「銀行口座に愛着がない」という課題に対して、アニメや声優が有効だと気づいた。
HIP:プロジェクトが始まる前は少なからず不安もあったなかで、実際に始まってみてからはいかがでしたか?
正岡:始まった当初は、理想のキャラクターを考えたり、どの声優さんにお願いするかを話し合ったりして、すごく楽しかったんです。ただ途中で、最終的にお客さまが利用するもの。自分たちの好き嫌いだけではなく、プロジェクト自体のコンセプトや目標を立てたうえで、世界観をつくり上げる必要があると気づいたんです。そもそもATMで実行するかどうかも決まっていなかったので、その話し合いは本当に大変でした。
ただ、キャラにはすごく愛着がある。母性といってもいいかもしれません(笑)。「この子たちをこの世に生み出してあげなきゃ」という強い思いがあったので、何とか頑張れましたね。本当に好きなことでなければ、途中で投げ出していたかもしれません。
林:「セブンコンシェルジュ」のプロジェクト自体のコンセプトや目標を考え始めた頃から、「キャラクターだけじゃなくて、新しいプロジェクトをゼロからつくっている」という実感が生まれてきましたが、その分負荷も増えました。しかも、なかなかコンセプトが固まらず、半年以上かかっても最終的な方向性が見えなかったときは、もうめげそうになりました。それでも、キャラを考える楽しさがあったから頑張れましたね(笑)。
吉田:コンセプトをつくるところまでは、まさに産みの苦しみ。企画書だけで10本以上は書き直したと思います。当初はATMではなく、アプリをつくる案もありましたし、ドラマをつくるなんて話も。そこまで迷走したのも、最初は単純に新規口座開拓のために、キャラクターをどう利用するかという考えがベースにあったからだと思います。でも、セブン銀行が抱える課題を考えるうちに、だんだんと目指すべき道が見えてきたんです。
HIP:その課題とはなんですか?
吉田:セブン銀行に限らないのですが、口座に愛着がない利用者が多いことがあります。ヒアリング調査をすると、多くの人は「最初のアルバイト先や勤務先で指定された」とか「親にすすめられた」といった回答で、特にその銀行にこだわりなく口座を開設していることがわかりました。厳しい表現でいえば「どこで開設しても同じ」と思われている。大切なお金を守って、場合によっては一生のおつき合いになる口座選びが、これではいけないと思ったんです。
そこで、人生初めてのアルバイトや仕事をスタートすることが多い、10代後半~20代前半のアニメや声優が好きな女性をメインターゲットに据えて、「セブン銀行だから口座を開設したい」と思ってもらえることを目標としました。アニメや声優のファンは、それに対して非常に愛が深い人が多いですよね。彼らにとって、「セブンコンシェルジュ」は、自分の口座に愛着を持つきっかけとなる付加価値に成り得るはず。そこが決まってからは、サービス公開までスピーディーに進行することができました。
キャラクターへの愛情があったからやり遂げられたプロジェクト。セブン・ラボとの役割分担がカギだった。
HIP:アニメや声優のプロジェクトを管轄していたセブン・ラボとの関係性も変わっていったのではないですか。
林:自然と役割分担ができていきました。そもそもセブン・ラボは、今回のイノベーション活動ではサポート的存在。新しいことをやりたいという部署や社員が活動しやすいように、あと押しをしてくれる位置づけでした。
私たちは、「セブンコンシェルジュ」や趣味に対する愛情は人一倍ありますが、経営層を納得させるためには、それだけでは難しいものがあります。そこで、セブン・ラボには社内稟議を通したり予算を獲得するために「セブンコンシェルジュ」にどれだけの需要があるのか、社会的な背景をファクトとして積み重ねたり、KPIを設定したりといったテクニカルな部分を担当してもらいました。そのように、セブン・ラボと協働してプロジェクトを進められたからこそ、「セブンコンシェルジュ」の世界観やキャラクターづくりに集中して、納得のいくレベルまで突き詰めることができました。
HIP:三人のなかでも役割分担があったのでしょうか。
正岡:ふんわりとはありましたね。たとえば、私と林さんは声優さんに詳しいので、キャラクターの雰囲気に合った声優を選ぶ、とか。各々が得意な分野を担当しながら進めました。
HIP:ふだんの業務スキルによる役割分担などもありましたか?
林:結果的に自分の所属する部署に関わる部分を担当することはありました。たとえば、正岡さんからは、「ティザーサイトにFAQがあったほうがわかりやすい」という案が上がってきました。これは、彼女がお客さまサービス部に所属しているからこそ出てきた視点です。
吉田:林さんはシステム部でシステムエンジニアを担当しているのですが、フーモアさんとキャラクターの詳細などをやりとりするときに、このキャラはどんな性格なのか、何が好きで何が得意なのかなどを、あたかもシステムの仕様書のようにまとめてくれて、とても助かりました。
便宜上は、私がプロジェクトの統括。そして林さんと正岡さんがコンテンツ企画、「セブン・ラボ」は後方支援という位置づけです。一方で、フーモアさん側からもプロジェクトの統括とディレクター、イラストレーターなどに加わってもらい、コンセプトやキャラクターを一緒につくり上げていきました。セブン銀行だけでは、私たちのイメージどおりのキャラクターを生み出すことはできなかったでしょう。