ここ数年、ビジネスシーンではスタートアップを中心に「ピッチ」──簡潔なことばで、提案を短時間で伝えるプレゼン手法が注目されてきた。一方、巷では動画の倍速視聴や本の要約サービス、短尺動画SNSが人気を獲得し、「時間をもっと濃くする」というベクトルはビジネスだけのものではなくなっている。
いま、ピッチはビジネスにどんな価値をもたらしているのか。11月30日、新たに開業する麻布台ヒルズでピッチの日本最大級のコンテスト「ROCKET PITCH NIGHT AUTUMN 2023」が開催されるのにあわせ、主催のVenture Café Tokyo(ベンチャーカフェ・トーキョー)プログラム・ディレクター、小村隆祐氏にその真髄を聞いた。
「誰でも」参加できるROCKET PITCH
- HIP編集部
(以下、HIP) - Venture Café Tokyo(以下、ベンチャーカフェ)が主催する「ROCKET PITCH NIGHT(以下、ROCKET PITCH)」は今回、8回目の開催を迎えます。まずは、ベンチャーカフェの取り組みを教えてください。
- 小村隆祐氏
(以下、小村) - ベンチャーカフェの取り組みをひと言でいうと、「多様な人たちが集うイノベーションの社交場」をつくること。例えば毎週木曜日には「Thursday Gathering(サーズデイ・ギャザリング)」というプログラムを開催し、ネットワーキングの機会を提供しています。サーズデイ・ギャザリングは2018年のスタート以来、これまで260回以上開催してきました。ROCKET PITCHは、その拡大版といえるイベントです。
- HIP
- 小村さんのおっしゃる「多様な人たち」というのは、具体的にどのようなコミュニティをイメージしているのですか?
- 小村
- 「イノベーション」と聞くとつい大上段に構えがちですが、ぼくたちは、例えば「新しいレモネードをつくる」のも立派なイノベーションだと思っています。だからこそ、参加者はスタートアップに限っていません。起業志望の大学生もいれば、仕事を探している方、リタイアされた方、あるいは研究者やNPO職員、公務員、教師も参加しますし、もちろん起業家や大企業の新規事業担当、CVCの方も来ます。
- HIP
- ROCKET PITCHの第1回は、2019年に開催されていますね。
- 小村
-
ROCKET PITCHは、ベンチャーカフェの「社会に偏在しているリソースに誰でもアクセスできるようにする」という思想を大切にしつつ、ネットワーキングの要素をもっと押し出したイベントをしたいという意図のもとスタートしました。
初回は登壇者50組、参加者400名を超える当時としては想定以上の大盛況で、ニーズの大きさを強く感じました。回を重ねるごとに参加者数が増えて、いまでは1,000人以上がコンスタントに集まるイベントに成長しています。
- HIP
- ROCKET PITCHには、世の中に潜在しているニーズを掘り起こした側面があるわけですね。しかし、その「ニーズ」とは、具体的にはどんなものだったのでしょうか?
- 小村
-
ピッチイベント自体はいまやROCKET PITCHに限らず数多く開催されていますが、資金調達した経験の有無をはじめ、参加に制限を設けているものも多いです。しかし、ROCKET PITCHにはそういった縛りはなく、本当に「誰でも」登壇できます。「さいしょの1歩」を声に出してプレゼンテーションできる唯一の大規模なピッチといえるかもしれません。
また、時代の変化によって生まれたニーズもあると感じます。ROCKET PITCHをスタートした当時は「起業なんてとても自分にはできない」という雰囲気も強くありましたが、2023年現在、そういうハードルはかなり低くなっているように感じます。
- HIP
- 現在の岸田政権になってからは、「新しい資本主義」という言葉も注目されていますね。
- 小村
- 岸田首相は「スタートアップ育成5か年計画」を発表していますし、東京都も「Global Innovation with STARTUPS」という計画を出しました。大企業にも「イノベーションを生み出すためにはスタートアップとの連携が必要だ」という意識が浸透してきていて、各大学でもアントレプレナーシップ教育が広がっている。そうした要因が重なってきていると思いますね。