INTERVIEW
新しい森永製菓になるために。ベンチャーとの交流が生んだ、大きな変化とは
金丸美樹(新領域創造事業部 チーフマネージャー)

INFORMATION

2018.03.12

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1899年に創業、「ミルクキャラメル」や「チョコボール」など、国民的な定番商品によって製菓業界を牽引してきた森永製菓が、近年、新規事業を積極的に展開している。

そのきっかけとなったのは、2013年の新井徹社長の就任。2014年には「新領域創造事業部」が設立され、以降、毎年「森永アクセラレータープログラム」が実施されている。「破壊的イノベーション」を目的とした同プログラムでは、ベンチャー企業や起業家・事業家からアイデアを募り、協業というかたちで既存の製菓事業に捉われない領域への進出を目指している。

100年以上続く老舗企業が、革新的なイノベーションを目指すまでにはどういった変化があったのか。ベンチャー企業との交流によって起きているという社内の変化とともに、新領域創造事業部のチーフマネージャーを務める金丸美樹氏に話を聞いた。


取材・文:小沢あや 写真:豊島望

「自由に、新しいことをやれ」と急に言われても、何をしていいのかわからない。

HIP編集部(以下、HIP):森永製菓が新規事業に取り組んでいる背景には、2013年の新井社長就任が大きなきっかけだったとうかがいました。就任当時、新井社長からはどんなメッセージが伝えられたのでしょうか。

金丸美樹(以下、金丸):「会社としてさらなる成長を遂げるために、もう一度、創業しなおすつもりでチャレンジしなければならない」というメッセージが全社に共有されました。

森永製菓が100年以上続いてこれたのは、これまでも小さなイノベーションを続けてきたから。未来で生き残っていくために、新しい取り組みに挑んでいくことが求められたんです。

HIP:そのメッセージを受けて、すぐに社員全員が変わることができたのでしょうか?

金丸:森永製菓の商品への愛は誰もが持っているし、「お客さまに新しい価値を提供したい」という思いはありました。ただ、投資が必要な新規事業には否定的な声もあり、すぐに新規事業が生み出されたというわけではありませんでした。

少し大きな話になってしまいますが、日本の教育は「ゼロから何かをやる」ということが重要視されていなかったと思うんです。目標に向かって、一生懸命、指示されたことをやるのがよいとされていた。そんななかで、「自由に、新しいことをやれ」と急に言われても、何をしていいのかわからないという状況でした。

新領域創造事業部 チーフマネージャー 金丸美樹氏

HIP:金丸さんは、以前から社内で新規事業を担当していたそうですね。当時の現場では、どういった課題を感じていましたか?

金丸:2005年から、部署横断の新規事業創造プロジェクトに取り組んでいましたが、当時は私を含めてほぼ全員がほかの部署との兼務。片足状態では、新しいことをやる余力が生み出せず、だんだん人も離れていきました。

その後、新井現社長(当時は経営戦略室長)のもと、「経営戦略イノベーショングループ」に配属されました。外国人旅行客向けのインバウンド需要が高まった2010年に、東京駅にアンテナショップを出店することになったのですが、イノベーショングループに所属していたのは3人だけ。あとの2人は別の事業をすでに始めていたため、私一人だけで担当するような状態でした。

「きっと誰かやってくれるだろう」。それこそ、大企業病ですよね

HIP:たった一人で、そういった新規プロジェクトを実行できるものなのでしょうか?

金丸:大変でしたね……。アンテナショップの立ち上げには、大量のオリジナル商品が必要です。私はこれまで、新商品をつくったことはありましたが、物流やお金の仕組みがまったくわかっていなかったんです。「そういうことは、きっとほかの部署がやってくれるだろう」と思っていた。それこそ、大企業病ですよね。

既存商品は、注文を受け、入金があったうえで出荷されるのが現在の会社でのフロー。そうすると、アンテナショップからの入金がないと出荷できないとなります。物流担当の人に「このお金はどこから出すつもりなの?」と言われて、初めてそのことに気づくほどで。とにかくいろんな部署をまわって、イチから教えてもらっていました。当時は社内をウロウロしているだけで「危険人物がきた」と警戒されていましたね(笑)。

HIP:協力してくれる人も、ほとんどいなかった?

金丸:当時は、巨大組織のなかで、それぞれの部署で与えられた仕事を効率化し、精度を高めていくことが最優先。そのなかで、よくわからない部署の若手社員が「教えてください」なんて来たら、嫌がられるのは当たり前。組織化された企業では仕方のない話だと思います。

ただ、そのなかで、「部署」としてではなく、「個人」で相談することが大事だと気づきました。そうすると、ハンコはくれないけど、アドバイスはくださるんです(笑)。

新しい仕事に拒否反応を示す社員もいる一方で、実現した、実現しないに関わらず、過去に同じように新しいことにチャレンジしてきた先輩もいる。お菓子においても新商品開発が重要なので、新しいことが好きな人がじつは多かったんです。そういう社員とは、どこかで通じ合えるというか、私の気持ちをわかってくれたり、新しいことを面白がってくれたりする。そういう人を探してツテを辿るなど、密かに応援してくれる人を増やしていきました。

HIP:個人レベルで巻き込みながら、進めていくしかなかった?

金丸:はい。そうやってどうにかアンテナショップをオープンさせることはできましたが、大きな課題を感じた経験でした。新規事業に限った話ではないですが、1人でできることは限られている。自分ができない仕事や苦手なことを把握し、得意な人に楽しんでやっていただく。いかに社内外の方に協力していただくか、応援してくれる人を増やすが大事なんだなと思いました。

各部署のエースが集結した、新たな部署でのチャレンジ。「アクセラレータープログラム」実施の決定打とは

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