失敗から学ばせる。ビジネスパーソンでもデザイン思考が学べる、RCAのデザイン教育
HIP:欧米では、学生や若手社会人だけでなく、デザイン思考を学ぶ経営層やビジネスパーソンも多いと聞きました。
ペニントン:私が教鞭を取っていたRCAにも、10年、20年と社会人経験を積んだうえで、さらなる学びを求めて入学する人がたくさんいました。これまで積み重ねた体験も、文化も、年齢も違います。多様な出自の学生がいることは、RCAの素晴らしいポイントだと思います。
HIP:RCAのデザイン教育の特徴を教えてもらえますか。
ペニントン:RCAはアートスクールとして始まっているので、最終的に作品やプロダクトなどに落とし込み、かたちとしてアウトプットすることに重点を置いています。つまり、実践者を生み出す教育です。
細かい指示はありません。もし、教員が指示を出せば、卒業した途端、なにをすればいいかわからなくなってしまいます。自ら考えて動ける人材にならなければ意味がない。独立心をもった実践者を育てるのが、RCAです。
そのため、RCAには失敗を許す文化があります。自ら考えて動けば、当然、失敗することもあるからです。私も教育者として「このまま進めば失敗するかもしれない」という場面で、あえて指示を出さないという選択をしてきました。教育において、失敗から学ぶ機会を奪わないことが重要だと思っています。
HIP:そんなデザインの教育方針を持つRCAと、科学技術の知見を持つ東京大学生産技術研究所(IIS)がコラボレーションをした「RCA-IIS Tokyo Design Lab」では、デザインイノベーション教育プログラム「DESIGN ACADEMY(以下、デザインアカデミー)」を2018年11月より開講します。その特徴を教えてください。
ペニントン:「デザインアカデミー」もRCA同様、デザイナーからビジネスパーソンまで、立場や職種にかかわらず、デザイン思考を身につけてもらうことを目的にしたプログラムです。
このプログラムは、RCAと同じスピリットで取り組みます。そのキーとなるのは、3つの要素。「People(人々)、Place(場所)、Project(研究課題)」です。
Peopleは、先ほどもお話しした人材の多様性。学生も教員も、非常にユニークな経歴や背景を持っています。特に教員は、フルタイム勤務ではなく、自らのプロジェクトも抱えています。そこで培った経験などをもとに、RCAに新しい風を吹き込むのです。
Placeは、RCAの本部棟のあるサウスケンジントンのこと。ロンドンのなかでも博物館や美術館が多い地区で、デザイン性が高い建築物が集まっています。日頃からアートやデザインに触れる機会が多い環境に身を置くことで、自然に感性が磨かれていきます。
そして、Project。RCAでの研究はひとつの方法にこだわらず、多様性のあるアプローチによってなされています。なにかを研究していたと思ったら、翌日は全然違う分野の実験をしているということもしばしばあり、日々、いろいろな研究が行われています。
「デザインアカデミー」でも、以上の3つのキーを大事にしていくので、RCAと同じスピリットを感じることができます。本来であれば、ロンドンのRCAでしか体験できないことを、東京でも再現します。RCAの東京出張版が「デザインアカデミー」と思っていただけるように、同じカルチャーや価値観を大切にしていきたいと思っています。
デザイン思考はあくまできっかけ。すべての問題を解決する魔法ではない
HIP:2018年11月(9~10日、16~17日)に「デザインアカデミー」の第1回となるワークショップが都内で開催されます。これは、誰でも参加ができるイベントですよね。
ぺニントン:はい。このワークショップは、私とRCAの元同僚で友人でもあるティム・コーベンが講師を務めます。内容はRCAスタイルのデザイン思考を一から学ぶものです。
HIP:デザイン思考に触れたことがないビジネスパーソンでも、ワークショップを通してデザイン思考を理解できるようになりますか。
ペニントン:ワークショップを1日だけ受講したところで、それはきっかけに過ぎません。もちろん、重要な第一歩ではありますが、ビジネスパーソンの人生が一気に変わることは難しい。デザイン思考を学び、変化するためには、学び続ける必要があります。そのため、私たちは、長期にわたるプログラム開催も今後は視野に入れています。
HIP:今回のデザイン思考ワークショップはどのようなものになりますか?
ペニントン:ビジネスパーソンにデザイン思考をより理解してもらうために、従来の「デザイン思考ワークショップ」に「チリパウダー」を少し振りかけようと思っています。
HIP:どういう意味でしょうか?
ペニントン:デザイン思考を身につけることで、ビジネスパーソンはユーザー目線のものづくり、発想ができるようになりますが、今回はそこにさらにひと捻り加えるような方法を伝えたいと考えているんです。ご参加いただく方にとって、いい刺激になればうれしいですね。