INTERVIEW
イケメンATMって一体?開発メンバーが語るセブンコンシェルジュの裏側
吉田南 / 林芙由実 / 正岡佳子

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2018.07.30

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「現金をお受け取りください」。ATMの取引案内といえば、一般的には女性の声と相場が決まっている。そんな常識を覆すのが、セブン銀行の「セブンコンシェルジュ」プロジェクトだ。乙女ゲーム(男性キャラクターとの恋愛を楽しむ女性向けゲームの総称)に登場するようなイケメンキャラがATMのモニターに表示され、コンシェルジュのように取引案内をしてくれるという(2018年8月から台数限定、都内数か所で展開予定)。

また、スマートスピーカー「Amazon Alexa」と連携することで、自宅でのネットバンキングでもキャラクターとのコミュニケーションが可能。キャラクターは7人で、前野智昭さんや小野友樹さんといった人気声優を起用。2018年8月には『コミックマーケット(通称コミケ)』への出展も予定している。

「いつもよりちょっと特別、ちょっと楽しい銀行取引」をコンセプトに展開された、金融とエンターテイメントの融合プロジェクト。成し遂げたのは、三人の若手女性社員だ。といっても、社内のイノベーション担当者というわけではない。むしろ、これまでほとんど、新規プロジェクトに携わったことのない三人だという。

そんな、いわゆる「普通の」社員が、なぜこれまでに前例のないプロジェクトを立ち上げることができたのか。そして、お堅い業種という印象のある銀行が、なぜ「イケメン」をフックにしたプロジェクトを始動したのか。当事者の三人に話を聞くと、企業が新規プロジェクトを立ち上げる際に重要なヒントが詰まっていた。


取材・文:笹林司 写真:玉村敬太

イケメン×銀行。突飛なものを組み合わせるとイノベーションは起こりやすい

HIP編集部(以下、HIP):「セブンコンシェルジュ」は、乙女ゲームタッチで描かれたイケメンキャラクターがATMの取引案内を行う、非常にユニークなプロジェクトです。どのような経緯で生まれたのでしょうか。

吉田南氏(以下、吉田):セブン銀行は、提携銀行のキャッシュカードを利用した際に発生するATM手数料などの収益が売上全体の大半を占めています。しかし、お客さまのライフスタイルは刻々と変化しています。今後いつまでもそれだけに頼るのではなく、時代のニーズに合った新しい事業やサービスを提案する必要があると考えました。その一環として、「セブン・ラボ」というセブン銀行におけるイノベーション活動を推し進めている部署が先導し、Creww株式会社が提供しているオープンイノベーションプログラム「crewwコラボ」への参加を決めました。2016年のことです。

業務推進部 吉田南氏

吉田:「crewwコラボ」は、スタートアップと大企業とのオープンイノベーションによって新しいビジネスをつくり出すことが目的。スタートアップが新サービスや新規事業のアイデアを提案し、大企業が持つリソースを使って実現を目指すという仕組みです。その第2回目となる「crewwコラボ 2017」でセブン銀行がコラボレーションすることを決めたのが、ゲームイラストやマンガなどのコンテンツ制作や配信を行うスタートアップである、株式会社フーモアが提案したコラボ企画でした。

HIP:具体的には、どのような企画だったのですか?

吉田:フーモアが提案してくれたコラボ企画は、「イケメンコンテンツによる女性顧客の新規獲得および継続利用促進」というもの。最初はATMで実現するなどの具体的な内容ではなく、「男性キャラクターを使って、セブン銀行でなにかできないか」という提案でした。

一見、突飛なアイデアに見えますが、セブン・ラボによる「イノベーションは(既存の事業や社風から)遠ければ遠いところほど起こりやすい」という考えから、銀行とは一見縁が遠そうなこの提案とのコラボレーションを選んだそうです。

セブンコンシェルジュのPR動画

選ばれたのはイノベーションとは無縁の女性社員たち。共通項は「オタク」であること

HIP:なぜこの三人がプロジェクトに抜擢されたのでしょう?

林芙由実氏(以下、林):アイデアを採用したは良いものの、セブン・ラボには、女性をターゲットにした施策のノウハウもないし、男性キャラクターに対して造詣の深い社員がどこにいるかの情報も持っていなかった。そこでセブン・ラボが各部署の責任者に相談して、詳しい人材をスカウトするというかたちになったようです。

システム部 林芙由実氏

HIP:では、三人ともその方面にお詳しいということですね。

:そうですね。私はアニメやゲームが好きで、日頃から趣味として公言していたこともあり、上司から声をかけられました。

正岡佳子氏(以下、正岡):私も普段から『コミケ』に行ったり、声優が好きだったりということを上司に話していました。イベントに行きたいことを理由に有給を取ったこともあるくらい(笑)。それもあって、「やってみないか」という話をいただいたのだと思います。

お客さまサービス部 正岡佳子氏

吉田:私は俗に「2.5次元」といわれる、アニメを題材に、俳優がキャラクターになりきって演じる舞台が好きなんです。それは周りにも公言していたので、二人とほぼ同じ経緯で声をかけられましたね。

HIP:始めから、新規プロジェクトの中心メンバーになってほしい、という依頼だったのですか?

吉田:いえ。いまだから言えますが、最初は「コンテンツづくりを手伝って」というだけのお話でした。だから、そこまで重く受け止めず参加したんです。

林・正岡:私たちも同じです(笑)。

HIP:では、とくに不安などもなく?

正岡:いえ、やはり初めてのことなので、不安がないわけではありませんでした。私たち三人とも、「セブンコンシェルジュ」という新規プロジェクトの専属というわけではなく、通常業務も兼務しているんです。それもあって最初、「結構、ハードになるかも」と思いました。ただ、自分の趣味や好きなことが仕事につながって、お客さまにもその楽しさを提供できるのならチャレンジしてみようという気持ちもあったので、「やってみよう」と決意しました。

「イケメンコンシェルジュ」が搭載されたATMの操作画面。ATMごとで案内してくれるキャラクターが異なる

:私は少し抵抗がありました。プロジェクト自体は、弾けた内容でインパクトもあるので、実現すれば、銀行をお客さまに身近に感じてもらえるチャンスだと理解はできました。でもやっぱり、趣味と仕事は分けていたいですよね(笑)。

吉田:私は、「セブン銀行で『男性キャラクターコンテンツ』ってどういうこと?」といった戸惑いのほうが大きかったです。もちろん、面白い取り組みだということは理解できました。ただ、自分がそういった分野に強い思い入れがあるので、同じくアニメや声優、乙女ゲームが好きな、ある意味尖ったお客さまに受け入れてもらえるコンテンツをつくれるのか、不安はありましたね。

不安だらけのプロジェクト。三人のためにセブン・ラボが行ったサポートとは?

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