リクルートAI研究所の石山洸が語る、社内でやりたいことを実現する方法
石山 洸(Recruit Institute of Technology推進室室長)
2016.01.29

大きな組織において、既成概念にとらわれず新しいことに取り組む人間とは、一体どういう人なのだろう。発想が豊かな人だろうか、論理思考に長けた人だろうか、技術を持った人だろうか、それとも、何か別の要素があるのか……。

リクルートの石山洸氏は、企業の中を主なフィールドとして、これまでにない新しいことに次々とチャレンジしてきた人物だ。「ゼクシィ」「Hot Pepper」「受験サプリ」など数々の事業を生み出してきたリクルートの新規事業提案制度「New RING」を契機に子会社を設立し、3年で成長させバイアウト。32歳という若さで新規事業の投資・育成を行う「Media Technology Lab.」の所長を務め、2015年からは社内に設けられた人工知能研究所「Recruit Institute of Technology」の初代室長を務めた。「リクルートで研究所を持ちたいと思っていた」と話す石山氏が、やりたいことを実現させた秘訣は何なのだろうか? 話を伺った。

取材・文:HIP編集部 写真:大畑陽子

ソフトウェアは動かしてきたけれど、人間の心を動かしたことはないなと思ったんです

HIP編集部(以下、HIP):石山さんはリクルートに勤められてから新規事業の立ち上げや育成などに携わっていらっしゃいますが、学生時代からビジネスに関心をお持ちだったんですか?

石山洸(以下、石山):学生時代はとにかく研究が楽しくて、大学院生のときには18本論文を書いていましたね。そのまま大学の先生になるというキャリアもありましたが、いろいろな機会があってビジネスに興味を持つようになったんです。まず、足つぼの話からしましょうか。

HIP:足つぼ、というのは……?

石山:当時、私は八王子にある足つぼマッサージに通院していて、そこの先生がカリフォルニア大学バークレー校の数学科出身だったので、施術してもらいながら進路相談をしていました。先生は民間企業で働いてきて、自分も仕事で疲れるという経験があったからこそ、疲れたお客さんの気持ちいいところを揉むことができるんだ、と。「石山さんも、実際に社会に出てみると社会のどこを揉めばいいのかわかりますよ。それから研究に戻ったらどうかな」とおっしゃったんです。それから、社会に出た方がいいのかなともやもや考えるようになりました。

HIP:まさか足つぼがキャリアスタートのきっかけだったとは(笑)。社会に出ることを考え始めた中で、何がきっかけでリクルートという会社を視野に入れ始めたのでしょうか?

石山:18本論文を書く中で、アラン・ケイという有名なコンピューター科学者が主催する学会で話を聞く機会があったんです。コンピュータサイエンティストにとって一番大切なものについて彼が話す中に、グーテンベルグの活版印刷技術がありました。活版印刷というテクノロジーによって、聖書というメディアが大量に印刷され、聖書が普及したことで人々のリテラシーが上がり、その延長線上に宗教革命というレボリューションが起きた、と。

HIP:テクノロジー、メディア、リテラシー。この3つがセットになったから革命が起きたんですね。

石山:そうなんです。テクノロジーだけではなく、メディア、リテラシー、レボリューションを「四身一体」として考えることが最も大切だと。活版印刷に代わり、今度はデジタルというテクノロジーによってどんなレボリューションが起きるのか。そして、メディア、リテラシー、その先にある社会構造の変化をどうやったら実現できるのだろうか、と考え始めた頃にリクルートとの出会いがありました。

HIP:まさにテクノロジーやメディアの力で生活に関するさまざまなサービスを提供しているリクルートと出会って、ピンときたと。

石山:それと、英語で論文を書いていたとき、検索エンジンでたまたま「follow」という動詞を入力したらリクルートのスローガンである「FOLLOW YOUR HEART」が引っかかって(笑)。どんな会社なんだろうかと面白半分で調べてみたら、アラン・ケイが言っていたことを試すのにちょうど良い会社だと気づき、インターンシップに参加してみました。そうしたらなんと、人事にアラン・ケイに会ったという方がいたんです。

HIP:ここでもアラン・ケイと繋がるんですね!

石山:その人は途上国にパソコンを寄付するNPOを運営していて、アラン・ケイが日本に来たときに会いに行ったそうで。そこで「『コンピュータの父』って言われているんやったら、インドネシアにパソコンたくさん寄付してな」って大阪弁で伝えたら、アラン・ケイがその考えに心を打たれてパソコンをたくさん寄付してくれたって言うんですよ。この話を聞いて、自分はこれまでソフトウェアは動かしてきたけど、人間の「ウェットウェア」を動かしたことはないなと思ったんです。

HIP:ウェットウェア、とは?

石山:ソフトウェアでもハードウェアでもない、生物が持つ脳。人間の心のことですね。人を動かすことで、世の中を変えることができるし、それが得意な人がリクルートにはたくさんいる。入社したら人を動かすテクニックが身につくかなと思いました。ただ、最後の決め手になったのは、リクルートが持つデータや資金量が研究室より多いということ。「リクルートは一つの研究室、あるいは研究所だ」と思って社内で研究するのが面白いのではないかと考え、入社を決めました。

論文を18本書くほど研究していたのに、まだ勉強できることが山程あるんだと嬉しくなりました

HIP:研究の場所がリクルートという会社に移るだけだと。実際に働き始めてみて、いかがでしたか?

石山:最初は内定者アルバイトで入ったのですが、わからないことがたくさんあったのが一番面白かったです。論文を18本書くほど研究していたのに、まだ勉強できることが山程あるんだと嬉しくなりました。スキルや知識だけじゃなくて、自分自身の幅がどんどん広がっていくという発見があって。あまりに面白くて、なんでもイエスと言って仕事に明け暮れていたら、「たまにはNOと言った方がいいんじゃないか」と先輩に言われて、1日3回NOと言うことを義務づけられてしまったことを覚えています(笑)。

HIP:なかなかそんなルールを課せられる人もいないでしょうね(笑)。

石山:ちなみに、ロジック以外で突破することができなくなったときに「ロジック使うの禁止」と言われたこともあります(笑)。1年目の時点で、営業、オンラインマーケティング、データサイエンティストの仕事を同時に経験していました。とにかくたくさん知っておきたくて、勉強のために自らいろいろな仕事をまわしてもらっていましたね。DJの人が掘り出し物のレコードを探すことを「digる」と言いますが、それに近い感覚で。まったく大変だとは思わなかったです。

HIP:幅広い仕事に関わった後、Hot Pepperの部署に異動されたそうですね。何がきっかけだったのでしょうか?

石山:上司から、「データを使えるという強みを生かして仕事を広げていった方がいい。若いお前の話は聞いてくれないけれど、データは真実だから話も聞いてくれるようになる」とアドバイスをもらい、学生時代に得たデータを扱う力を仕事の軸にしようと思ったことがきっかけです。リクルートでは徹底して師匠を見つけるようにしていましたね。小さい頃にピアノを習っていたときにも、どの先生に習うと一番上達するのが早いかを考えていたので、師匠を見つける力には長けていた自信があります。

HIP:師匠からのアドバイスで、一つの事業に腰を据えて取り組むことができるHot Pepperに異動されたと。

石山:はい。異動してすぐに、データ分析をしている派遣さんや、データの出口である営業のトップと仲良くなって、データが自分に集まるように戦略的に仕掛けていきました。上司のアドバイス通り、現場のキーマンが評価してくれるようになったのですが、私はキャラクターがエキセントリックで、マネージャーって感じではなかったみたいで(笑)。しばらくの間、自分が興味関心を持ったことにチャレンジしていました。スタートアップにも挑戦して。

HIP:なぜスタートアップを経験しようと思ったのでしょう?

石山:一般的なスタートアップビジネスでは、リクルートで事業を作るときよりももっと小さい金額で立ち上げる人が多いので、自分もそういうビジネスをできるようになった方がいいなと思ったんです。経験する必要があると。リクルートには新規事業提案制度「New RING」というものがあり、審査を経て事業アイデアが採択されると事業化に取り組むことができる制度が整っているので、そこで事業提案をしてみました。

HIP:結果はいかがでしたか?

石山:決勝まで残ったんですが、自分の事業は通らなくて。ただ、内容は良かったので継続検討した方がいいのではと役員に伝えられ、1年ほど検討のための期間が設けられました。

自分が間違ったことをやっていないのであれば、粘った方がいいと思います

HIP:継続検討となると、役員の中には反対する人もいらっしゃったのでは。

石山:難色を示した人もいましたが、自分も事業を立ち上げたかったので、粘って交渉し続けました。それから「子会社を作ってそこでやりましょう」と提案してくれたのが、現リクルートホールディングス社長の峰岸さんなんです。最初にダメだって言われていても、1年くらい粘ればなんとかなるものなんだなと感じましたね。自分が間違ったことをやっていないのであれば、粘った方がいいと思います。

HIP:粘り続けた結果、目的であったスタートアップの経験をすることができたと。立ち上げた子会社ではどんなことをされていたんですか?

石山:データ活用のコンサルティングが主な事業内容です。少しずつ収益が上がってエンジニアを雇えるようになり、社内で開発も行えるようになりました。日銭を稼ぎながらやっていくのはいかにもスタートアップという感じでしたが、そのプロセスを知ることができたのは勉強になりましたね。人数が少なくて業務範囲が広いので、営業しながらオンデマンドで開発して、と兼務するのがとても楽しかったです。

HIP:スタートアップ的に働いてみて、本社で働いているときと違うところはありました?

石山:いろいろありますが、いかに安く作るかを意識するようになりましたね。あとは、「ない商品を売りにいく」ということ。最初は資金がないので、発注をもらってから作るんです。初めは「そんなことしていいの?」って感覚だったんですけど、コストをかけずに試作品を作りながら、短いサイクルで仮説立てと検証を繰り返す「リーンスタートアップ」というアプローチが世間でも徐々に当たり前になっていましたし、サンフランシスコではそれが主流になっていましたね。

HIP:それから3年間で事業を拡大させた後、売却されたそうですね。

石山:当時、子会社でやっていたようなデータ分析事業はリクルートにとってのメイン事業ではなかったのですが、根幹事業には必要な機能だということで、バイアウトしたんです。その後はグローバルアライアンスのマネージャーというテクノロジーに関係のないポジションに就いて、「ウェットウェア」だけになってしまいました(笑)。このポジションを1年間やった後、2014年にMedia Technology Lab.(以下、MTL)の所長に就任しました。

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若くしてMedia Technology Lab.の所長に抜擢された理由の一つ、ミッション外の仕事を進んで行う「損して得取れ」の考え方とは?

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