キャリア官僚×みずほFinTechのキーマンが語る。日本のイノベーションの未来
片岡修平(内閣官房 参事官補佐) / 大久保光伸(株式会社みずほフィナンシャルグループ 株式会社みずほ銀行 デジタルイノベーション部 シニアデジタルストラテジスト / 株式会社Blue Lab CTO)
2018.08.10

AIやブロックチェーン、IoT、ビッグデータなどのテクノロジーを使った、まったく新しい事業を始めるにあたっては、法や政省令による規制が立ちはだかる場合も少なくない。そんな事業者の悩みに応えるべくつくられたのが、2018年6月に施行された「規制のサンドボックス制度」だ。

期間や参加者を限定することで、まずは「事業」ではなく「実証実験」としてプロジェクトを実施し、そこで得られた結果をもとに規制改革につなげていこうという同制度。2016年5月にイギリスで初めて社会実装されたのを皮切りに、現在20か国あまりで創設されている。

今回話を聞いたのは、内閣官房でこの制度を担当する片岡修平氏と、みずほフィナンシャルグループの大久保光伸氏。大久保氏はみずほ銀行で、デジタル戦略とオープンイノベーション、銀行API(残高照会や資金移動などを、外部のアプリケーションから利用できるようにするための仕組み)の統括を担いながら、ベンチャーキャピタル・WiLとみずほ銀行の合弁会社 Blue LabでもCTOを務める。

金融の分野において海外では、規制のサンドボックス制度を活用し、ブロックチェーン技術を活用した国際送金サービスや、金融取引履歴などを使って住宅ローンの可否を判断するサービス、生体認証を利用したQRコードによる決済サービスなどが生まれている。いずれもテクノロジーの力によって、より生活者にとって便利な金融サービスを提供するものだ。

日本では同制度によって、どのような変化が起きようとしているのか? イノベーションの起きやすい社会づくりに尽力する片岡氏と、金融領域から生活をますます便利にするべく活動する大久保氏、両氏に現状の課題と描く未来を聞いた。


取材・文:市來孝人 写真:田中一人

新事業を「まずはやってみる」ことを可能にする制度。その背景にあった課題とは

HIP編集部(以下、HIP)「規制のサンドボックス制度」とは、どのような制度なのでしょうか?

片岡:ひとことで言うと、「まずはやってみよう」という制度です。AIやブロックチェーン、IoT、ビッグデータなど、革新的な技術を使った新規事業をかたちにしたいと思っても、法規制のために事業化できない、という悩みを抱えている企業の方は多いと思います。そこで規制改革を要望しようとしても、「需要はあるのか?」「弊害にはどう対応するのか?」といった点については、真摯に考えているにしても、事業化前にこれを証明することが簡単ではなく、前に進めなくなってしまうことが多い。

内閣官房参事官補佐 片岡修平氏

片岡:これまでは一つのセオリーとして、海外でうまくいっている事例を参考に日本の規制改革につなげるという方法もありました。しかし、世界中の企業が日夜新しい技術を活用したサービスづくりとその社会実装にスピード感を持って取り組むいま、海外の成功事例を指をくわえて待っていては、あっという間に海外勢にその市場を席巻され、日本の企業は競争に負けてしまいます。

そこで必要となるのが、規制のサンドボックス制度です。現行法の規制のもとでは実現が難しいと思われる新規事業のアイデアがある場合に、まずは「事業」ではなく、期間や参加者を限定した「実証」を行うことを可能にする。そして実証を通じて集めたデータをもとに、規制改革につなげていくという考え方です。

例えば社内でも、何か新しいことをやる前に上司に許可を取ろうとするとキリがないですよね。「やってもいいですか?」と他の人に投げかけたその時点で、勝率は「やれる」「やれない」の50%になってしまう。それよりもまず小さくやってみて、「こういう結果が出ました。これっていい話ですよね」と説得の材料を得られれば、よりスムーズに進めていくことができるはずです。

規制のサンドボックス制度によって、より分野横断的にビジネスをつくっていけるようになる。

HIP:金融の分野では、この制度によってどのようなアイデアがかたちになっていきそうでしょうか。

大久保:異業種との連携がさらに積極的にできるようになりそうだと、いまからわくわくしています。事業の内容によっては規制の所管官庁が複数にまたがることもあるなか、今回の制度では、内閣官房の一元窓口が複数の省庁とのあいだに入ってサポートしてくれる。より分野横断的にビジネスをつくっていけるようになると期待しています。

みずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション部 シニアデジタルストラテジスト 大久保光伸氏

HIP:金融と異業種とが連携したサービスとは、具体的にはどのようなものでしょうか?

大久保:例えば、カナダのCUneXusという会社によって実用化されている例ですが、モバイルバンキングサイト内でローンの事前審査から新車探しまで、ワンストップで進められるサービス。金融アクションが購買動線のスタート地点になることに着目してつくられたサービスです。ディーラー側は広告宣伝コストをかけることなく、購入資金を持った確実な顧客にリーチできるため、結果的に顧客にとって安価な価格でオファーすることができます。

みずほ銀行としては、昨年7月に民泊事業大手のAirbnbとの業務提携を始めました。これに付随して、部屋の貸主に対する損害保険のプランや、バイリンガルな接客スタッフの派遣、ペットの見守りといったサービスも新規でつくっていきたいと考えています。

ドバイやアブダビに学び、日本のサンドボックス制度にも「外需を取りにいくDNA」を持たせたかった。

HIP:規制のサンドボックス制度の設立に、片岡さんはどのようなかたちで関わられたのでしょうか。

片岡:構想と基本設計は上司が行っていて、私はそこに2017年7月から参画しました。国内の事業者の需要把握に加えて取り組んだのが、海外の事例から学ぶことです。学ぶ先として、日本と経済状況の近しい西欧諸国はまず外せませんが、それだけでは「振れ幅」がなくなってしまう。どういうことかというと、環境ややり方が大きく異なる複数の国を見たうえで、日本が世界と戦うためにベストな方法を模索することが、非常に重要だと思っています。

そこでサンドボックス制度の創設にあたっては、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイとアブダビにも着目することが重要だと思いました。ちょうどそのころ、アブダビでグローバル166社のFinTechスタートアップを招待したカンファレンスもあり、こうした取り組みのすごさについて、UAEの担当者か、というくらいの熱量を込めて上司にプレゼンしたのです。

HIP:中東エリアに目をつけた理由はなんだったのでしょうか?

片岡:日本の人口がこれから必ず減少していくことを考えると、もともと内需のある、人口の多い国から学ぶだけでは十分ではないなと。UAEは人口が900万人あまりしかなく、外国人労働者の比率も非常に高い。しかしながら、サンドボックス制度の創設、募集開始から最初の実証企業群の認定まで約6か月と、運用のスピード感では世界最速級。応募もUAEのみならず、さまざまな国籍の企業から来ています。

小国がいかに周辺国を巻き込んでイノベーションを実現しているかに、学ぶことが多いのではないかと直感的に思いました。視点を国内に閉じず、最初からグローバルを対象とする、いわゆる「外需を取りにいくDNA」を、日本のサンドボックス制度にも持たせたいと思ったんです。

HIP:制度を主に利用する、国内の事業者に対してはどういった活動を行ったのでしょうか。

片岡:制度をかたちにするまでの段階で、さまざまな団体などにヒアリングにお邪魔して、新規事業にまつわるさまざまな悩みをお聞きしました。そして、そうした活動を通じて「少なくともここはこうした方がいい」と感じた部分を、制度設計に反映させてもらえるよう組織内で議論していきました。

またヒアリングの際に、サンドボックス制度の活用を検討してくれそうな企業からご相談をいただいたときには積極的に対応をしてきました。ときにはヒアリングで会った方に「同じような悩みを抱えている方は周りにいらっしゃいませんか。この人の悩みを聞くべきだ! という方がいらっしゃれば教えてください」などとお聞きして、紹介いただいたりもしましたね。

その甲斐もあって、実際に制度ができあがる前から多くのご相談をいただくことができました。制度をつくっても、待っているだけでは使ってもらえませんから。

金融事業者向けに行われた「規制のサンドボックス制度」説明会の様子

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