イスラエル発のユニコーン企業・REE Automotive(リー・オートモーティブ)。イノベーティブなEV技術を持つ同社は、世界中の企業とパートナーシップを結び、自動車のあり方そのものを変革しようとしている。日本では日野自動車と協業し、EVプラットフォーム「FlatFormer(フラットフォーマー)」のプロトタイプを開発中。物流や人の移動を大きく変える、大きな一歩を踏み出した。
同社はこのEVプラットフォームにより、社会をどう変えようとしているのか? また、そもそもイスラエルからはなぜ、REEのような革新的なスタートアップが次々と誕生するのか? これらイスラエルのスタートアップと日本企業とのコラボレーションは何を生み出すのか?
REE Automotive共同創業者兼CTOのアヒシャイ・サルデス(Ahishay Sardes)氏、CMOのケレン・シェメシュ(Keren Shemesh)氏、REEと日野自動車の協業をサポートするミリオンステップス取締役COOの井口優太氏に話を聞いた。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太
なぜイスラエルのスタートアップは革新的なのか。根底にある「問い続ける」姿勢
HIP編集部(以下、HIP):REEの拠点であるイスラエルは「スタートアップ大国」として知られています。まず、ミリオンステップス社 COOの井口さんにうかがいたいのですが、イスラエルからは、なぜ勢いのあるスタートアップや革新的なソリューションが生まれているのでしょうか?
井口優太(以下、井口):その背景には国のサポートやエコシステム、軍隊の役割、そこで最先端の技術に触れること、また、軍務によって、チームワークや、ハイテク環境とは似て非なる速いペースでのミッションクリティカルな意思決定などのスキルが身につくことなど、さまざまな要素があります。ただ、私はこれらすべての原点として、もともとイスラエルの人々に根づいていたカルチャーや考え方が大きいのではないかと思います。
特に、私がイスラエルの起業家たちと話をしていて感じるのは、彼ら彼女らには何事においても固定概念というものがまったくないということ。すべてのことを疑うというか、「これは、なぜこうなっているの? ほかにやり方はないの?」と問い続ける姿勢を持っている人が多いです。
あとは、リスクを取ることに対してポジティブで、たとえ失敗したとしてもそれを咎めない文化も特徴的ですね。例えば、リスクが大きいシード期のスタートアップにも資金が流れるよう積極的に支援する「IIA(Israel Innovation Authority)」という政府機関があるのですが、企業に対してではなくプロジェクトに対して投資をすることで企業が直接被る損失を極小化させており、国として「チャレンジし続ける重要性」を国民に発信していると感じられます。
普通保守的なはずの行政でさえ、たとえそのプロジェクトがうまくいかなくても、またチャレンジすればいいという思想なんです。こうした国としての考え方も、イスラエルのスタートアップ産業の活況を支えている要因だと思います。
HIP:ミリオンステップス社はそんなイスラエルのスタートアップと日本企業をつなぎ、新規事業を生み出すサポートをしています。この二カ国間の協業に、どんな可能性を感じていますか?
井口:ぼくらがミッションとして掲げているのは、「イスラエルと日本企業の強みを生かすことにより、世界にインパクトを与えるビジネスをつくっていく」ことです。イスラエルのスタートアップは革新的なテクノロジーを持っていますが、それをビジネスとして最大化させるには、どんな企業とパートナーシップを結び、世界のどの市場に打って出るかがとても重要です。
その点、日本にはいくつかのグローバルな産業があり、優れた技術を持った企業も多い。REE Automotive(以下、REE)と協業する日野自動車もそうですが、日本の企業とイスラエルのスタートアップをマッチングさせることで、まさに世界にインパクトを与えられるようなプロジェクトが生まれるのではないかと思っています。
また一からつくり直す。カスタマイズできるEVプラットフォームとは
HIP:EVプラットフォームは、REEが開発し特許を取得したREEcornersと呼ばれる画期的な技術を活用していると理解しています。シャーシのサイズや形状を変えれば、上にさまざまなボディー(車体)を載せることができるため、物流やMaaSなどさまざまな場面での活用が期待されていますが、このテクノロジーのポイントを教えてください。
アヒシャイ・サルデス(以下、サルデス):主なポイントは3つあります。まず、当社のEVプラットフォームは、排気ガスを一切出さない「ゼロ・エミッション」EVとして開発されています。
2つ目は、REE cornerというシャーシのコーナー部分があるのですが、そこに電気モーターやブレーキ機能、ステアリング機能、サスペンションがユニットをなしていること。それらは電子信号でコントロールされていて、Autonomous Driving(自動運転)の機能をプラグインすることも可能です。つまり、車体の幅や大きさだけでなく、性能も活用シーンに合わせてカスタマイズできるということです。
3つ目は、メンテナンスを短縮できること。REE cornerがシャーシに4つついているとすれば、その一つひとつは個々で機能しているため、問題が生じた場合も修復するのが簡単です。基本的には1時間以内で問題を解決し、EVを素早く、再び走行させることができます。
HIP:従来の自動車の基本構造として、ドライブシャフトの両端にあるホイールが回ることで自動車が動くため、最もベーシックなものは4輪車でした。しかし、REE cornerが単独で機能するということは、タイヤの数は必ずしも4つではなく、減らしたり増やしたりすることもできるわけですか?
サルデス:そのとおりです。それぞれにステアリング機能がありますので、3輪でも車体をコントロールすることができます。
ケレン・シェメシュ(以下、シェメシュ):日本の場合は狭い道も多いため、活用するエリアや用途に合わせて小回りがきくようにカスタマイズできる点は重要ですね。ただ、まずはモビリティ・アズ・サービス、バス、配送車などの商用車市場セグメントに注力しています。
HIP:なぜ最初のターゲットを商用車に定めたのでしょうか。
シェメシュ:これも、いくつかの理由があります。まずはコマーシャル・ビークル(軽商用車)の社会的需要が高まっていること。物流やMaaSなど、人や物を動かすインフラを変革する必要性が高まっているということです。
また、コロナの影響でデリバリーサービス(eコマース)を利用する人も増えています。より速く、より効率的な配送が求められ、それに対応する商用車の需要も急増しています。さらに、環境という文脈でも、より環境に優しく、持続可能な環境を創造、そしてゼロエミッションの達成に向けて、商用車をEVに変えていくことは大きなインパクトがあります。
HIP:基本は世界各国の企業と協業し、地域の需要や用途に合わせたEVプラットフォームを開発していくかたちになるのでしょうか?
シェメシュ:そうですね。私たちのビジネスモデルは、さまざまな企業とパートナーシップを結び、新しいプラットフォームやソリューションを開発していくことです。それは自動車メーカーに限ったことではありません。今後は業界や業種を問わず、さまざまなレイヤーをつくっていけるでしょう。
日本でいえば、日野自動車以外にも、2021年12月に日立製作所の米国法人とも戦略的協業をスタートさせました。具体的には、REE cornerから得られるデータを吸い上げ、道の状況だったり、メンテナンスの状況、ドライバーの運転状況だったりを分析しています。そして、このデータを使って新しいサービスをつくっていくことに取り組んでいます。