INTERVIEW
リクルートAI研究所の石山洸が語る、社内でやりたいことを実現する方法
石山 洸(Recruit Institute of Technology推進室室長)

INFORMATION

2016.01.29

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ミッション外の仕事を手伝うと、相手との関係性が強くなってネットワークが広がっていく

HIP:MTLの所長に若くして抜擢された理由は何だとお考えですか?

石山:理由はいくつかあると思っています。一つは、スタートアップに出向してバイアウトまで経験していたので、同じようなプロセスを「n化」する、つまり量産していけるんじゃないかと期待されたこと。あとは、MTLの人がヒアリングに来たときに、中長期戦略に関する資料を提出していたのが影響したんじゃないかと。

HIP:まだ自分の仕事ではない段階で、それだけコミットされていたんですね。

石山:社会人1年目から今までずっと継続してやっているのが、知り合いの仕事を手伝うことなんです。ミッション外の仕事を手伝うと、相手との関係性が強くなってネットワークが広がっていく。「損して得取れ」ではないですが、偉い方がヒアリングに来たときも、できるだけ丁寧に資料を作って仮説を検証していました。MTLに関しても同じようにやっていたので、それで選ばれたのかもしれません。

HIP:本業も忙しい中で社内の仕事を手伝うとなると、相当なモチベーションが必要ですよね。

石山:優先順位をつけるのが下手なんです(笑)。全部、「楽しそう、やりたい」になってしまって。需要と供給を考えたとき、供給できるソリューションがたくさんあった方が需要は増えると思っています。誰かにソリューションを繋いであげると、今度は自分にソリューションを提供してもらえる。ミッション外の仕事は社内での本業に影響してくるものだと思うので。

HIP:その感覚はリクルートで掴んできたものなのでしょうか?

石山:そうですね。リクルートの先輩から、外で人とご飯を食べて仲良くなり仕事に繋げるという文化を教わったので、その影響もあるかもしれません。もう一つは、投資家の人たちからの影響です。投資する前にきちんとハンズオンして経営に参画し、会社を成長させていくスタンスを見て、すごく価値のあることだなと思って。私は投資家ではないですが、なるべくお会いした一人ひとりに時間を投資することで何かしらの結果に繋がればと思っています。

HIP:たしかに、そうやってサポートしてもらった人は、何らかの形で助けてくれそうですね。

石山:テクノロジーだけで人は動かないから、社内力学との両輪をまわすのが大事なんです。日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一は、著作『論語と算盤』の中で「知識と情と意志がないと経営者になれない」と書いています。この三つを持っていない人は企業で働くことになりますが、その中にもパターンがあって、知識を持っている人は情を持っている人に弱く、情を持っている人は意志が強い人に弱くて、意志が強い人は知識を持っている人に弱い。パターンを見抜き、人に合わせてアプローチを使い分けよ、と書かれていたのを今でも意識しています。

仕事が楽しくてしょうがないので、何かを減らすのではなく常にアドオンしています

HIP:人の特性を見抜くことは、チーム作りで欠かせないですよね。組織をマネジメントする中で気をつけていることは、ほかに何かありますか?

石山:新しい仕事を始めるときは特に衝突が多いので、相手の認知モデルがどうなっているかを考えるようにしています。どんなことをしたいのか、何をしているときに楽しいのかなど、自らの外側をどう認知しているかを考えて、思考の次元を上げたり、別の座標に飛ばしてあげられるようにマネジメントしています。マネジメントといっても、基本的には部下の自由度を高めて「好きなことでイノベーションしてね」ってお願いしているくらいですね。それでイノベーションが起きないと「なんでこんなに自由にしているのにできないの!」ってなったり(笑)。

HIP:自由にできるという環境の中で、道に迷ってしまう部下もいるかと思いっますが、そういうときはどのようにアドバイスしてあげてるのでしょう?

石山:「リーンキャンバス」という事業計画に用いるフレームワークがあって、部下から相談されるとこのフレームを使ってキャンバスを作ってあげています。その内容が正しくても正しくなくても、「上司が見てくれている」という安心感が生まれるのがいいみたいですね。作成したキャンバスを参考に、自分の癖を直そうとする部下もいます。

HIP:MTLでは50人ほどの部下がいらっしゃったそうですが、一人ひとりにハンズオンするスタイルを保つのは大変なことですよね。時間を考えても、これまでやっていたことを減らす必要がありそうですが。

石山:何かを減らすのではなくて、常にアドオンしています。やることが年々増えていくので、歳を取るごとに時間が短く感じるって言う人が多いですが、私は長く感じることが多くて。嬉しい悩みですけどね。

HIP:そうなると、仕事以外の生活の時間を削る?

石山:正直、削っていますね(笑)。仕事が楽しくてしょうがないんです。ただ、今の自分の状況を上司も心配してくれていて、「村上春樹さんはなぜ走っているかわかるか」と尋ねられました。「クリエイティブなことをやろうとすると、自分を破壊しながら創造することになる。理性をつけて、自分を破壊せずに創造しなさい。村上春樹さんは、理性を身につけるために走っているんだ」と。先輩のこの言葉が、自分にとって少し今のライフスタイルを見つめ直す機会になりました。

やりたいことをどうにか実現させるために、ミッション外の仕事や人とのネットワークを広げながら「練り込む」んです

HIP:そこでも先輩に支えられているんですね。いろいろなことにチャレンジしてこられた石山さんは2015年、人工知能(AI)の研究を行うRecruit Institute of Technology(以下、RIT)の室長に就任されました。ずっと取り組みたかったことに関われたときの気持ちはいかがでした?

石山:もともと自分の研究所を持ちたいとずっと思っていたので、その方向を向き続けていたらアサインされたという感じです。個人的には、「引き寄せの法則」ではなくて、「練り込みの法則」という言葉を使っているんですが。

HIP:練り込みの法則?

石山:やりたいことをどうにか実現させるために、ミッション外の仕事や人とのネットワークを広げながら「練り込む」んです。練り込み続けていると、いつか練り込み終える。私は研究から含めると10年以上練り込み続けて、ようやくやりたかったことができるようになりました。普通、ここまで気長に考えないですよね。でも私は、一発一中ではなく、石橋を叩いて渡りながらセキュアに物事を進めてきたつもりです。

HIP:RITの研究トップに元Googleの人工知能研究者、Alon Halevy氏を起用されるというニュースが先日発表されましたが、一人ひとりに時間を投資し「ウェットウェア」を大切にする石山さんだからこそ、優秀な人たちとの繋がりが生まれ強い組織を作ることができるんでしょうね。

石山:自分の能力がないと割り切れちゃっている部分があるんですよ。そうなると、自分よりも優秀な人と仕事をしていくことが必要。だから、ビジョンを語る人物になる。大事なのは、発想の転換ができるかなんです。学生の頃に野球をやっていて、セカンドから塁審にポジションを変えられたことがありました。普通だったら落ち込むと思いますが、私は「塁審はある意味、監督より偉い」って考えて楽しんでいました。あと、3歳からピアノをやっているんですが、楽譜が読めなかったので、クラシックではなく得意な即興演奏が生かせるジャズをやってみたら、かなり良かったんです。弱者にこそクリエイティビティが生まれると考えているので、何か壁にぶつかったときは考え方を変えてみるといいと思います。

HIP:イノベーションは、そうした発想の転換から生まれるのかもしれませんね。

石山:「イノベーション」というとなぜか画一的な印象になりがちですが、その概念にもっとダイバーシティがあってもいいと思っています。「Anything goes(何でもあり)」という言葉が好きで。一人ひとりが持つイノベーションを相対的に見ながらくっつけていくことで、更なるイノベーションが生まれていくのではないかと思っています。

Profile

プロフィール

石山 洸(Recruit Institute of Technology推進室室長)

リクルートのAI研究所 Recruit Institute of Technology 室長。大学院在学中に修士2年間で18本の論文を書き、アラン・ケイの前でプレゼン。博士過程を飛び越して大学から助教のポジションをオファーされるも、リクルートに入社。雑誌・フリーペーパーから、デジタルメディアへのパラダイムシフトを牽引。リクルートとエンジェル投資家から支援を受け、資本金500万円で会社設立。同社を成長させ、3年間でバイアウト。その後、メディアテクノロジーラボの責任者を経て現職。

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