INTERVIEW
優秀なイノベーターの条件は?起業家向けピッチイベントの主催者に聞く
小村隆祐(Venture Café Tokyo) / 神谷遼多(インキュベイトファンド株式会社)

INFORMATION

2021.11.02

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国内最大級のイノベーション・コミュニティーを運営するVenture Café Tokyoが主催する『ROCKET PITCH NIGHT』。同イベントでは、起業家のみならず、優れたビジネスアイデアを持つ学生や研究者、NPO、企業の新規事業担当者までが参加し、新たなビジネスの種について3分&3スライドのフォーマットを用いてピッチを行う。2019年からこれまでに3度開催し、累計200組の登壇者と2,000名近いオーディエンスが参加した国内最大規模のピッチ大会である。

多くの起業家たちが集うこの大会で、優秀なイノベーターと認められる人材には何か共通点があるのだろうか? 2021年11月11日に開催される『ROCKET PITCH NIGHT AUTUMN 2021』を前に、Venture Café Tokyoプログラム・ディレクターの小村隆祐氏、『ROCKET PITCH NIGHT』でコメンテーターを務めるインキュベイトファンドの神谷遼多氏に話を聞いた。そこで語られた、優秀なイノベーターの条件とは?


文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太

イノベーターに必要不可欠な素養とは? 成功する起業家の共通点

HIP編集部(以下、HIP):『ROCKET PITCH NIGHT』を主催する小村さんは、多くの起業家やその卵たちに触れられていると思います。そのなかで感じる優秀なイノベーターに共通する素養を教えてください。

小村隆祐氏(以下、小村):これまでのさまざまなアントレプレナーとの出会いから4つあるように感じています。1つ目は誠実さを持って、本気で取り組んでいること。そして、自分の事業の本質をとらえ、自分の言葉で語れる起業家は非常に強いと思います。

2つ目は、わかりやすくほかの人と違う何かを持っていること。誰かと違うテーマに取り組んでいる人はそれだけで面白いですし、違うスキルやナレッジを持っていれば大きな強みになります。多くの人が忙しくてなかなかできていないことかとは思いますが、まずは自分が何を持っているのか棚卸ししてみて、それがほかの人とどう違うのかを知ることが重要なのではないでしょうか。

3つ目は、メタ認知能力が高いこと。スタートアップやアントレプレナーは多くの失敗から学び、前に進み続けなくてはいけません。その際には、客観的に現在の自分自身の状況を見て対策を講じ、修正していける能力が欠かせません。要するに、どれだけ成熟しているかが大事ということかと思います。

そして、4つ目はアクションを起こしていること。これが最も重要だと感じます。語っているだけではなく、実際に行動している人にはそれだけで説得力があります。

それに、先に挙げた「誠実さ」や「ほかの人と違うもの」「成熟」といった要素も、アクションをした結果、身につくものだと思います。さまざまなアクションの積み重ねを糧に自分を育て、思いを深めていける人。そんな起業家たちこそ、ユニークかつ成功するビジネスを生み出せるのではないでしょうか。

Venture Café Tokyo プログラム・ディレクターの小村隆祐氏

HIP:アクションは、ピッチなどで発信することも含まれますか?

小村:そうですね。ピッチを含めた経験によって得られるフィードバックやユーザーのリアクションなどが、起業家たちにインプットがされるわけです。そうやってインプットを続けていくと、自分のビジネスを実現するには何が必要かとわかったり、ときには新たにインスピレーションが「ピーン!」と湧き出てきたりします。アクションを続けた人間でないと、そこまで至ることはきっとできませんよね。

HIP:『ROCKET PITCH NIGHT』でコメンテーターを務める神谷さんも、起業家と投資家の合同経営合宿『IncubateCamp』というイベントで今年度の主将を務めました。神谷さんは、優秀なイノベーターの条件についてどうお考えでしょうか?

神谷遼多氏(以下、神谷):IncubateCampはこれまでラクスルやGameWithなど上場した企業を含め、多くの起業家たちがピッチしてきました。事業プランや成長性など大事な要素はいくつもありますが、一番はやはり「人物」そのものではないでしょうか。特に、大きな野心、諦めないしつこさ、そして誠実さ。成功する起業家たちの多くがこれらを備えていると思います。

『IncubateCamp』でも、一度選考で落ちても諦めず、アイデアをブラッシュアップして何度もエントリーしてくる起業家がいます。経営では、何がなんでも売り上げを立てなければならないような局面もある。そこで諦めない粘りを見せられるかどうかは、重要な資質といえるでしょう。

また、誠実さですが、起業してからもベンチャーキャピタル(以下、VC)からしても投資実行から最低でも数年、上場を視野に入れればさらに長い付き合いになることもあるわけです。やはりお互いに誠実さがなければ、そこまで深い関係性は構築できません。『IncubateCamp』の合宿でも、そういった部分に注目している投資家は少なくないと思います。

インキュベイトファンド株式会社 アソシエイトの神谷遼多氏

頼もしい仲間を見つけるための環境づくりで、大切な3つのポイント

HIP:『ROCKET PITCH NIGHT』では「さぁ仲間を見つけよう」というキャッチコピーも掲げていますが、イノベーターが頼もしい仲間を見つけるにはどうすれば良いのでしょうか?

小村:大切なのは、自分の思いを自分の言葉で語れること。共感を得られなければ仲間はできませんし、共感を得るには自分の素直な気持ちを言葉にして語らなければなりません。

そして、コミュニティーを運営している立場から言うと、もうひとつ大切なのが環境です。「孟母三遷」という言葉がありますが、この由来は孟子の母が墓や市場の近くに住んでいると、孟子が葬式、商人の真似事ばかりしてこれは教育に良くないと思った。そこで学校の近くに住むと、孟子が勉強するようになったといいます。自分自身を成長させていくためにも、そして良い仲間を見つけるためにも、やはり自分から良いと思えるコミュニティーに飛び込んでいくことが必要なはずです。

HIP:Venture Café Tokyo自体も、仲間が見つかりやすい良い環境づくりを目指していると思いますが、そのうえで大事にしているポイントがあれば教えてください。

小村:環境づくりで重要だと思うポイントは3つあります。まず1つが、起業家同士のタッチポイント(接点)。2つ目は、(起業家たちが)やっていること、やろうとしていることの継続的な発信。最後の3つ目は、チャンスが来たときにはしっかりモノにできるかどうか。こうした点を踏まえて、コミュニティーづくりに取り組んでいますから、自然と良い環境になっているように感じます。

また、参加する側の立場から言えば、創業期のベンチャーからも「メンバーをどう集めればいいでしょうか?」とよく聞かれるんですが、同様にこの3つのポイントを踏まえておくといいように思います。そのうえで、先ほどもお話ししたようにアクションを行ない続ける。良い環境でビジネスを始めれば、いろいろな球が飛んでくるはずです。素振りを続けなければ、せっかくチャンスが訪れたときに反応できないですからね。

HIP:いわばピッチも、素振りのようなものかもしれませんね。

小村:そうです。たとえば、「今日ここに来るまで青色のものをいくつ見ましたか?」って急に聞かれても、普通は答えられないですよね。極端な例ではありますが、起業においても、ときに降って湧いたような機会に出くわす場面がある。それをものにするためには素振りを繰り返さないと。

神谷:投資家から新たな視点で球を投げられる場合もありますからね。

小村:そうそう。ピッチを重ねていくと、そんな球にも反応できるようになりますよ。

「競う」のではなく起業家を育てるために。存在する2つのピッチイベント

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