人生100年時代、ヘルステックで生活はどう変わる? HIP conferenceレポート
相澤仁 / 前田祐二郎 / 井上裕太 / 廣部圭祐 / 川嶋孝宣 / 宇野大介 / 乗竹亮治
2018.08.30

イノベーションコンサルティング事業を行うQuantumと、HIPで共同開催するイベント『HIP conference』。「5年以内に都市で実装されるであろうテクノロジー」を毎回のテーマに据え、実装を目指すプレイヤーが、その価値を生活者視点で議論している。初回はAI、2回目ではドローンが、いかに私たちのライフスタイルを変え得るかが語られた。

続く第3回のテーマは「ヘルステック」。病気の治療のみならず、生活習慣病の予防などのために、身体データを収集・解析することで、健康維持に役立てる取り組みが進んでいる。国や自治体による規制緩和もあり、製薬や医療機器メーカーといったメインプレイヤー以外の異業種からも参入が続いている注目の分野だ。

少子高齢化が進み、社会保険費の圧迫が懸念されている日本においても、ヘルスケアは個人のライフスタイルだけでなく、多くのビジネスチャンスに直結する。今回は大企業でヘルステックをテーマにチャレンジを続ける登壇者がトークセッションを行った。近未来のヘルスケアは、日本という国に良好なバイタルサインをもたらすのだろうか。


取材・文:長谷川賢人 写真:朝山啓司

医療は公共性の高い分野だが、ヘルステックを普及させるにはビジネスとして成立させなければならない。

今回の『HIP conference』は2部制のトークセッションを中心に展開した。第1部では医療の現場にフォーカスし「ヘルスケアプロセスにおける診察・治療の革新」が議題に、第2部では生活者が日常のなかで使えるヘルステックに重点が置かれた。

第1部の登壇者は、株式会社フィリップス・ジャパンでマーケティング&BCD兼戦略企画・事業開発統括本部長を務める相澤仁氏と、東京大学特任助教の前田祐二郎氏。歯科医師でもある前田氏は、医療イノベーションを牽引する人材を育成するプログラム「バイオデザイン」の考え方をスタンフォード大学で学んだ後、日本でバイオデザインの普及を目指す活動も行っている。モデレーターには、主催者であるQuantumからCSO(Chief Strategy Officer)の井上裕太氏が参加した。

1891年創業のフィリップスは、総合家電メーカーとして名を馳せた後、現在は医療機器を含むヘルスケア事業に経営資源を集中させている。2018年5月には世界規模のアクセラレータープログラム「Philips HealthWorks」も開始した。ヘルステックカンパニーのリーダーを目指しているというが、どのような背景があるのだろうか。

相澤仁氏(以下、相澤):WHOの統計によれば、2035年には医療従事者が世界で1290万人不足するといわれています。また、世界的に生活習慣病などの慢性疾患が深刻化し、アメリカでは医療費の85%が、EUでは70~80%が慢性疾患の治療に使われているというデータもあります。

株式会社フィリップス・ジャパン 相澤仁氏

相澤:そんな状況を打開するためには、患者の治療を医療従事者ばかりに任せていられない。フィリップスは売上の10%を開発への投資に当てていますが、そのうちの6割が、AIを含むヘルスケア領域のソフトウェア開発に注がれています。

前田祐二郎氏(以下、前田):医療はもともと規制の多い領域ですが、なかでもヘルステックはさらに難易度が高いと感じます。なぜなら医療の現場、テクノロジー、そしてビジネス、すべてへの理解がなくては成り立たないからです。

医療は公共性の高い分野なのでよく誤解されがちで、「ビジネスにならなくてもヘルステックが普及すればいい」と言う人がいるんですが、だめなんです。ビジネスとして成立させなければ普及しない。普及しなければ、患者さんにはなんのメリットも提供することができません。私は医療従事者ですが、そのために最近まで、ベンチャーキャピタルに勤務していました。

東京大学 前田祐二郎氏

各々の専門知識やバックグラウンドをクロスさせ、イノベーションを計画的に生み出していく。

一言にヘルステックといえど、それを取り巻くステークホルダー(利害関係者)は多岐にわたる。サービス事業者、医療従事者、患者、病院だけでなく、医療倫理や社会への影響も大きいことから、法令による規制も厳しい。医療従事者だけをとってみても数多の専門分野があり、それぞれに「専門医」がいる。イノベーションを生むには、彼らをいかに接続できるかもポイントのひとつとなる。

前田:私がスタンフォード大学で学んだ「バイオデザイン」の考え方では、病院をひとつのプラットフォームと捉えて、計画的に医療のイノベーションを生み出していくんです。どういうことかというと、医療従事者はどんな最先端テクノロジーが存在するのかを知らない一方、技術者は医療の現場で何が起きているのかを知らない。そこでこの両者でチームを組んで、一緒に病院内を見て回るんです。

さらにそのとき医療従事者のほうは、自分の専門領域を避け、それ以外の部署へ行くようにします。各々の専門知識やバックグラウンドをクロスさせていくことによって、イノベーションを生み出すというシステムなんです。

井上裕太氏(以下、井上):なるほど。面白いですね。

株式会社QUANTUM 井上裕太氏

前田:病院の外にも目を向ければ、フィリップスさんのようにヘルステックを手がける企業を、医療従事者側がいかに後押しできるかにも、ビジネスの成否は懸かっていると考えています。つまり規制緩和のためには、企業ではなく医療従事者のほうから「患者のためになる」と声を上げることが一番。そのためにも、日本の医療現場がもっと新しいテクノロジーにオープンになっていけるよう、私もライフワークとしてさまざまな活動をしていきたいと思っています。

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変革が必要な旧来型制度の下でも、めげずにビジネスをつくるためのクリエイティビティーとは?