INTERVIEW
「IPOだけに頼らない」。オムロンベンチャーズが見つけたディープテック成長のメソッド
井上智子(オムロンベンチャーズ株式会社) / 栗下泰孝(オムロンベンチャーズ株式会社)

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2023.09.08
取材・文:ムコハタワカコ
写真:坂口愛弥

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スタートアップに派遣された社員が成長して帰ってくる

HIP

資金面以外のスタートアップの関わりについて教えてください。

井上

通常のVCでは人の紹介や、一緒に戦略を考えるといった支援となることが多いと思います。それも大事な欠かすことのできない支援です。加えて、オムロンのような事業会社には事業があり、多種多様なアセットがあります。それを活用した支援は、CVCだからこそできることだと思います。

HIP

支援の実例にはどんなものがあるのでしょう?

井上

そうですね、たとえば日本の大学・研究機関には、素晴らしい研究成果がたくさんありますが、なかなか事業につながっていないのが現状と思います。そういったシーズを事業化する支援をもっとできないかと、前職時代から考えていました。具体的な方法として、事業会社の人材とスタートアップが組めば、イノベーションの実現が加速すると思うんです。

一例として、東北大学発で認知症予防のソリューションを展開するスタートアップがあります。このスタートアップは事業経験のない方が多く、事業会社での経験のある人財が入ることで、事業化が加速できるのではないかと思いました。

当社に脳科学領域が専門で薬事について学んだ経験のある人材がおり、スタートアップのニーズにあわせてその人をスタートアップへ派遣することにしました。さらにオムロンには副業人材制度という、オムロン内のプロジェクトをオムロンの外にいる専門知識を持つ人材と連携して進めるための制度があります。これを用いて、マーケティング戦略立案やシステム設計などの支援に活用しました。

HIP

それがスタートアップの成長につながったんですね。

井上

メリットは私たちの側にもありました。CVCの支援にはさまざまなかたちがありますが、事業部のアセットを活用する場合には検討に長期間を要し、Win-Winを長期的につくり出すことが難しいことが多い。一方で、人を送り出すタイプの支援はお互いWin-Winをつくり出しやすいです。たとえば、いままで研究開発の視点で会社を見ていた事業会社のメンバーをスタートアップへ派遣すると、スタートアップはリソースがなく、何もかも自分でなんとかしなければ潰れてしまうため、トップの視点、CFOの視点など仕事をいろいろな視点で見ることができるようになって帰ってきます。

こういう取り組みは、大企業の人材をより活性化することにもつながると思います。副業人材制度にしても、最初にオムロンで活用したときには1名の募集枠に400名ぐらい応募があったんです。

全国にすごい人がいる、日本も捨てたもんじゃないと思いましたし、もっと人材を輝かせるような手段が必要なんだと考えさせられました。

研究シーズをもっと世に出すにはM&Aも一手

HIP

投資先のEXITについては、どのように考えているのでしょう?

井上

投資しているからEXIT先をオムロンにしなければいけないとは、基本的に考えていません。オムロンよりもっと良いパートナーがいて、スタートアップがやりたいことを実現できるのであれば、そこへ売却することもあります。

実際、過去にオムロンベンチャーズの投資先でEXITしたケースは、他社への売却によるものです。

私たちがフォーカスしている領域はディープテックが多いので、(投資の)時間軸が長いんですね。そこでIPOより、どこか大手と組んだ方がビジョンを実現するためには現実的なスタートアップが相対的に多いということは言えると思います。

HIP

日本のスタートアップのIPOは小粒で早い傾向もありますが、ディープテックにも投資しているところを見ると、大きく育てて世の中に出したいという考えもあるのでしょうか?

井上

われわれのケースでは、純粋に「もっといいパートナーがいる」という判断で(M&Aにより)イグジットしていますが、日本のベンチャーの課題としてはたしかに、IPO一辺倒というところがあります。これは日本企業がM&Aに二の足を踏みがちということも大きな理由だと思います。

医療機器の分野では特に、グローバルなエコシステムができているので、そう感じます。海外だと、最初のゼロイチの開発はベンチャーがやり、承認が取れるようなエビデンスをある程度そろえたところで大手がM&Aをして、そのあとのプロセスをやるという流れができています。

日本にもこういう仕組みがないと、せっかく研究シーズが全国にあふれているのに、どれもこれも実現しないで終わってしまうかもしれません。

HIP

つまり、M&Aによるオープンイノベーションをもっと加速させていきたいと。

井上

はい。日本の起業がもっとM&Aにも積極的になるといいなと思います。事例が積み重なることで、起業家も小さな段階で無理にIPOを狙うのではなく、自分のビジョンを達成するためにどういう道筋が取れるのか、複数のパスを考えられるようになります。いったんM&Aされてから、IPOするという手もありますし。

いろいろなパスを考えられるようになると、本当の意味でエコシステムを発展させていくことにつながるのではないでしょうか。

栗下

前職のCVCではM&Aを目的に少額出資をするスタンスでしたが、そのときにM&Aとは何かを考えさせられました。M&Aして終わりではなく、そのあと、どう一緒にやっていくか、どう成長させていくかをきちんと考えていかなければいけないからです。

最後までハッピーで終わればいいですが、もし失敗しても、その事業を売るといったプロセスを用意しておかなければ、M&Aという方法がうまく広がらないと当時から痛感していました。

企業の皆さんはM&Aを怖がります。でも、社内の研究開発には投資しているんです。投資先を社内からベンチャーへ変えるだけと考えれば、個人的にはM&Aもしていけばいいと思います。

HIP

CVCも、失敗がなければ成長ができないということですね。

栗下

じつのところ、企業では「投資しない」という選択がもっとも選ばれやすいんですよね。それは失敗しないからです。しかし、それでは何の知見もたまらない。失敗した人は「これをやるとどうなるか」を重要な局面でよく考えるんです。そういう知見がある人がもっと意思決定するようになれば、日本の企業も変わるだろうと思います。

「なかの目」と「外の目」との連携で事業を生む

HIP

オムロンベンチャーズはオムロンのなかでどのような位置付け、体制で運営されているのでしょうか?

井上

私はオムロンのグローバルコーポレートベンチャリング室の室長も兼任しています。通称「CVC室」と呼ぶこの組織は社長直轄の部門で、その下に共創戦略組織とオムロンベンチャーズとがあり、CVC室全体では約20名、うちオムロンベンチャーズに約10名が所属しています。

さまざまな最先端技術やスタートアップを外の視点で見るオムロンベンチャーズと、なかの視点を持った共創チーム。この2つをうまく掛け合わせれば面白いコラボレーション事例や事業が生まれるだろうという思想のもとに、組織が設計されています。

HIP

人事的な面で言うと、井上さん、栗下さんともに、オムロンの生え抜きではありません。

井上

オムロンベンチャーズは投資のプロフェッショナルとして、外部の人材も積極的に採用していくスタンスですね。オムロンとは違う人事制度を適用し、常に募集を行なっています。

繰り返しになりますが、オムロンのなかの最先端技術を開発する人たちと、外の面白い視点を持った人たちが連携しながら、うまく目利きができる部隊にしていきたいと考えています。

HIP

オムロン社内からCVC活動はどのように評価されていますか?

井上

当社のCVC活動は、以前はグローバル戦略本部や技術・知財本部、イノベーション推進本部など、何らかの本部の下位組織でした。それが2022年4月に社長直轄部門となったということは、一定の評価をいただいているのではないかと思います。

特に、常にトップと密にコミュニケーションし続けて、「世の中にこんな面白いものが出てきています」「どんどん連携してオムロンがビジネスにしていかなければ」とずっと言い続けてきたことが、面白いと評価されているのではないでしょうか。

HIP

上層部の方とのコミュニケーションは頻繁にあるのですか?

井上

オムロンは、ヒエラルキーがあるようで案外フラットです。4月から新たに社長となった辻永(順太 代表取締役社長CEO)とは毎月ミーティングしています。何かちょっとした問題が起こりそうなときでもすぐに連絡ができて、いろいろと相談できるような関係性で、その辺はすごくいい組織だと思います。

HIP

投資先選定の意思決定はどのように行なっていますか?

井上

オムロンのCTOとCFO、そして私の3人からなる投資委員会での合議制で、基本的には1回で意思決定できる仕組みにしています。

柔軟な支援のかたちでエコシステムを築いていく

HIP

投資をしたときの判断と、事業を作るときのギャップが生じることもあるかと思いますが、それはどのようにクリアしているんでしょうか?

井上

まず、オムロンとのコラボレーションは、「出資したので、あとは事業側でやってください」というスタンスでは実現しません。最初から事業側、ベンチャー側双方の立場で検討し、Win-Winの状況を生み出す必要があります。そして起業家も「なにがなんでも実現するぞ」という強い思いがない限りは、当然ですが事業にはなりません。

出資する側も、される側を理解し当事者意識をもたないと大きな事業は生まれません。投資先がどんどん増え、そのスピードとリソース拡充のスピードはミスマッチすることもあります。そこで取捨選択は必要になりますが、事業側、もしくは共創のチームと投資担当がしっかり一緒のチームになって検討を進めていけるのがベストだと考えます。

HIP

社内外の人の力でエコシステムを築いていこうというお2人の思いが感じ取れました。

井上

オムロンベンチャーズにはスタートアップに対する多様な支援方法があります。通常、事業会社のためのプロジェクトに人を派遣することはよくありますが、ベンチャーの成長支援のためにCVCから人を派遣することはなかなか難しいのではないでしょうか。

これはファイナンシャルVCにもできないことで、そういう支援は起業家から見れば大変特徴的な点かと思います。その点は、おっしゃるとおり人の力が大切なポイントです。

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プロフィール

井上智子(オムロンベンチャーズ株式会社 代表取締役社長)

新卒で東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行し、投資会社勤務を経て産業革新機構に入社。産業革新機構傘下で医療機器のベンチャーキャピタル設立から運営・投資に携わる。2018年4月より現職。

栗下泰孝(オムロンベンチャーズ株式会社 マネージングディレクター)

日本学術振興会特別研究員、ハーバードメディカルスクール客員研究員を経て、旭化成に入社。研究開発に携わった後、2018年よりCVC室に所属。スタートアップの発掘と投資、事業開発に携わる。2022年よりオムロンベンチャーズに参画。

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