ベンチャーと大企業の協業を成功させるためには、お互いをリスペクトし、依存しないことが重要
HIP:実際にベンチャー企業と事業を進めていくうえで、文化やコミュニケーションの違いにとまどいはありませんでしたか?
金丸:以前、他社の方に「森永にはいい人がいるけど、強い人がいない」と言われたことがありました。当時はとても悔しかったのですが、この取り組みを通じて、それも強みのひとつかもしれないと思いましたね。森永の人って、素直なんですよ(笑)。知らないことや、他社の人へのリスペクトがある。
そんな素地もあってか、ベンチャー企業との協業でもいい関係が構築ができました。まだまだ変われる可能性がある。会社としての伸びしろがあると思いましたね。
HIP:ベンチャー企業と大企業が協業するうえでの「いい関係」とは、どういったものなのでしょうか?
金丸:お互いにリスペクトすること、お互いに依存しないことですね。事業アイデアに対して単純に資金を提供するだけの関係になってしまうと、次第にベンチャー側は支援を受けることが目的になってしまい、プロダクトの本質を見失ってしまう。大企業側も「お金を出していればやってくれる」と丸投げになってしまいます。そうなってしまっては、協業の意味がありません。
HIP:実際に仕事をするなかで、ベンチャー企業の実行力やスピード感に影響を受ける社員は増えましたか?
金丸:はい。アクセラレータープログラムと並行して、ベンチャー企業への出向というかたちで、社外留学を行ったこともありますが、意識は大きく変わったと思います。先ほどのウィライツにも、ある社員が出向しました。
私たちは、食品というお客様の口に入るものを扱っている会社です。当然、厳格な品質管理がありルールも厳しい。仕事においてはさまざまなルールに則って、確実に、正確に、しっかりと役割を果たすことが要求されます。
そんな環境から、社長と自分の2人だけしかいないような企業に出向して、「自分で考えて動き、積極的に発言しなければならない」というカルチャーに触れる。びっくりするほど成長して帰ってきましたよ。
「外部の風」を入れることは成功した。次は、チャレンジをかたちにして「新しい森永」を
HIP:金丸さん自身も、2017年に社内起業というかたちで、株式会社SEE THE SUNを立ち上げられました。これも、そういった変化のなかで生まれたものなんですか?
金丸:そうですね。もともとは、学童保育におやつを販売するウィライツとの事業を通じて、アレルギー対応食品の必要性を感じていたんです。そのなかで、いろんな方に相談していくうちに、アレルギーに限らず「健康」と「おいしい」を両立させた食品に大きなニーズがあるんじゃないかと気づき、当初は社内の新規事業として提案しました。グルテンフリーのパンや、ヴィーガンの方のための大豆ミートといった商品を、各地の生産者や企業とタッグを組んで販売しています。
HIP:森永製菓とは別の会社にすることに、どういったメリットがあったのでしょうか?
金丸:健康に根ざした商品をつくっていくためには、地道に作物の研究を重ねてきた農家さんやメーカーさんの協力が不可欠でした。でも、そういうところにいきなり大手企業がいくと「技術を盗まれるんじゃないか」と構えてしまう人もいたんです。
そうではなく、同じ目線で「事業を一緒に育てていきませんか?」という提案をすることで、スムーズにつながることができた。そのうえで、量産化の技術や販路の拡大など、森永製菓の強みも利用することができる、というのがメリットになったと思います。
HIP:森永製菓の社員として、社内起業は史上初の試みですよね?
金丸:はい。実現には、役員の方々に「アクセラレータープログラム」のメンターとして参加していただけたことも、大きかったと思います。新しいことをやる重要性や、その熱量を、間近に感じてもらえた。しかも、事業をよりよくするためのメンターという立場なので、すごく肯定的に向き合ってもらえたんじゃないかと思います。
「アクセラレータープログラム」も含め、これまでは既存のアイデアをスケール化する「1→10」の取り組みが多かったのですが、SEE THE SUNで挑んだことは、アイデアをゼロから生み出し、かたちにする「0→1」です。新しい領域に、社内起業というかたちでチャレンジできた。
手前味噌ではありますが、この実績によって、今後、新規事業を行ううえでの選択肢の幅が広がったんじゃないかなとは思います。とくに大きな企業では、実績の有無というのは大きな意味を持ちますからね。
HIP:いろんな種を蒔き、チャレンジを続けることで、さらに大きな変化を起こすことができるのかもしれませんね。
金丸:新領域創造事業部に与えられたミッションのうち、「外の風を取り入れること」は、達成できたのかなと思っています。ベンチャー企業と接点をつくったことによって、社員それぞれが経営者・当事者意識を持つようになりました。現場レベルで、そういった意識づけができたことはよかったですね。
意識だけではなく、今後は事業としてチャレンジをかたちにしていかなくてはならない。そうすれば、さらに100年続くような「新しい森永」になることができると思います。