INTERVIEW
「IPOだけに頼らない」。オムロンベンチャーズが見つけたディープテック成長のメソッド
井上智子(オムロンベンチャーズ株式会社) / 栗下泰孝(オムロンベンチャーズ株式会社)

INFORMATION

2023.09.08
取材・文:ムコハタワカコ
写真:坂口愛弥

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ヘルスケアのみならず、再生可能エネルギーをはじめとする社会インフラなどさまざまな事業を展開するオムロン。そのCVCとして2014年に設立したオムロンベンチャーズが2022年4月に「社長直轄部門」となったのは、社内からのより大きな期待を寄せられてのことだろう。

「Impact of CVC」第3回は、ヘルスケアやスマートシティ領域で、AI、ロボティクス、セキュリティ、エネルギー技術にフォーカスして投資活動を進める、オムロンベンチャーズにインタビュー。

投資先の選定では、自社のビジョンとの合致、事業の専門性の高さなど基礎面を重視しつつも、一方で「ビジョナリーなCEOにも惹かれる」と熱量も大切にする姿勢を見せる。同社の投資方針やビジョン、スタートアップへの支援のかたちなど、同社代表取締役社長の井上智子氏、マネージングディレクターの栗下泰孝氏に訊く。

直接のシナジーよりビジョンと将来性を重視

HIP編集部
(以下、HIP)

オムロンベンチャーズは2014年7月にオムロンのCVC機能として設立されています。井上さん、栗下さんはどのような経緯で参画されたのでしょうか?

井上智子氏
(以下、井上)

前職でも、当初エコシステムをつくるためにやりたいと考えていた案件がいろいろと実現し、医師のアイデアを事業化することも増えていきました。しかし、どうも「エコシステム感」を感じられませんでした。

日本は優秀な人たちはまだまだ大企業に多くいます。大企業がもっと変わらなければ、大きなイノベーションにつながらない。そう思っていたとき、オムロンのCTOに話を聞く機会がありました。とても未来志向でワクワクしまして、こういう会社ならエコシステムを発展させられるのではないかと思ったことが、参画したきっかけです。

オムロンベンチャーズ株式会社 代表取締役社長の井上智子氏
栗下泰孝氏
(以下、栗下)

私が入社したのは2022年5月です。以前は、旭化成で新規マテリアルの研究開発に携わっていましたが、製品化・事業化の難しさに行き当たりました。そのときに「CVCは世の中にあるものと社内のものを組み合わせて研究を加速する仕組み」と知って、CVC室へ異動しました。じつは当時、CVCが投資をする部署だとは知らなかったんですけどね(笑)。

いまも投資の仕事を続けているのは、それが「投資というツールを使いながら研究開発を加速させること」だととらえているからです。

オムロンベンチャーズ株式会社 マネージングディレクターの栗下泰孝氏
HIP

お2人とも、入社以前から投資を通じてスタートアップに関与されていたんですね。

井上

スタートアップは、はじめは誰もが「できないだろう」と思っていたものを、強く信じることで実現してしまうことがたびたびあります。そのため、スタートアップと一緒に仕事をすると、未来が見えてきます。しかしながら、私が入ったときの当社は、「いまのシナジー」にフォーカスし、事業部と何かしらのPoC(概念実証)や共同研究などの連携ができないと投資しにくい雰囲気で、このままではもったいないと考えました。

もちろん直接、深いシナジーがあれば申し分ないですが、ビジョンがオムロンとあっていれば、そのベンチャーが成功したときに、結果的にすごく良いパートナーになる可能性があります。また、オムロンのトップには、世界最先端の技術やビジネスモデルを持つスタートアップと一緒にやりたいというニーズを強くもっていました。

そこで当時は国内中心の投資活動でしたが、グローバルに広げ、シナジーの有無にかかわらず、積極的に投資していくことを提案しました。現在は、オムロンが長期戦略で掲げる「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」という3つの領域に焦点を当てています。

HIP

それらの3つの領域に関わるスタートアップとオムロンとのシナジーは深いのでしょうか?

井上

オムロンは「ソーシャルニーズの創造」を企業理念の1つとしています。直接的なシナジーが考えられないケースでも、ベンチャーを通じてこの3つを達成することができれば、まさに企業理念の実現だと考えています。そのため、この領域で重要な役割を果たしそうなスタートアップには、積極的に投資をしています。

「すごいこと」を本当に達成できるか見極める

HIP

投資先選定はどのような基準で行なっていますか?

井上

まず、スタートアップのビジョンがオムロンの長期戦略と合っているかどうか。それからビジョンを達成できるようなスキルセットをもった良いチームをつくれるかどうか。そして技術、ビジネスモデル、EXITの蓋然性。この辺が主なポイントかと思います。

HIP

経営陣やチームといった人の部分が大事だと。

井上

スタートアップは最先端の領域にものすごく詳しい人たちが、普通では考えられないようなエネルギーを注いでやるからこそ、すごいことができます。ですから、それを本当に達成できる人たちかどうか。それと、人と人とのコンビネーションを見ます。

私は、ビジョナリーなCEOも好きで、バーンと大風呂敷を広げて「そんな未来もあるな」と思わせてくれると、すごく楽しくなります。あとはその実現力ですね。栗下さんはどうですか?

栗下

専門性とリーダーシップと、それから一貫性でしょうか。「なぜこの経歴の人がこのスタートアップを始めたのか」と思って話を聞いていったときに、そこにちゃんとストーリーがあるといい。さらに、それを実現できるリーダーシップと専門性があれば、いいCEOだなと思います。

HIP

オムロンベンチャーズは設立から10年になろうというところですが、これまでに実績を積み上げてきたなかでわかった法則のようなものはありますか?

井上

直接的なシナジー目的の投資では、シナジーを実現する事業主体がスタートアップの可能性をよく理解して投資し、投資後もコミットしてシナジーを実現することが必要です。一方、シナジーを目的にしない場合は、ファイナンシャル的に大きく成功しそうかどうか、プロとしてちゃんと見なければいけない。どちらも中途半端だと、戦略リターンも財務リターンもでず、失敗になりやすいですね。

HIP

海外のスタートアップにも投資していますね。

井上

はい。まず、イノベーション集積地といわれるシリコンバレー、イスラエル、北欧などでプレゼンスの高いVCにLP出資をしました。

LP出資先の現地VCと共同投資をすれば、弊社が現地に拠点を持っていなくても、現地VCと一緒にモニタリングがしっかり行なえます。関係をつくり、VCとディスカッションをするなかで、ここはと思えるスタートアップに投資をしています。

こうした活動を通じて私たちの経験値もでき、そろそろ海外にも拠点をつくっていこうというフェーズに入っています。投資したあとのモニタリングを考えると、リモートでのコミュニケーションだけでは難しい部分がありますので。

スタートアップへの社員の派遣で得られる投資側のメリット

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