常識を覆すラーメン店をつくり上げる。日清食品の新規事業「RAMEN EX」とは
吉田洋一(日清食品ホールディングス株式会社新規事業推進室室長)
2020.07.27

本格的なラーメンを家で食べたいけれど、出前だと配達中に麺が伸びるうえにスープも冷めて美味しくない。そんな課題を解決したのが、日清食品のラーメンデリバリーサービス「RAMEN EX」だ。即席麺で培ってきた技術を結集して開発した専用の麺とスープによって、お店で食べるラーメンの美味しさを自宅やオフィスに届けることに成功した。5月11日のサービス提供開始以来、そのクオリティーの高さで舌の肥えたラーメン通たちをも唸らせている。

なぜ、即席麺で圧倒的シェアを誇る日清食品がデリバリーを始めたのか? 本プロジェクトを推進する新規事業推進室室長・吉田洋一氏にお話をうかがうと、「Beyond Instant Foods」をスローガンに掲げ、新たな食文化の創造を目指す、日清食品の未来像が見えてきた。


取材・文:笹林司 写真:玉村敬太

(※本取材はオンラインで行い、撮影は換気に配慮した環境で行っています)

日清食品のノウハウを結集して、有名ラーメン店の味を忠実に再現

HIP編集部(以下、HIP):「RAMEN EX」、実際に注文して食べたのですが店と違わぬ美味しさに驚きました。

吉田洋一氏(以下、吉田):ありがとうございます。最近は、取材前に商品を食べてもらっているのですが、一口食べて「すごいな」と感想を漏らしてくださる方が多く、心のなかでガッツポーズしています(笑)。美味しさに感動していただいている状態でお話しすれば、われわれが商品に注ぎ込んだ情熱が伝わりやすくなりますからね。

日清食品ホールディングス株式会社新規事業推進室室長の吉田洋一氏

HIP:確かに、感動するほどの美味しさでした。さっそくですが、サービスの概要を教えていただけますか。

吉田:「RAMEN EX」は、有名ラーメン店の味を自宅やオフィスにお届けするデリバリーサービスです。メニューの第1弾には、パートナーとして「一風堂」「すみれ」「ますたに」「無鉄砲」に参加していただき、日清食品オリジナルの「豚天国」もラインアップしました。麺とスープ、そして各メニューに合わせた具材は、有名店の店主様と共同で「RAMEN EX」専用に開発したもの。即席麺、チルド食品、冷凍食品で多様な商品を開発してきた日清食品グループのノウハウを活用し、本格的な味を再現しており、お客様は手元に届いた商品を電子レンジで加熱するだけで、お召し上がりいただけます。

一風堂のセット。麺とスープを電子レンジで7分加熱するだけで食べられる

吉田:現在、東京には西麻布店と新宿店、大阪には梅田店、福岡には博多天神店があり、各店舗から半径約3.5km以内が配達エリアです。注文や配達は「Uber Eats」「出前館」を通じて行います。

ラーメンが好きだけど有名店までは遠くて気軽に足を運べない、小さな子どもがいて行列に並んだり店内で食べたりするのが難しいなど、お客様のさまざまな不満を解消することができるサービスです。一方で、「RAMEN EX」で食べたことをきっかけとして、実際に店舗に足を運びたくなるという相乗効果もあるでしょう。

HIP:サービスのローンチは、2020年5月11日でした。緊急事態宣言による外出自粛期間中でしたが、狙ったタイミングだったのでしょうか。

吉田:プロジェクトが動き始めたのは1年ほど前です。コロナ禍でデリバリー需要が増えたから始めたわけではありません。「日清食品は即席麺をつくっているだけあって、動きが速い」なんて言われたこともありましたが、実際はたまたまタイミングが重なっただけです。

ビジネスを加速するための、「小さい出島組織」という選択

HIP:「RAMEN EX」は、2019年からスタートした新規事業創出プロジェクトの第1弾だとうかがいました。この事業を選んだ理由があればお聞かせください。

吉田:ひとつは既存事業との親和性です。これまでに培ってきた技術やノウハウを活用できますし、「即席麺の日清食品がラーメンのデリバリーをやる」という消費者に対するわかりやすさもある。それに、都市部で浸透し始めた「Uber Eats」などのフードデリバリーと上手く繋げていくことで、新しいチャレンジができるのではないかという考えもありました。

完成した「豚天国」

HIP:既存の強みを活用できるサービスから始めたのですね。新規事業推進室はどのような部署なのでしょうか? 立ち上げの経緯を教えてください。

吉田:いま、即席麺は世界中のあらゆる国や地域に普及しており、総需要は全世界で年間1000億食以上にのぼります。それは一方で、伸び代が少ないビジネスだとも言えます。世界総需要の約80%は袋麺なので、カップ麺の普及によってビジネスがスケールアップする余地はありますが、さらにその先は考えづらい。即席麺と新しい事業による「両利きの経営」を実現するため、新規事業推進室を立ち上げました。

この部署は、日清食品ホールディングス副社長・COO兼日清食品社長である安藤徳隆の直轄組織です。これまでの日清食品にない新しいチャレンジをスピーディーに実行するため、このような体制を敷きました。既存の組織構造のなかに入ってしまうと、どうしても動きが遅くなりますが、直属の上司が安藤ですから、意思決定のプロセスが非常にシンプルで、やるべきことをすぐに事業化していくことができます。メンバーはビジネスサイド10人、開発サイド10人で、新しいことをしたいという意欲を持った人間を社内外から集めました。

HIP:スピード感を重視されているのですね。

吉田:実際、「RAMEN EX」もわずか1年で事業化しました。のんびりしていてはライバルに先を越されます。食品事業にも、想像をしなかった異業種やスタートアップが参入してくる時代です。スタンフォード大学の生化学教授であるパトリック・O・ブラウンが立ち上げた、人工肉を手掛けるスタートアップ、インポッシブル・フーズなどはいい例ですね。

HIP:確かに、食とは畑違いに思えます。

吉田:多様なプレーヤーが食品事業に参入し、イノベーションを起こし始めています。自分たちの目が届かないところにも、ライバルが存在しているわけです。先をこされないためにも、安藤からGOサインが出れば、すぐプロジェクトに着手するような体制をとっています。

「つねに失敗から学んでいる」。ノウハウ0から1年でローンチできた理由とは

HIP:新規事業推進室を立ち上げたあと、サービス開発をどのように進めていきましたか?

吉田:安藤からは「新しいことに取り組んでいても、世の中にアウトプットされない状態が続くのでは意味がない。小さくてもよいから、1年以内に何か事業を立ち上げなさい」と言われていました。でも、われわれはプロダクトアウト型の会社ということもあり、0から事業を生み出す経験がほとんどない。

そこで、アジャイル開発でプロジェクトを進めていくことにしました。もちろん食に関わることなので、安全性や品質については完璧と言えるレベルに仕上げていきましたが、サービスの内容や利便性に関してはPDCAを回しながら徐々に充実させていこうというスタンスです。例えば、事業化までのリードタイムを短くするため、スタート時の配達エリアやメニューのラインナップは必要最小限に留めておき、ローンチ後にお客様の声を取り入れながら改善し、拡充していく。すべてを完璧にしようとすると何年もかかってしまい、結果としてライバルに先をこされることになりかねないですから。

HIP:ローンチする過程で大変だったことはありますか?

吉田:ラーメンなら日清食品の得意分野だと思われるかもしれませんが、今回のラーメンはデリバリーした状態でも、お店で食べるような美味しさを保つ必要があります。ですから開発は一筋縄ではいかず、試行錯誤の連続でした。それこそ、たとえ各ラーメン店の店主様からOKをもらっていても、自分たちが納得できていなければやり直しです。

また、店舗出店に関するノウハウや、フードデリバリーのマネージメントなどについては、社内にまったくリソースがない。「Uber Eats」や「出前館」と交渉するときも、いかにわれわれの知らないことが多いのかを思い知らされました。まさに失敗の連続で、何度も事業計画を変更することにもなりました。

ビジネスイノベーションを実現し、メディアで成功談を語っている人がいますが、その人たちも足元では必死でもがいているのだと思います。私自身、新規事業推進室に移ってからというもの、思いどおりにいったことはほとんどなく、いまも悩みごとだらけ。つねに失敗から学んでいます。

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