INTERVIEW
経産大臣にスタートアップ代表が直談判。「世界で勝つには大企業の助けが必要」
松本恭攝(ラクスル株式会社 代表取締役CEO) / 梅澤高明(A.T. カーニー株式会社 日本法人会長 / パートナー) / 山川恭弘(バブソン大学准教授) / 世耕弘成(経済産業大臣)

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2018.07.20

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大企業が積極的にスタートアップの商品・サービスを使ってくれるようになれば、日本のスタートアップ市場は一気に変わる。

プログラムの後半では、サプライズゲスト、世耕弘成経済産業大臣が登場。決定されたばかりの「J-Startup」のロゴをオーディエンスに披露した。沸く会場に向かって、自身も並々ならぬ思いをこのプロジェクトに込めている旨を語った。

世耕弘成経済産業大臣

世耕大臣と松本氏が、6月に施行されたばかりの「規制のサンドボックス制度」について率直に意見を交換する場面もあった。同制度はイノベーティブな新事業に挑む企業を後押しするべく、届け出に応じて、参加者や期間を限定した実証実験を行うことを可能にし、実証で得られたデータを根拠に規制改革を目指す制度だ。

それに関して話題にのぼったのは、近年の物流業界で課題となっている「ラストワンマイル」。最寄りの配送センターから、顧客が実際に荷物を受け取る場所までの、運送経路の「最後の区間=ラストワンマイル」を、配送業者ではなく、時間の空いた学生や主婦が担えるかたちがつくれれば、より早く快適な配送サービスが実現できるのではないか……。その実現に向けて「規制のサンドボックス制度」が後押しになるのではないかと、世耕大臣と松本氏がダイレクトに意見を交換し合った。

こうして官民が率直に意見を交わす場もまた、世界で戦えるビジネスを育てるために重要なものである。その後も松本氏から、次のような「スタートアップの支援」をめぐる要望が語られた。

松本:いま、国からのサポートがあれば日本のスタートアップが大きく変わるだろうな、と思うことがひとつあります。スタートアップは大企業とのコラボレーションってすごくやりたいんですが、それ以上に、大企業にサービスを使ってほしいんです。

シリコンバレーのすごいところは、設立して半年の会社がつくったサービスでも、ものさえよければIBMやマイクロソフトといった大企業が迷わず採用するところ。大企業がスタートアップの商品やサービスを使ってくれるシステムづくりを国に進めていただけたら、日本のスタートアップ市場は一気に変わると思います。

梅澤:大企業だけでなく、ぜひ政府も使ってみてほしいですね。政府が使って「大丈夫だね」となれば、大企業も安心して使うことができますから。

世耕:私も、あるスタートアップが経産省の入札に参加したときの経験談として、本当に大変だったと聞いたことがあります。電子入札手続きのためにまずは法人登録が必要になるのですが、システムが洗練されていないので、理由も提示されないままエラーとなって先に進めなかったり……(苦笑)。こうした問題は、ぜひ改善していきたいと思っています。

また今回の「J-Startup」でも、サポーターの大企業に単なる出資や投資をしていただくだけでなく、スタートアップのサービスや商品を使うというかたちでの協力もやっていただけるようにしたいと思います。

立場の違いを越えて語り合う場こそが、世界を目指すビジネスの原動力に

オーディエンスからは「日本のスタートアップへの海外からの投資が少ないという問題を、どう考えるか」という質問も寄せられた。

世耕大臣は「そもそもは、日本に投資対象となるスタートアップが少なかったという環境がありました。これはだいぶ変わってきていると思いますが、まだ情報発信が追いついていない。政府がスタートアップをどんな方法でサポートしていこうとしているのか、また日本でどんなスタートアップが育ち始めているのか、あるいは海外の企業が日本でパートナーを組むとしたらどんな相手がいるのか、などの情報発信は、これから頑張ってやっていきたいと思っています」と、直後に控えているというシリコンバレー訪問も含めて、積極的なレスポンスをおくっていた。

まとめとして山川氏が『J-Startup Hour』に寄せて、「われわれが壇上で喋っているのを聞くだけじゃなく、参加ができる、手を挙げて聞きたいことが聞けるコミュニティーをつくりたい」と語った。これは『J-Startup Hour』に限らない話であり、立場の違いを越え、腹を割って語り合う場こそが、日本から世界へとグローバルな展開を目指すビジネスの原動力になっていくことだろう。

最後に山川氏の音頭で、会場のみんなで叫んだ「Action trumps everything!(行動こそがなによりも勝る:とにかくやってみよう!)」。スタートアップはもちろんのこと、未来を考えるすべてのビジネスパーソンへの鼓舞といえよう。

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Profile

プロフィール

松本恭攝(ラクスル株式会社 代表取締役CEO)

1984年、富山県生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、A.T. カーニー株式会社に入社。M&Aや新規事業、コスト削減プロジェクトなどに携わる。その過程で印刷業界の非効率性、コスト削減効果の高さに気づき、2009年にラクスル株式会社を設立。同社代表取締役。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をビジョンに巨大な既存産業にインターネットを持ち込み、産業構造の変革を行う。

梅澤高明(A.T. カーニー株式会社 日本法人会長 / パートナー)

東京大学法学部卒、MIT経営学修士。日米で20年超にわたり、戦略・イノベーション・マーケティング関連のテーマで企業を支援。クールジャパン、デザイン政策、知財戦略、税制などのテーマで、経済産業省・内閣府の委員を務める。NEXTOKYO Projectを主宰し、東京の将来ビジョン・特区構想を産業界・政府に提言。グロービス社外取締役 / 経営大学院理事、クールジャパン機構社外取締役。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』コメンテーター。著書に『最強のシナリオプランニング』(編著、東洋経済新報社)、『NEXTOKYO』(共著、日経BP社)など。

山川恭弘(バブソン大学准教授)

専門領域はアントレプレナーシップ。起業学、経営戦略及び国際ビジネスの分野で教鞭をとる。慶應義塾大学法学部卒業後、ピーター・ドラッカー・スクールにてMBA(経営戦略論)を取得。起業学博士(テキサス州立ダラス校)。博士課程進学前に10年間日本の電力・通信業界にて、大企業での新規事業開発やスタートアップの設立等に従事した経験を持つ。2018年、ベンチャーカフェ東京 / ケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)東京代表理事就任。

世耕弘成(経済産業大臣)

早稲田大学卒業後、日本電信電話株式会社に入社。1998年参議院和歌山県選挙区補欠選挙に自由民主党公認で立候補し、初当選。2001年の参議院選挙で再選。2003年から総務大臣政務官を務め、その後、参議院総務委員長、内閣総理大臣補佐官、自由民主党幹事長代理、参議院自由民主党政策審議会長、内閣官房副長官を歴任。2016年より経済産業大臣、産業競争力担当、ロシア経済分野協力担当、原子力経済被害担当、内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)を務める。

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