キャリア官僚×みずほFinTechのキーマンが語る。日本のイノベーションの未来
片岡修平(内閣官房 参事官補佐) / 大久保光伸(株式会社みずほフィナンシャルグループ 株式会社みずほ銀行 デジタルイノベーション部 シニアデジタルストラテジスト / 株式会社Blue Lab CTO)
2018.08.10

「公的と民間」や「営利と非営利」「縦割りの業界」といった垣根を乗り越え、社会全体で課題に取り組む必要がある。

HIP:そもそもいまこのタイミングで、規制のサンドボックス制度が各国で続々と設立されているのには、どんな社会背景があるのでしょうか?

片岡:いま、時代は第四次産業革命の時代です。第一次で蒸気機関、第二次で電力やモーター、第三次ではコンピューターと、それぞれの時代で新しい技術が生み出されては、社会実装されてきました。

これまで、第三次産業革命の世界観のなかでイノベーションを起こしてきたGoogleやFacebookといった企業のサービスは、インターネットのなかだけで完結するものがほとんどでした。しかし、さらに次世代の技術であるAIやブロックチェーン、IoT、ビッグデータやロボットといった技術を使って「生活」を便利にするサービスを生み出したいと考えたとき、例えばモビリティーやヘルスケア、決済など、リアルエコノミーとの接点が生まれます。そのなかでどうしても、既存の法や政省令などによる規制にひっかかってしまう。そうした問題に、各国が同時に直面していると思います。

HIP:その一つの解決策が、規制のサンドボックス制度ということでしょうか。

片岡:そうですね。これまで存在していた、「公的セクターと民間セクター」や「営利と非営利」、またいわゆる「縦割りの業界」といったさまざまな垣根を乗り越えて、社会全体で課題に取り組む必要が出てきていると思います。

自席に座っているとなかなかわからないことが、少し外に出ただけですぐにわかることもある。

HIP:片岡さんはボストンコンサルティンググループ、投資ファンドといった民間でのご経験もあるそうですね。まさにご自身が「越境」を体現されているように見受けられます。

片岡:民間での経験は、いまも非常に活きていると感じています。大きな組織では、ずっと自席についていて、上から舞い込んだ仕事をすぐに打ち返すことが評価される傾向にあります。もちろんそのスピード感には良さがある一方、既存のやり方を疑って、より良い方法を模索していく姿勢も大切だと思います。

私の場合、一日に業務時間が8時間あるとしたら、そのうち2時間くらいは外に出て、いろんな方から生の声をヒアリングするようにしています。そしてそこで得た最新事例や新たな気づきのポイントを、内部で共有したり、企画立案に活かしたり。そうしたことを繰り返すうちに、必ずしも席にいなくても、「まあ、時々役に立つことを教えてくれるからな」などと、組織のなかで新しいタイプの信頼を得ることができてきたと感じています。こうした働き方で政策立案に貢献する役割を与えてくれた、私の上司である中原裕彦内閣参事官にはとても感謝しています。

行政のあり方も、時代の流れに敏感に反応していかなくてはならないものと思います。「世の中の人たちが、どういうことに困っているのか?」。座っているとなかなかわからない「現状の認識」が、少し外に出ただけですぐにわかったりします。フットワークを軽く保つことの大切さは実感しています。

HIP:大久保さんは、みずほフィナンシャルグループのデジタルイノベーション部でデジタル戦略とオープンイノベーション、銀行API(残高照会や資金移動などを、外部のアプリケーションから利用できるようにするための仕組み)の統括を担うかたわら、ベンチャーキャピタルのWiLとみずほ銀行の合弁会社として設立されたBlue LabでもCTO(最高技術責任者)を務めていらっしゃいますね。

大久保:はい。Blue Labは金融以外の異業種とのあいだに、FinTechやIoTなどの技術を活用した新事業を生み出すためにつくられた会社です。銀行からの出資額が多いと銀行業の範囲内でしか事業ができないので、みずほ銀行からの出資は15%以内に抑え、他行との協業にも柔軟に対応しています。

働いているメンバーにしても、さまざまな地方金融機関からご出向いただいており、自分から「やります!」と手を挙げて来ているモチベーションの高いメンバーばかり。お互いの知見やリソースを共有したり、シェアしたりしながら働いています。

スマホを中心とした生活動線に入り込んだサービスをつくらなければ、誰にも使ってもらえなくなる。

HIP:そんなお二人が考える、日本でのFinTechの社会実装における現状の課題とは、どういったものでしょうか。

片岡:FinTechについて、日本のプレゼンスがとても低いことに課題感を感じています。イギリス・ケンブリッジ大学のオルタナティブ金融センター(Cambridge Centre for Alternative Finance)という調査機関(世界中の2,000社以上のFinTech企業と接点を持ち、FinTech専門としては世界最大級)が2016年から2018年にかけて出した、世界各地域の金融イノベーションに関する調査レポートは、計1199ページ、2万字以上ものボリュームがあるにもかかわらず、日本について書かれたのはたった2ページです。

英語で書かれた日本の資料が少ないという理由もありますが、少なくとも英国から見て日本のFinTech市場は小さく見えてしまっているということ。日本も本腰を入れていると、国内外に積極的に打って出ないといけないなと危機感を持っています。

大久保:2007年にiPhoneが発売されて以来、お客さまの行動、生活はスマホを中心にしたものへと大きく変化していますよね。その新しい生活と金融機関のシステムのあいだには、ギャップがまだまだあるのが現状。それを変えていきたいと思っています。

例えばみずほ銀行がAPIを提供しているアプリに、「wellnote」という家族の思い出を残すためのSNSがあります。離れて住む家族と、写真や動画を送りあってコミュニケーションをすることができるSNSですが、銀行APIを活用することによって、祖父母から父母へ、子育て支援のための送金がスムーズにできるようになりました。

他にも例えば、LINEからスタンプを送るだけで残高照会ができるようにしたり。スマホを中心としたお客さまの生活動線にきちんと入り込んだサービスをつくらなければ、誰にも使ってもらえなくなってしまいます。

HIP:日本のFinTechがまだまだ成長途上ということに、危機感を感じていらっしゃるのですね。

大久保:そうですね。なんとかして成長をスピードアップしていくために、銀行員として動きにくい部分は個人で活動しています。FinTech協会のアドバイザリーボードを務めたり、有志で創設した「FINOVATORS」というプロボノ団体で活動したり。この団体では、FinTechを手がけるユニコーン企業(企業評価額が10億ドル以上で、非上場のスタートアップ企業)が日本からもっと生まれて世界へ羽ばたいていける環境づくりを目指し、スタートアップのメンタリングや、パブリックセクターへの提言、海外業界団体との連携などを行っています。

片岡:さまざまな角度から動くことって、非常に大事ですよね。新しいことであっても偶然複数人から聞くことで、「ああ、そうなんだ」と納得してもらいやすい傾向はあると思います。私自身、海外との連携や情報収集の際には、正面突破の申込はもちろん知人・友人経由の紹介など、さまざまな角度から動かないと取りに行けない情報もありました。

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