博報堂DYMP「脱・広告モデル」への挑戦。「ペット手帳」を軌道に乗せるまで
実吉賢二郎(株式会社stepdays 代表取締役) / 田上洋平(株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ビジネスイノベーション局 オープンイノベーショングループ マネジメントプラニングディレクター)
2019.05.20

テレビCMや新聞広告など、マス向けのコミュニケーションだけで顧客を掴むことが難しくなっている昨今。これまで広告ビジネスを中心に手がけてきた博報堂DYメディアパートナーズが、「脱・広告モデル」の事業づくりへと本格的に乗り出した。

その第一弾事業が、2019年4月にサービスインした「ペット手帳」。LINEを通じて飼い主、動物病院、企業をつなぐ、新しいコミュニケーションプラットフォームだ。

仕掛け人は、博報堂DYメディアパートナーズとベンチャーキャピタルのWiL。サービスインと同時に、両社のジョイントベンチャーとして、株式会社stepdaysを設立した。今回は「ペット手帳」のキーマンである2名、博報堂DYメディアパートナーズからstepdaysの代表に就いた実吉賢二郎氏と、本体でオープンイノベーションの推進に携わる田上洋平氏にお話をうかがった。

既存の広告ビジネスにとらわれない新事業は、いかにして生まれたのか? その背景には、一本の電話に端を発する「情熱」と、時代の変化に対する危機意識があった。


取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:朝山啓司

「動物病院の課題を解決するサービスをつくりたい」。きっかけは一本の電話だった

HIP編集部(以下、HIP):おもに広告事業を手がける博報堂DYメディアパートナーズが、ペット業界の新サービスを立ち上げたのは意外です。なぜこのようなサービスを始めたのでしょうか?

実吉賢二郎氏(以下、実吉):じつは、2013年に博報堂DYメディアパートナーズは、「妊婦手帳」という、妊婦と病院をつなぐサービスを発表しています。私はこのサービスに、発案から立ち上げ、運営までずっと携わっていました。

その「妊婦手帳」のペット版をつくってほしいという一本の電話が、「ペット手帳」につながったのです。電話は、北海道のとある動物病院からのものでした。そしてお話をうかがうなかで、動物病院が抱えるさまざまな問題が見えてきたのです。

株式会社stepdays 代表取締役 実吉賢二郎氏

HIP:どんな問題でしょうか?

実吉:まず、現在の動物病院は、飼い主さんの満足度を高めるためのサービス業務など、本来の診察以外の仕事に追われがちだということ。また、ペットが病気になったときや予防接種のタイミングなど「年に1、2回しか動物病院に行かない」という方も多く、それ以外のコミュニケーションは電話やハガキなどのアナログなツールに頼りがちのため、飼い主に伝えるべき情報を十分に伝えきれていない。そこで、獣医師と飼い主がもっと効率的にやりとりできるデジタルプラットフォームがほしいのだというご相談でした。

お電話の翌週には、はるばる北海道から東京まで来てくださって。3時間かけて「業界を変えるために、力を貸してください」と熱く語られ、私も「やろう!」と。「このくらい突き抜けた情熱を持った方となら、新しい挑戦もうまくいくに違いない」思いました。

HIP:「ペット手帳」では、具体的にどのような方法で、医師と飼い主がつながれるのでしょうか?

実吉:より手軽に利用していただくために、登録は専用アプリをインストールするのではなく、LINEでペット手帳と「友だち」になることで行えます。自分の通っている病院をリストから選ぶと、休診日などのお知らせや、ペットの健康管理などのアドバイスが届く仕組みです。

病院側からこまめに情報を発信することで、飼い主はよりペットを気にかけるようになり、「様子がおかしいから病院に相談しよう」という意識も生まれやすくなる。「ペット手帳」では、このようなかたちで飼い主と動物病院をつなげることができます。

ペットの健康状態や日々の写真を日記のように記録できる「ペット手帳」。自分の通っている動物病院からのお知らせや、編集部が配信するコンテンツなどを受け取ることができる

HIP:アナログで行っていたサービス業務をデジタル化することで、業務効率化につなげるサービスということですね。

実吉:ええ。そして獣医師やスタッフが診察に注力した結果、診察の質が向上し、ペットを飼う人が増える。こうしてペット業界のボトムアップに貢献することが、「ペット手帳」の最終的なゴールです。このような長期的なビジネスは、体力があり、中立の立場から信頼性を保てる大企業だからこそ構築できると考えています。

「広告代理業」への危機感から、少しずつ組織が変わっていった

HIP:動物病院からの相談を受けた当時、実吉さんは新規事業を担当されていたのですか?

実吉:当時は、広告事業やPR事業といった現業のインキュベートと並行して、新規事業にもいくつかトライしていました。ですので、この件についても相談を受けて「とにかく動いてみよう」と。まずは獣医師や飼い主の方々にヒアリングしたり、メンバーを集めたりするところからスタートしました。

実吉:それ以前に所属していた部署の上司も、新規事業への取り組みを歓迎してくれている人でした。「広告代理業だけでは成り立たなくなる時代がくる」という危機感を抱いて、会社への提言なども行っていました。ただ、組織が変わるのには時間がかかるので、自分の管轄部署内だけでも、実験的な試みを積極的に行っていこうと。私自身、彼に影響されて新規事業に興味を持つようになったところもあります。

田上洋平氏(以下、田上):その後2018年4月に、現在私も所属する「イノベーションセンター」という部署が設立されました。ここでは新規事業の創出をさらに加速させるべく、「広告外収益事業」をつくることをミッションとして掲げています。

広告事業は主軸事業として引き続き強化していくのですが、とはいえ変化の激しい世の中に対応する力をつけたい。そのためにオープンイノベーションを活用しながら、従来の広告モデルに頼らない新しいビジネスを開発していくための組織です。

株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ビジネスイノベーション局 オープンイノベーショングループ マネジメントプラニングディレクター 田上洋平氏

実吉:広告会社ですから、弊社にはもともと新しいことが好きな人がたくさんいます。ただ、属人的な取り組みでは事業としてスケールさせることが難しい。そこで、そういう人が活かされ、力を発揮できる仕組みをつくるために、イノベーションセンターが立ち上がったのです。その第一弾として事業会社化したのが、「ペット手帳」というわけですね。

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「ペット手帳」の事業化が、博報堂DYメディアパートナーズにもたらした変化とは?

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