イノベーティブを発端に始まったセブン銀行。いま、まさに風土が蘇りつつある
HIP:所属部署からのサポートもありましたか。
林:プロジェクトに関しては、所属部署を始めとして、さまざまな部署から協力をしてもらえました。というか、巻き込んだ感じです(笑)。たとえば、男性キャラクターをATMに実装すると決めたときには、根回しもせずに男性キャラクターの詳細が書かれたシートをATMソリューション部の担当者に見せにいきました。設置場所なども相談に乗ってもらえたし、意外にみんな「面白そう」と協力的でとても助かりました。
HIP:正直、銀行といえば保守的で旧態依然とした印象がありました。新しい取り組みに対して社員が協力的なのは、セブン銀行の風土なのでしょうか?
正岡:セブン銀行は創立から17年目の若い企業です。社員も中途採用が多くて、銀行以外にもさまざまな業種出身の社員がいます。そういった意味では、柔らかい視点を持った人も多い。「セブンコンシェルジュ」に興味を持ち、受け入れてもらえるのは、自然な流れだと感じました。
吉田:社内で、新しい事業やサービスへのチャレンジをしているのは、私たちだけではありません。この取り組みはユニークですけど、抵抗感や違和感はなかったようですね。
林:セブン銀行は、コンビニにATMを置くといった、当時は誰も考えなかったイノベーティブな発想から生まれた会社なのですが、コンビニATMが普及してからは、そのなかで確実に効果があることや成功することをやるという風潮もありました。しかし、セブン・ラボ によるイノベーションの普及活動や「仕事の1割はイノベーション活動に使いましょう」という声がけにより、徐々に社内の雰囲気も変わりつつあると感じています。「まずはやってみよう」とか「小規模でも始めてみよう」といった行動を起こしやすくなりましたね。
HIP:これを機に、新規事業やイノベーション担当の仕事をやりたいという気持ちは生まれましたか。
吉田:それはまだなんとも言えませんが、自分の仕事の仕方が変わって、現在の業務にも良い影響を与えているのは間違いありません。私は開発当時、商品サービス部にいたので、お客さま目線という部分に大きな変化はなかったのですが、社内の人材を巻き込む有効性は学べました。関係部署にすぐに打診するフットワークの軽さも身につきましたね。
林:私の普段の仕事は、セブン銀行口座やお客さま対応に関係する部門などが必要とするシステムを構築すること。いままでは、担当部署からの要望を実装することだけに目が行きがちでしたが、このプロジェクトでコンセプトづくりから携わってからは、要望を聞いてそのとおりに実装するだけでなく、「本当にそれが最善の解決策なのか?」を突き詰めて考えるようになりました。
もちろん、これまでも上司や先輩からは、口を酸っぱくして言われていたのですが、その本質を理解できた。言われたことをやるのではなく、より良いものをつくろうという意識が、さらに深くなったと思います。
正岡:私は、このプロジェクトに参加したときには企画部に所属していました。この部署では、金融庁に提出する書類をつくる仕事などを担当しており、正直、お客さまとの接点は少なかった。でもこのプロジェクトを進めながら、お客さまとの関わり方をあらためて学べたと思っています。その経験が今年の4月に異動になったお客さまサービス部でも活かされ、お客さまサービス部での経験がまたプロジェクトに活かされる。そういった好循環が自分のなかでできたように思います。
普通の人でもイノベーションを起こせる。必要なのは「きっかけ」と「周囲のサポート」
HIP:「セブンコンシェルジュ」の取り組みが、三人の成長につながり、それぞれの所属部署でも小さな化学反応を起こしているのですね。今回のプロジェクトで実感したことがあれば、教えていただけますか。
正岡:私は、プロジェクトに携わる前は、新たなことに踏み出す意識が薄い人間でした。イノベーションには独創性や発想力が必要で、自分とは関係ない、選ばれた人がやることという思いも強かった。「通常の仕事が忙しい」とか、自分で言い訳をしていた部分もあります。ただ、今回、きっかけがあれば自分でもできることを知りました。
吉田:私も正岡さんと同じ。イノベーションは、アイデアがあって確固たる信念が必要だと思い込んでいました。でも、今回のプロジェクトに携わることで、信念も生まれたし、色々なアイデアを盛り込むこともできた。普通の人間でも、本当に好きなことをベースに、みんなの協力があれば、やってやれないことはない。セブン・ラボとの仕事を通じて、誰でも、新しい何かをつくり上げることができると実感しました。
林:漠然とした感想ですけど、「自分が人生でやってきたことは、すべて無駄ではなかった」と思えました。私はコスプレやアニメ以外にも、自分で絵を描いたり小説を執筆してみたりと、楽しみながら広く浅く手を出してきました。そうやって少しずつ得た知識が、ある日突然、ビジネスとつながって、ポンと何かができあがる。それが「セブンコンシェルジュ」というかたち形になった。初めてATMからキャラクターの声を聞けたときは、本当に感動しました。
HIP:最後に、これから「セブンコンシェルジュ」が目指す方向を教えて下さい。
吉田:いま考えているゴールは、「セブンコンシェルジュ」を通じて、セブン銀行が愛着を持って使っていただけるメインバンクになれること。銀行という堅いイメージを少しでも柔らかくしたいと思っています。
林:最近のスマホゲームなどは、課金すればするほどゲームが進む、というものが多いですが、「セブンコンシェルジュ」では、貯金すればするほどキャラが自分好みに育成できるという仕組みが実装できたら面白いですよね(笑)。
吉田:希望としては、「セブンコンシェルジュ」の反響が大きくなり、お客さまからの需要が高まれば、現在開発中のセブン銀行ATMの次世代機にも標準で実装したいですね。その場合、カードを入れたときに画面に登場するのは、猫だったり、提携銀行のオリジナルキャラクターだったりも良いでしょう。なぜなら、このプロジェクトの本質は、あくまで「銀行口座や事業会社のアカウントに付加価値をつける」ことにあるからです。
特に、提携銀行のカードや事業会社のアカウントに合わせたオリジナルキャラクターによる案内サービスは、これまでのセブン銀行のビジネススキームを大きく変えることになると思います。いままではセブン銀行がATMを開発、設置して、提携銀行から利用手数料をいただくことで、収益をあげていました。
しかし、このサービスが実現すれば、提携銀行からキャラクターを表示したいというオファーがあったうえで、セブン銀行のATMで楽しめるコンテンツを開発することになる。つまり、これまでの提携銀行とのつき合い方とは、まったく別の流れが生まれるわけで、そこには、新たなビジネスチャンスがあるのではないかと考えています。