伝統工芸の職人たちにNFTをどうやって伝えた?
HIP:前例がない分、社内の稟議を通すのは難しかったと推測します。社内にはどのように提案したのでしょうか?
荒川:伝統工芸事業者の課題解決の手段の1つとしてNFTを使って、伝統工芸の知財管理のプロジェクトを進めていくと立案しました。
これまで実物の制作・販売のみを収益としていた工芸作家に、新たな収益をもたらし、デザインを商業利用する事業者に、明瞭な知財権管理とブランド認証によるライセンス保護を行ない、つくる人と活用する人をつなげることで、伝統工芸に新たな創造性を掛け合わせたいと話をし、経営層に理解してもらいました。
HIP:一方、「琉球びんがた」の工房の職人さんにとって、NFTは馴染みのないものだと思います。どのように説明し、本事業に参画してもらったのでしょうか?
岡本:職人さんは「NFTってなに?」といった感じのリアクションでしたので、しっかりと職人さんと関係性を構築していかないと、話は前に進んでいきません。
最初からいきなりNFTを利用するのではなく、まずは「琉球びんがた」の作品をスキャニングして商品開発をしてみましょう、と提案しました。
チョコレートのパッケージに染物のデザインを使ったり、ウェブサイトに使ったりしてもらって、その使用料を職人に払うといった小さな実績をつくりつつ、地道に関係性を構築していったのです。
岡本:続けていくうち、「琉球びんがた」をスキャニングした作品でお金を稼げるらしいとほかの職人さんにも知られるようになって。じわじわと地域にその話が広がり、「琉球びんがたラベルの泡盛購入権付NFT」の説明につなげていきました。
荒川:私のほうからは、「デジタルデータを活用することで、新たな伝統工芸の収益源になる可能性がある」と職人の皆さんに説明していきました。
さらに、このプロジェクトを通して、これまで接点のなかった多くの人が「実際に現地を訪れ伝統工芸の歴史やストーリーを知ることで、興味をもつきっかけになる」と、地域の観光にもつながるといったメリットも伝えました。
WEB3時代は知財保護の明確化が不可欠に
HIP:事業を推進するなかで、NFTの可能性など感じる部分はありましたか?
岡本:どのような可能性があるかは、ケースによって大きく変わってくるのではないかと思います。
「琉球びんがたラベルの泡盛購入権付NFT」のように、アイデアをかたちにした事例を積み上げていくことで、「織物ならこうした使い方ができる」と具体策が生まれ、さらにNFTの可能性が広がっていくと考えています。
HIP:そのほかの伝統工芸もNFT化を進めているとお聞きします。前進させていくためのポイントは、どこにあるのでしょうか?
荒川:第1弾の取り組みである「琉球びんがたラベルの泡盛購入権付NFT」をとおして、工房や職人さんなどの課題感や懸念事項も理解できたので、説明方法を工夫することで次のプロジェクトが進めやすくなりました。
岡本:画像生成AIなどで「博多織」と入力すると、すぐにデザインができ上がるような時代になりました。しかし、AIがつくった博多織が本当に博多織であるかは明確にはわかりません。
そうした知財の保護についても、私たちが産地や組合、工房と話し合いながら、商標権やライセンスを安心して使える仕組みづくりを進めています。このような安心できる仕組みを提示した点も、事業を前進させるために必要なポイントだと言えるでしょう。
新たなサービスを広めていくための「事例づくり」
HIP:「琉球びんがたラベルの泡盛購入権付NFT」は即日完売したそうですね。その結果を踏まえて、今後の展開を教えてください。
荒川:NFTを活用した工芸産地支援サービスをさらに進めていくためには事例づくりが重要です。その観点からサービスの第2弾として、当社子会社が外国人向けに越境ECサイト「Japan IPPIN Marché」を開設しており、これを活用して「伝統工芸デザインNFTラベルの日本酒」の販売を展開しています。
今回は、「琉球びんがた」のほか、「博多織」(福岡県)や「桐生織」(群馬県)といった地域に根付いている伝統工芸デザインNFTラベルとして起用しています。
HIP:そのほかにも進んでいるプロジェクトはありますか?
荒川:スケートボードやBMXに代表されるアーバンスポーツ(都市型スポーツ)に、伝統工芸を組み込むというプロジェクトが進行しています。その一例として、スケートボードのデッキやけん玉に西陣織を重ね合わせた商品を、横浜で開催するイベントやECサイトで打ち出していく予定です。
NFTはあくまでも手段。エコシステムをつくり、地方創生を目指す
HIP:全国の伝統工芸の工房とのつながりは、広がっていますか?
荒川:利用許諾は7つの産地からもらっています。今年度中にはその数を20までは増やしていきたいですね。それだけ集まれば、さまざまな事業モデルが想定できるでしょう。
HIP:今後、NFTなどの技術を使って、どのように地方創生や地域活性化を進めていく予定ですか?
荒川:観光のエコシステムをどうつくるかが大切であって、NFT などのWEB3技術は手段にすぎません。しかしながら、NFTであればその所有証明を使って、観光地で新たな体験を楽しめるといった付加価値が提供できるはずです。
伝統工芸は歴史や文化、ストーリー、地域性があるため、今後は航空会社や銀行など地域経済に根ざした企業をはじめ、我々のプロジェクトに共感いただける仲間づくりをしていくことが重要になります。そのきっかけのひとつがARCHでの活動だと考えています。