INTERVIEW
地方創生とNFTの相性は?観光のエコシテム創出を目指すJ&J事業創造
荒川淳一(株式会社J&J事業創造 開発本部部長) / 岡本幸樹(株式会社ピハナコンサルティング代表取締役CEO)

INFORMATION

2023.05.31

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JTBとJCBの共同出資によって設立されたJ&J事業創造は、両者が持つ旅行事業と決済事業のナレッジを融合させ、さまざまな新規事業開発に挑戦している。

同社では近年、NFTやメタバースなどWEB3を活用した地方創生事業に着手。そのなかでも注目を集めるのが、工芸活性化支援を手がけるピハナコンサルティングと共同で立ち上げた「琉球びんがたラベルの泡盛購入権付NFT」というユニークなサービスだ。琉球びんがたとは沖縄独自の染物であり、それをNFT化したものと関連する権利が付与される。

コロナ禍を経て、インバウンド需要が回復しているものの、地域の活性化に課題を抱える自治体も少なくない。J&J事業創造では、最新技術と伝統工芸をどのようにサービス化し、地方創生を目指す新規事業として推進しているのだろうか? J&J事業創造の開発本部部長である荒川淳一氏とピハナコンサルティングの代表取締役CEOである岡本幸樹氏に話をうかがった。


取材・文:サナダユキタカ 写真:坂口愛弥

コロナ禍以降の地方創生に必要なこと

HIP編集部(以下、HIP):2020年以降のコロナ禍によって観光市場は大きな打撃を受けましたが、いまは徐々に需要が戻りつつあります。まずは、このような市況感のなかで、観光事業や地域創生における課題点をどのようにとらえているのか、お二人のお考えをお聞きしたいと思います。

荒川淳一氏(以下、荒川):私はJTBで新規事業開発などを担当し、2022年2月にJ&J事業創造にジョインしました。これまで長く観光業界に携わってきましたが、「観光資源をどう扱うか」が大きな課題点だと感じています。

京都のように観光地自体をブランド化した成功例もある一方で、交通や宿泊、食、伝統工芸などの観光資源を管轄する行政組織や団体がそれぞれ縦割りになってしまい、横の連携が取れていない地域も多くあります。

観光資源を1つのエコシステムのなかで、組み合わせていく仕組みが必要にもかかわらず、現状では地元組織のなかにとどまり、地域を超えた連携ができていません。だからこそ、そうした役割を私たちのような企業が率先して担うべきだと感じています。

J&J事業創造 開発本部部長の荒川淳一氏

岡本幸樹氏(以下、岡本):私が代表を務めるピハナコンサルティングでは伝統工芸の産地支援を手がけています。

日本の伝統工芸の生産額は、この40年で5000億円から現在は1000億円を下回るほどにまで落ち込んでしまいました。落ち込む理由はさまざまですが、地域によっては伝統工芸単体ではビジネスとして非常に厳しいという課題があるのです。

HIP:そうした厳しい状況のなかで、伝統工芸と観光の結びつけはどのようなアプローチを考えていらっしゃいますか?

岡本:かつては、織物や染物、陶磁器など、地域において長年受け継がれている技術や技を用いた伝統工芸は、土産物や贈答品などにも多く使用されており、昔から観光資源の1つとして存在感がありました。

しかし現在では、荒川さんがおっしゃったように伝統工芸も食や宿泊などと組み合わせながら、新しい消費を生み出す工夫が必要と同時に、産地の取り組み自体を活性化していくことが求められます。

単に、工芸だけにフォーカスするのではなく、ほかの地域の特色とのコラボレーションや重層的な訴求の仕方が必要になると考えています。

ピハナコンサルティング代表取締役CEOの岡本幸樹氏

「NFT×伝統工芸」という新規事業への挑戦

HIP:「琉球びんがたラベルの泡盛購入権付NFT」は昨年から展開しています。ピハナコンサルティングさんとともに事業をスタートした背景を教えてください。

荒川:伝統工芸産業が右肩下がりの状況でこれまでの実物の制作販売を収益としていくことが難しいなかで、伝統工芸事業者に新たな収益のきっかけづくりをしてもらいたいと思い、この事業をスタートさせました。

伝統工芸デザインを知財として活用し、NFT化することで、NFTを投機的ではなく、購入者に新たな価値を届けるものという視点で、事業を検討したのです。

以前からつながりのあった岡本さんが、沖縄の伝統工芸に関する深い知見をお持ちだったこともあり、今回は沖縄の伝統的な染織である「琉球びんがた」に着目し、「琉球びんがたラベルの泡盛購入権付NFT」というサービスを企画しました。

琉球びんがたを基にしたラベルが貼付された泡盛「瑞泉」(詳細はこちら)

HIP:具体的には、どのようなサービスなのでしょう?

荒川:このサービスは、「琉球びんがた」の染物や型紙をNFT化するだけでなく、個々に異なるデザインであるラベルを貼った泡盛、そして琉球びんがた工房への訪問、という2つの権利を付与します。デジタル資産だけでなく、NFT購入者と工房が交流する機会の創出も意図しています。

昨年7月に『IVS2022 NAHA』というスタートアップが集まるカンファレンスが沖縄の那覇で開催されたのですが、その会場で「琉球びんがたラベルの泡盛購入権付NFT」を発売しました。

岡本:地域のものづくりと人をどうつなげるかが重要で、人間国宝がいる工房を見学できるといった権利もNFTに付加しました。NFTが工房へのチケットの代わりになり、さらに泡盛という地域の名産品も手に入れられる。

先ほどお話したとおり、現在の伝統工芸の生産額は減少していて、沖縄だけにフォーカスしてみると、30億円以下になっています。NFTをはじめとするトータルのコンテンツで、沖縄観光のきっかけが生まれることを期待しています。

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