経産大臣にスタートアップ代表が直談判。「世界で勝つには大企業の助けが必要」
松本恭攝(ラクスル株式会社 代表取締役CEO) / 梅澤高明(A.T. カーニー株式会社 日本法人会長 / パートナー) / 山川恭弘(バブソン大学准教授) / 世耕弘成(経済産業大臣)
2018.07.20

世界で戦い、勝てる企業をつくり、世の中に新しい革新をもたらす――。選ばれしスタートアップを政府とサポーター企業とで集中支援し、成功モデルを創出する「J-Startup」という一大プロジェクトが、2018年6月にスタートした。

ローンチに合わせて始まったのが、毎週木曜日18時から19時の1時間、虎ノ門ヒルズで開催される『J-Startup Hour』というトークシリーズだ。J-Startupに選出された注目のスタートアップと有力支援者の対談を核に、官民のプレイヤーや起業家候補が集う機会を提供し、イノベーションコミュニティーの形成に寄与するべく行われるものだ。

6月21日に行われた初回の壇上にあがったのは、「J-Startup」の第一弾として採択された92社のひとつであるラクスル株式会社の代表取締役CEO・松本恭攝氏と、経営コンサルティングファーム・A.T. カーニー日本法人会長であり、J-Startupでは推薦委員を務める梅澤高明氏。モデレーターは、会場の虎ノ門ヒルズ内で『Venture Café Tokyo』というスタートアップコミュニティーを運営する、バブソン大学教授の山川恭弘氏が務め、充実の議論が繰り広げられた。

プログラム後半には、世耕弘成経済産業大臣もサプライズで登壇。まさに官民が直接、忌憚なき意見をぶつけ合ったトークからは、日本を起点に世界で戦うビジネスすべてにつながるヒントが見えてきた。


取材・文:宮田文久 写真:朝山啓司

仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる。経済のあり方そのものをビジネスで変えていきたい。

ラクスルは印刷、運送の分野で大きな注目を集めるスタートアップであり、この5月31日にはマザーズ上場も果たした気鋭の企業だ。その事業の中心は、印刷と運送をめぐるシェアリングサービス。日本中の印刷会社や運送会社と提携しているラクスルが顧客からの注文を受け、その都度リソースの空いている印刷工場、トラックがサービスを提供する、というもの。

印刷も物流も、全国に数万の企業がひしめき、多重下請けによる過大な取引コストの発生が当たり前だった業界。そこにインターネットを使ったソリューションを持ち込み、サービスを提供する主体と顧客を直接結びつけることで、業界の構造を大胆に転換しつつある。

また近年はシンガポールにも子会社を設立、インドネシアやインドの同業スタートアップにも出資をするなど、海外へも視野を広げている。「日本から世界へ」を掲げる「J-Startup」企業らしいマインドから、トークはスタートした。

松本恭攝氏(以下、松本):ラクスルのビジョンは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」。2007年、学生時代にシリコンバレーに行ったときに聞いた起業家たちの言葉「Make the world better place.(世界をより良い場所にしよう)」に感化されたんです。会社を設立するにあたって、自分も世界を変えるんだ、とこのビジョンを掲げました。

20世紀、製販一体だった時代から、21世紀はインターネットの力を活用したプラットフォームの時代になっていく。ラクスルのビジネスを通じて、経済のあり方そのものを変えていきたいと思っています。ラクスルというプラットフォームが巨大な仮想印刷工場、運送会社となり、信頼を担保して、直接お客さまに印刷物や荷物を届けていく。そうすることで、取引コストが圧倒的に低くなり、需要と供給のマッチングにかかる時間も短くなる。

こうしたプラットフォームを中心にした経済へと変えることで、世界をより良くしていこうと事業を展開しています。

ラクスル株式会社 代表取締役CEO 松本恭攝氏

梅澤高明氏(以下、梅澤):昨今、スタートアップによる目立った事業の多くがB to Cのサービスであり、「こんなアプリをつくりました」「これだけの会員を集めました」と語っています。そんななか、一見地味にも見えるB to Bの産業に、松本さんはきわめてストラテジックに向き合っている。ビジョンがあるからこそできることですよね。

そしてそのビジョンを実現するうえで、自社でできないことについては思いきり胸襟を開いて大企業の力を借りよう、という姿勢も特徴的です(編註:2017年7月より、ラクスルはヤマトホールディングスと資本提携を行っている)。ラクスルが物流事業でやろうとしていることは、将来オープンイノベーションの教科書になるケースかもしれないな、と感じています。

A.T. カーニー 日本法人会長 梅澤高明氏

失敗から学習することで、むしろ成功に近づいていける。失敗に寛容な社会がイノベーションへの鍵。

モデレーターの山川氏は、とかくネガティブに受け取られがちな「失敗」を客観的に見つめ直す「失敗学」の提唱者でもある。その山川氏の提案で、松本氏、梅澤氏それぞれが自分の忘れられない失敗談を披露する一幕も。松本氏は会社が軌道に乗り始めたころ、うまくマネジメント側に回れず手いっぱいになり、人心掌握できずに仲間が離れていってしまった時期のエピソードを真摯に口にした。

梅澤氏が発表したのは、新規事業の立ち上げに失敗したときの反省。2011年の東日本大震災後、風評被害が深刻だった福島に完全密閉型の植物工場をつくるプロジェクトを進めていたが、実現まであと一歩というところで地元の重要なステークホルダーの協力が得られずに、計画が頓挫した。

梅澤氏がこの失敗から学んだこととして強調したのは、「特にマルチステークホルダー(さまざまな主体)で社会を変えていくのには非常に時間がかかるから、逆に時間を味方につけなければいけない」ということ。梅澤氏は現在、分野横断のプロフェッショナルによるチームを組み、2020年よりもさらに未来の東京のあるべき姿を提案するプロジェクト「NEXTOKYO」を推進している。「息長くやりつづけ、チャンスと見たときに投資する」というやり方の重要性を、会場に投げかけた。

これを受けて山川氏も、「自分の失敗を自分で認識し、理解して、さらには他者に共有していくことが大事です。そこから、失敗に対して寛容な文化ができていく。失敗から学習することで、むしろ成功に近づいていくことができるんです」と熱く語った。お互いの教訓を正面から共有することが、日本でイノベーティブなプロジェクトを育てていくために肝要なポイントだ。

バブソン大学准教授 山川恭弘氏

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サプライズゲストの世耕経産大臣が登場。松本氏が日本のスタートアップを代表して直談判

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