JR東日本×東京メトロ対談。ベンチャーとの協業に舵を切った両社の危機感
柴田裕(東日本旅客鉄道株式会社 経営企画部 / JR東日本スタートアップ株式会社 代表取締役社長) / 中村友香(東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部)
2018.05.28

大企業でイノベーションを起こすにはどうするべきか。そのひとつの方法として、ベンチャー企業の革新的なアイデアや技術を、大企業が持つリソースでバックアップして実現させる「アクセラレータープログラム」が注目されている。

さまざまな大企業がこの取り組みを行うなかで、首都圏の鉄道基盤を支える「東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)」と「東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)」も、それぞれ2016年、2017年にアクセラレータープログラムをスタートさせた。

安心・安全が求められる鉄道事業という性質上、そろって「保守的」だと自称する両社がこの取り組みに踏み出した背景には、「このままでは時代に取り残される」という危機感と、鉄道事業者の役割の変化があったという。それぞれの企業のアクセラレータープログラム担当者に語ってもらった。


取材・文:笹林司 写真:玉村敬太

すべてを自分たちの手で賄う自前主義のままでは、時代から取り残されてしまう。

HIP編集部(以下、HIP):東京メトロは2016年に「東京メトロ アクセラレーター」を、JR東日本は2017年に「JR東日本スタートアッププログラム」をスタートさせました。ベンチャーを中心とした他企業との協業によって新たな事業に挑戦するこれらのプログラムは、どういった課題感から立ち上げられたのでしょうか?

東日本旅客鉄道株式会社 柴田裕(以下、柴田):JR東日本が「JR東日本スタートアッププログラム」をスタートした理由は、「自前主義を打破しなければならない」という危機意識です。

鉄道事業者は、安心・安全を自分たちの手で守らなければいけないという意識が強くあるため、自前主義ですべてのサービスを担いがちです。JR東日本は「保守的で、固くて、安定志向」の企業というイメージを持っている方が多いと思うのですが、それはある意味正しくて、国鉄からJRに生まれ変わっての30年間、頑なに自前主義を貫き続けてきました。

東日本旅客鉄道株式会社 経営企画部 / JR東日本スタートアップ株式会社 代表取締役社長 柴田裕

柴田:JR東日本には、駅ビルやホテル、Suica、さらには発電所まで、多岐にわたる潤沢なリソースがあります。この30年間は、そのリソースだけで自前主義を貫くことができましたが、これからの変化の激しい時代、自前のリソースに頼っているだけでは、成長は望めません。下手をしたら、私たちはもう時代に取り残されてしまっているのかもしれない。そういった危機感が、「JR東日本スタートアッププログラム」の根底にあります。

東京地下鉄株式会社 中村友香(以下、中村):東京メトロも、まさに自前主義への危機感がキーワードでした。東京メトロの中期経営計画「東京メトロプラン2018」では、「成長への挑戦」として新たな事業領域へのチャレンジを掲げました。それは、産学連携やオープンイノベーションプログラムなどを通じて外部との連携を探りながら、お互いの強みを発揮した事業に取り組むということです。

鉄道会社にとっての「サービス」は毎日当たり前のように電車を動かし、お客さまをご案内すること。社員一人ひとりが役割を担うことで、安全・安心という高品質なサービスを保っていることには誇りを持っています。しかし、変化のスピードが早いいまの時代では、これまでと同じやり方では取り残されてしまう。そんな課題感を持っていました。また、私たちとはある意味で対極にあるベンチャー企業と組むことで、従来の考え方を変えることができるといった期待もあります。

東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 中村友香

HIP:従来の考え方とは?

中村:東京メトロは2004年までは営団地下鉄という会社でした。当然ながら、地下鉄を安全に走らせることが大命題。いまでも、まずはしっかりとそれに注力すべきだと考える人もいます。

一方で、東京メトロとなってから、お客さまの日常をサポートする事業の充実を強く意識し、鉄道事業以外への取り組みも進めています。地下鉄の駅構内にある商業施設「Echika」の運営などはそのひとつです。その一歩先の展開が、「東京メトロ アクセラレーター」なんです。

HIP:インフラ企業として、ホームドアの設置や案内板の改良など、つねにサービスを改善し、進化している印象がありますが、それだけでは足りないと感じられた。

中村:ホームドアの設置や案内板の改良は、インフラという社会的使命を担う責任から、よりお客様に安全・安心・快適に利用していただくためにやらなくてはいけないことです。しかし、誤解を恐れずに言えば、それによって利用者数や利益が大幅に上がるわけではありません。

株式会社として、継続的に収益を上げ続けるためには、鉄道以外のサービスも必要になるのです。そもそも、将来を見据えれば、東京圏にも確実に人口減少が訪れます。鉄道事業だけに頼っていたら、人口減とともに利益も減少してしまう。そうならないために、いまのうちから手を打っておかなくてはいけません。

JR東日本の潤沢なインフラをベンチャー企業が活用すれば、化学反応が生まれる。

HIP:東京メトロもJR東日本も財務状況は健全なので、自前主義のまま、成長を続けられるのではと感じてしまいます。

柴田:企業業績を見れば、それほど課題は多くないように見えるかもしれません。しかし、お客さま目線ではどうでしょうか。「JR東日本のサービスに満足していますか?」と質問すれば、100人中100人から、なにかしらの不満が上がるはずです。

たとえば、通勤ラッシュや新幹線の切符を買うときの行列など、細かい不便や不満を言い出せばキリがありません。そのすべてを自前で解決するのは不可能です。しかし、われわれのインフラを外部に解放して、ベンチャー企業との協業のなかで上手く活用できれば、これまでにない化学反応が生まれるかもしれません。

HIP:一足先にアクセラレータープログラムをスタートしていた東京メトロの動きは、どのように感じていましたか。

柴田:われわれと同じ、鉄道インフラをベースとする企業なので、参考になりましたし、刺激も受けましたね。また、先ほどのお話を伺って、同じ危機感を持っていることがわかった。だからこそ、「競争」ではなく「共創」していきたいですね。

東京メトロさんもJR東日本も事業エリアは東京を基盤としています。そのインフラ企業同士が組めば、さらにいいシナジーが生まれるかもしれません。結果として、東京はもっと魅力的な街になるでしょう。

2020年の『東京オリンピック・パラリンピック』に向けて、新しいアイデアが生まれると面白い。たとえば、ひとつのベンチャー企業が東京メトロさんとJR東日本の両方と組んで、そこをハブにしてお互いが協力することもあるかもしれない。実際、外国人観光客のための飲食店予約サービスアプリを開発する日本美食さんなど、「東京メトロ アクセラレーター」と「JR東日本スタートアッププログラム」の両方に採用されたベンチャー企業も存在するんですよ。

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「これまでの企業文化を壊すことが新規事業担当者のミッションだと腹を括った」

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