現在、AI関連の技術は目覚ましい進化を遂げ、さまざまな業種業界が活用に乗り出している。その一方で、使いこなすにはスキルが必要で、コストもかかることから、導入の敷居が低いとは言い難い。
そんな過渡期のAI業界において、誰もがAIを使いこなせる世界を実現すべく、事業に取り組んでいるのがギリアだ。AI開発のスタートアップのUEIと、ソニーコンピュータサイエンス研究所の合弁会社として2017年6月に設立した後、同年11月にベンチャーキャピタルのWiLが資本参画し、現在の経営体制となった。社員は、UEIとソニーの出身者に加えて、ギリア設立後に採用された人員も増えてきている。
今回、話を伺うのは経営陣の三人。代表取締役社長でUEI出身の清水亮氏、取締役副社長でソニー出身の齋藤真氏、財務・管理担当取締役でギリア設立後に転職してきた数藤剛氏だ。AIが一般に普及するために必要なことをはじめ、世の中に新たな文化を創造するためのギリアの施策やビジョンを語ってもらった。
取材・文:笹林司 写真:豊島望
勝ち組がいないAI市場だからこそ、第一人者になれる可能性がある
HIP編集部(以下、HIP):ギリアは、UEI出身の清水さんが代表、ソニー出身の齋藤さんが副社長を務めています。ソニーとのプロジェクトに清水さんを引き込んだのは、そもそも齋藤さんだったと聞きました。
齋藤真氏(以下、齋藤):そうですね。もともとギリアの前身として、ソニーとUEIによる共同開発プロジェクトがありました。
大企業の研究開発の典型例は、「ロードマップに沿ってさまざまな技術を開発する」というイメージですが、それだけでは新規事業の創出につながりにくい。そのプロセスを変える試みとして、外部の起業家との連携によって、ソニーから独立しても成長できる新規事業を生み出すことが目的でした。理想としては、プレイステーションのようなまったく新しい事業を生み出したいという狙いです。その取り組みをマネジメントしていた私が、清水を引き込んだのです。
HIP:清水さんから見て、齋藤さんの第一印象はどうでしたか。
清水亮氏(以下、清水):最初は、典型的な「大企業の人」なのかなと思っていました。ぼくが知っている大企業の人って、具体的な実行プランを掲げて、かつそれを本当に実行できるところまで面倒を見る人が本当に少ないんですよ。「その場ではできると思ったけど、自分の権限では無理でした」とか。実現が難しいことは理解できるのですが、それに翻弄され続けてきて、大企業と組むことに自信を持てなくなっていたんです。
でも、齋藤は、できないことをできると言わない。3年ほど時間をかけてつき合い、きちんと実行できる、信用していい人だとわかったので、一緒にギリアを設立しましょうと。もしも、ほかの担当者だったら、ギリアは生まれていなかったかもしれないと思います。
HIP:なるほど。一方、創業メンバーのお二人とは違い、約半年前に中途で入社された数藤さん。どういった経緯でギリアにジョインしたのでしょうか。
数藤剛氏(以下、数藤):ベンチャーキャピタルのWiLから、清水と齋藤を紹介されたのがきっかけでした。初めて二人と話した際、ギリアが描くビジョンを聞いて、とにかくわくわくしたんです。
私は、現状維持が嫌いで、つねにポジティブに進化することを大事にしています。二人がトップの会社なら、これまで生きてきた人生の延長線上にはない、手の届かない場所へ行けそうだと感じて入社を決めました。
清水:数藤が入社するまで、財務や経理に詳しい人が、ギリアにはいませんでした。会社が成長している実感があったからこそ、このままだとまずいぞ、という危機感を持っていたんです。
そんなときに、MBO(マネジメント・バイアウト)したベンチャーを上場させたり、管理部門を一から立ち上げたりした経験がある数藤が入社してくれたのは、幸運だったとしかいいようがないですね。
HIP:数藤さんは、いろんな業種の会社を渡り歩いた末の入社だったそうですが、なぜAI分野のギリアを選んだのでしょうか?
数藤:AIという分野も決め手のひとつでした。未だ勝ち組が定まっていない領域だからこそ、ギリアがその第一人者になれる可能性がある。また、市場規模や影響する範囲が非常に大きいので、会社としてさまざまな選択肢が取れます。いろんなことにチャレンジできそうだと感じました。
マンガやSFで描かれる世界も、AIによって少しずつ実現していくはず
HIP:ギリアは、「ヒトとAIとの共生環境の実現」を目指しています。誰もがAIを手軽に開発できるようにしたいとのことですが、AIが身近になることで、一般消費者者の生活はどう変わるのでしょうか。
清水:それは、「新幹線が開通したら、なにが起きるんですか?」といった問いに似ているんですよ。
HIP:どういうことですか?
清水:「目的地に速く、快適に到着できるようになる」ということです。新幹線が開通する前でも、時間はかかったけれど、目的地には到着していたでしょう。でも、そこに速さや快適さを加えるには、新幹線が必要だった。
AIもそれに似ています。極端な例でいえば、犬も猫も知らない人がいたとしましょう。写真を見せて違いを教えるとしたら、見た目の特徴が似ているため、その人が自分で判別できるようになるにはかなり時間がかかってしまうと思うんです。
それが、AIを活用すれば0.1秒で判別できるようになります。このスピードの差は、AIが実現できることの代表的な事例です。現状では、そこまで真新しいことじゃないように感じるかもしれませんが、それは世間の人がAIに抱いている期待感が大きい証拠でもあります。そして、その期待も決して的外れではありません。マンガやSFで描かれていることも、少しずつではありますが実現していくと思いますよ。