業に共通していることはありますか?
鈴木:最初の打ち合わせでイメージが膨らんだものほど、実際にPoCに進む確率は高い気がします。それには、まず私たちが面白いと思えるかどうかが大事で、PoCを行うかの判断基準にもなっています。継続していくためには、情熱が必要ですからね。自分たちが面白いと思えなければ、その熱は生まれないと思います。
HIP:「面白さを感じるか」を判断基準に据えるとなると、やはり少人数だからこそのスムーズさはありそうですね。関わる人数が多いとツッコミ量が増えるばかりで、決断が先延ばしになりがちな気もします。
鈴木:大企業の考え方や価値観でスタートアップをツッコもうと思ったら、いつまで経ってもPoCに進めないと思います。お互いの技術にしても会社の体制にしても、状況や環境はまったく異なります。でも、だからこその共創なんです。粗を探すのではなく、何かキラりと光るものがひとつ、ふたつあることが大切だと思っています。
社内に必要な「感度のいい人」。共創をさらに加速させるための秘訣とは
HIP:今後、さらに共創を加速させるにあたり課題感はありますか?
鈴木:もっと多くの人にわれわれの活動を知ってもらいたいですね。社外の認知が広まれば、面談数を増やすことができ、PoC件数の増加につなげることができる。そこから、事業化していくためには社内の協力者も必要不可欠です。
そこで、社内外へアプローチするために先月からサントリーのコーポレートサイト直下に「SUNTORY X START-UP TEAM」のブログを設置して、活動状況を投稿するようにしました。
鈴木:このブログを見てくれたスタートアップやベンチャーキャピタルの方々と、つながれたらいいなと思っています。また、社内にはこうした取り組みがあることすら知らない人もいます。もっと啓発活動を実施して、社内の認知度も高めていきたい。「スタートアップと一緒にこういうことができるんだ」と、多くの社員に知ってもらいたいです。
阿部:特に、社内の「感度がいい人」には発見してもらいたいですね。ここでいう「感度がいい人」とは、「スタートアップとの共創に可能性を感じている人」のこと。既存事業のバリューアップにつなげるためには、関わる人の「感度」が重要だと思っています。
サントリーグループ全体では、「スタートアップと連携して新しいものをつくっていく」というマインドがまだまだ足りないと感じます。その意識を少しずつ変えていくためにも、まずは「感度のいい人」に共感してもらいたいです。
そのうえで今後は、事業化やスタートアップへの直接投資などのアクションにもつなげていきたい。PoCの次のステップにつながる案件や実績をつくりたいですね。
やる気のない担当者からは、何も生まれない。肝になるのは、情熱と実行力
HIP:多くの「感度の高い社員」に活動内容を知ってもらうことで、さまざまな既存部署とのシナジーが生まれそうですね。
鈴木:そうですね。ただ、たとえこちらから、この部署とシナジーがありそうだと思ってスタートアップの案件を持っていったとしても、案件に興味のない人が担当だと、結局物事は動きません。だって、既存の仕事も抱えているのに、興味関心のない仕事をしたくないのは当然ですから。それだと、お互いにメリットがありませんし、共創も生まれません。
むしろ、われわれみたいなチームがいなくても、各部署が自立的にスタートアップと共創し、より良いサービスや製品を生み出せるようになるのが本当は理想なんです。その第一歩として、「感度がいい人」や「面白いことに情熱を傾けられる人」をもっとこのプロジェクトに巻き込んでいきたいですね。
HIP:最後に、今後のビジョンをお聞かせいただけますか?
鈴木:健康についていえば、健康への関心が小さい人でも行動変容が起きるような、新しい技術やサービスを展開したいですね。酒についても新たな飲用シーンなどを若い人に向けて提示したいと思っています。
どんな案件にしても、まだ誰もやったことがない、やり方も知らないので、チャレンジの連続です。そこにこのプロジェクトの面白さを感じます。今後もスタートアップの皆さまと、良い意味で社会を驚かせるような取り組みを実現していきたいですね。
阿部:繰り返しにはなりますが、今後も社内外にわれわれの活動や情熱をアピールしていきたいです。私たちも、スタートアップと会ってみると「こんなことができるんだ」と気づかされることがたくさんあります。そうした気づきがグループ全体に広まると、サントリーはもっと高みを目指せると思うんです。
新しいものを取り込めばビジネスの仕方が変わりますし、商品やサービスの開発速度もさらに加速するはず。われわれの取り組みを通じて、社内外にいい影響を与えていきたいですね。