「見たくない未来を見よう」 既存のビジネスと常識を超える、オープンイノベーションの考え方。
一橋大学イノベーション研究センター教授 米倉誠一郎
2015.07.28

近年、起業家を意味するアントレプレナーに対し、企業内で新しいビジネスを立ち上げる人材のことをイントレプレナーと呼び始めている。そんな中、2015年7月3日、六本木アークヒルズのHAB-YU Platformで「イントレプレナーが創る〜イノベーションプラットフォーム〜の構築を目指して」が開催された。

「オープンイノベーションをリードするのは、ベンチャーだけではない。大企業も重要だ」という新日本監査法人・鈴木氏の挨拶の後、一橋大学イノベーション研究センター教授であり、アカデミーヒルズで行われている「日本元気塾」の塾長でもある米倉誠一郎氏による基調講演が行われた。タイトルは、「見たくない未来を見よう」。このタイトルに込められた思いとは、一体何なのだろうか?

取材・文:HIP編集部 写真:相良博昭

日本の経済は新陳代謝が遅すぎる

米倉氏の基調講演は、日本の現状に対する苦言から始まった。1985年から2010年までの期間を振り返ってみると、日本とアメリカではあまりにも変化の速度に開きがあると米倉氏は語る。

米倉氏「新しい企業が新しい事業を始めないと、社会が次のステージに行くことは難しい。この2、30年の日米の上位10社を振り返って見てみましょう。アメリカではIntel、Microsoft、Apple、Googleなどの新しい企業が登場し、General Electric(GE)という昔からの企業も事業を変化させてきました。一方、日本ではソニーやトヨタなど昔からの企業がいまだ多い。最近になってようやくソフトバンクが入ってきたくらいです。アメリカに比べると、日本の経済の新陳代謝はずいぶんと遅い。」

さらに米倉氏は、国民一人当たりGDP(国内総生産)についても言及した。1995年、一人当たりのGDPが最も高かった国は、約42万人の人口規模であるルクセンブルク。2位には人口約790万人だったスイスがランクインし、この二つの国とは人口規模が大きく異なる日本が3位にランクインしていた。

日本が1995年当時、これだけ一人当たりのGDPが高かったのは、日本製の自動車や家電製品が世界で売れていたからだった。東アジアでずば抜けたGDPの高さを誇っていた日本だが、現在は中国に大幅に追い抜かれてしまっている。日本の今後を考えたときに、日本が売るべき商品と、それらを生み出すための生産性を考えることが非常に重要になる。

「安くて良いもの」を成長市場の40億人に提供しよう

米倉氏「中国、インド、アメリカ、ASEAN、南米のエリアには、約40億人の人口がいる。ここにソリューションを売りに行きましょう。そして、40億人の人に受け入れられるのは『この値段でこの性能か!』と思わせるような製品です。日本がこれまで実現してきた、『高くて良いもの』ではなく、『安くて良いもの』を提供していかなくてはなりません。」

この日本の現状をどのように乗り越えていくべきか? 米倉氏は、日本だけをマーケットとして捉えるのではなく、成長中の大きなマーケットへと視野を広げ、その際に「安くて良いもの」をソリューションとすることが必要だと語った。このアプローチを考える上で、おさえておきたいのが観光業・サービス業だ。

米倉氏「輸入と輸出の差し引きである貿易収支は、2011年に赤字になりました。その一方で、日本に来る観光客と日本から出て行く観光客の差であるサービス収支は、2014年に初めて黒字になりました。このサービス収支の黒字化に注目するべきです。」

「いいもの」が売れない理由は、ただ「悪いから」

「観光は、外国の人がわざわざ日本に来てお金を落としてくれる“輸出“」だと米倉氏は語る。日本経済の6〜7割を支えているのはサービス業。製造業はGDPの20%、雇用の16%を占めているのみで、この先製造業を伸ばしても、経済全体への波及効果はそれほど高くはないだろう。

製品を輸出して稼ぐお金と、観光で稼ぐお金は、金額が同じでもコストのかかり方が全く異なる。コストパフォーマンスの点から見ても、観光サービスは非常に重要だ。だが、日本への観光客数が年々成長しているとはいえ、まだ年間で1300万人程度と世界では決して多い方ではない。では、なぜ日本への観光客は少ないのだろうか。

米倉氏「日本はこんなにいい国なのになぜ日本に観光客が来ないのか? 疑問に思う方も多いでしょう。この答えはシンプルに『悪いから』です。もしくは、良さを伝えることをしていないから。常に大事なのは、顧客が何を求めているかということ。外国人観光客が日本に何を求めて来ているのか、あるいはビジネスに何が必要とされているのかを追求する。これがすべてです。」

米倉氏によれば、沖縄を訪れた中国人観光客に最も売れているのは、泡盛やちんすこうなどの沖縄らしいお土産ではなく、なんと夕張メロンなのだそうだ。自分たちが良いと思っているものではなく、観光客が求めているものを売る。その姿勢をとることの大切さを米倉氏は語った。

ワークハードの時代は終わり、ワークスマートな時代へ

売るべき商品と、売り方を考えることも大切だが、生産性への意識も忘れてはいけない。2013年になって、かつては世界で3位だった日本の一人当たりGDPは24位へと下降している。この一人当たりGDPは、1745時間という日本人の年間労働時間によって支えられている。

一方で、オランダやドイツは日本より400時間ほど労働時間が少ない。これは日数に換算すると50日ほどで、オランダでは休日が日本より50日以上も多いことになる。だが、オランダの一人当たりGDPをみると、日本よりも上位の11位にランクインしているのだ。

米倉氏「ワークハードの時代は終わりに差し掛かっています。男性が朝7時に出勤して、23時まで働いて家に帰る。そうやって経済を活性化させる構造にはもう限界が来ているんです。これから先は、オランダのようにワークシェアリングをすることで、生産性を上げていく必要がある。ワークスマートな時代になろうとしています。」

日本の人口動態を見ても、このまま下降状態のまま推移すれば、日本は既存の労働力を失っていくことになる。日本にとって経済の高度化は必要不可欠であり、そのためには多様な働き方を認める『ワークスマート』な考え方を取り入れていかなければならない。

ワークスマートに加えて、生産性向上において非常に重要なのが、新たなテクノロジーの台頭だ。

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