INTERVIEW
博報堂DYMP「脱・広告モデル」への挑戦。「ペット手帳」を軌道に乗せるまで
実吉賢二郎(株式会社stepdays 代表取締役) / 田上洋平(株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ビジネスイノベーション局 オープンイノベーショングループ マネジメントプラニングディレクター)

INFORMATION

2019.05.20

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新しいビジネスへの挑戦。外部のノウハウが、成功判断の客観的な材料に

HIP:「ペット手帳」は1年間のトライアルを経て、2019年4月に本格的にスタートしました。同時にVCのWiLとのジョイントベンチャーとして株式会社stepdaysを立ち上げられていますが、博報堂DYメディアパートナーズ社内で運営を行わなかったのはなぜでしょうか?

田上:WiLとは、サービスの構想を練る段階からずっと並走していました。「ペット手帳」の計画が持ち上がった当初は、われわれが得意としてきた広告モデルを基本に考えていましたが、やはり「どうせ新規事業に挑戦するなら、新しいモデルを考えてみよう」と。ですが、広告業界以外のことはわれわれも素人なので、新規事業のプロフェッショナルであるWiLのノウハウやネットワークを借りながら、「勝ち筋」を見つけていこうということになったのです。

私自身、WiLには出向していた経験があるのですが、その際に知り合った起業家のなかに、たまたま獣医師の資格がある方が数名いらっしゃって。ヒアリングや意見交換会のなかで、獣医師の立場から見た病院経営の課題などをうかがえたんです。それらを参考にさせてもらいながらつくった事業計画を、WiLやそのパートナー企業の方々にも見てもらい、アドバイスをいただきました。

実吉:「こんなことをやりたいんです」だけの計画書だと、会社も判断しにくい。そのため仕上がりの事業のスケール感は保ちつつ、初期コストを抑えるために初めは外部パートナーと連携するなど、投資する側の目線で入口と出口を最適化することを意識しました。

HIP:本格的なサービス開始に伴って、新会社を設立したのはなぜですか。

田上:推進力を高めるためです。現在の博報堂DYメディアパートナーズは既存の広告事業を最適化、最大化させるための人員構成ですから、まったく違うビジネスに乗り出すにあたり、人材を強化し、WiLにも経営参画してもらうべく、別組織として外に切り出すことになりました。

HIP:実吉さんは、WiLのような外部パートナーと組むメリットをどのように感じていましたか?

実吉:従来の広告モデルに基づいた事業であれば、会社も成否の予測を立てやすいわけです。しかし、広告以外の領域については社内で前例がないため、提案しても判断のしようがないんですよね。「成功するのか?」「やってみないとわかりません」の繰り返しでなかなか前に進まない。その点、今回はWiLが入ってくれたことで、外部の知見やノウハウを客観的な判断材料にすることができました。

とはいえ、動き始めてからは苦労もありました。小さなテストで実績を積み重ね、少しずつ社内の信頼を獲得する必要があったのです。正直にいうと、「どこまでやってもテストばかりで、いったいいつになったら事業化できるのか……」と思った時期もありました(笑)。

「新しい会社できたんだね」。新規事業を後押しする風土醸成につながった

HIP:田上さんは、「ペット手帳」の事業化が博報堂DYメディアパートナーズにどんな影響を与えたと思いますか?

田上:外部のパートナーとジョイントベンチャーをつくり、本社のレポートラインから切り離すことで推進力を上げる。新規事業をかたちにするためのひとつの方法として、そういうやり方を示せたことは、会社やあとへ続く社員にもいい影響を与えるのではないかと考えています。「ペット手帳」でひとつのモデルケースをつくれたことは大きな前進です。

HIP:「ペット手帳」の社内での注目度はいかがですか?

田上:社内を歩いていると、すれ違う人に「新会社できたね」ですとか「実吉さんのプロジェクト、どう?」などと声をかけられることが増えました。イノベーション創出のためには、具体的な事業化のアイデアを育てることはもちろん、会社としての風土醸成も大切ですから、そうやって興味を持ってもらえていることには貴重な価値があるのではないかと思います。

HIP:関心が広がっていけば、そのうち「自分も新しい企画に挑戦しよう」という機運も生まれてくると。

田上:そうですね。私は、新規事業を推進するうえでもっとも大きな力になるのは「個人の熱量」ではないかと考えています。「ペット手帳」も、実吉個人のモチベーションによるところが大きかった。何度もテストや説明を繰り返し、それでも「成功するのか?」と問われ続ける苦労は、個人の熱量がないと突破できないと思います。

そうした苦労が実り、いまの実吉が楽しそうに仕事をしているのもいいですね。これから新しいアクションを起こしたいと考えている社員にとっても、そうした実吉の姿が励みになるのではないでしょうか。自分たちでイニシアチブをもち、楽しんで事業に取り組む社員を増やすことが、広告モデルに頼らない新規事業を後押しする風土をつくると思います。

カギは「熱量」をキャッチする仕組みと、広告代理店ならではのネットワーク

HIP:「ペット手帳」について、これまでの手ごたえはいかがですか?

実吉:ユーザーや動物病院の登録、協賛企業は順調に増えており、当初のKPIは達成しています。今後はWiLとともに温めてきた新しいビジネスモデルを、実際に稼働させるフェーズ。その第一歩として、協賛企業のペット用品を「ペット手帳」上で販売するECサービスを始めたいと考えています。

最終的には全国動物病院の半分くらいにご利用いただき、業界にとって欠かせないプラットフォームを目指していきたいと思います。イノベーションセンターのミッションでもある「広告に頼らないビジネスモデル」への挑戦は、ここからですね。

また、せっかく新会社を立ち上げたからには、「stepdaysとしてのカルチャー」も構築していきたい。現在6名いるメンバーは、バックグラウンドや雇用形態もバラバラです。しかし少人数だからこそ、目標をつねに共有し、それに向かって個人のやりたいことと結果を尊重することで、働く人のモチベーションを最大化できる組織づくりをしていきたいですね。

HIP:では最後に、田上さんから、イノベーションセンターの今後の展望を教えていただけますか?

田上:イノベーションセンターとしては、「ペット手帳」に続く広告外収益事業を数多くつくっていくことが、当面のミッションになります。そのためには、新規事業に挑戦する風土を醸成し、「やってみたい」という個人の熱量をキャッチできる、組織としての仕組みをつくることがまずひとつ。

もうひとつが、オープンイノベーションへの取り組みをさらに加速させることです。博報堂DYメディアパートナーズは広告会社として、媒体社やコンテンツホルダーをはじめ、多くの業界、企業とビジネスネットワークを持っています。そのアドバンテージを活かし、私たちが描く「未来」を積極的に発信することを通じて賛同者を募り、新しい事業を共創していきたいですね。

Profile

プロフィール

実吉賢二郎(株式会社stepdays 代表取締役)

2000年、株式会社博報堂入社。8年間の営業職を経て社内事業開発を行う現職へ。大手携帯キャリア、コンテンツホルダー、出版社、通販会社、デジタル系媒体社等との協業によるサービス開発を手掛ける。グッドデザイン賞、キッズデザイン賞、社内では社長賞(2年連続)、社内コンペ金賞など受賞多数。

田上洋平(株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ビジネスイノベーション局 オープンイノベーショングループ マネジメントプラニングディレクター)

2006年、株式会社博報堂入社。人事局で採用活動に従事したのち、営業局で大手自動車メーカーや通販会社のマーケティングを担当。2016年からはWiLに出向し、ジョイントベンチャーの立ち上げ他、複数の新規事業開発案件に携わる。2017年10月より現職。

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