INTERVIEW
リスキリングが日本を変えるか?ジェネラル・アセンブリーの講師が語る
八田浩(株式会社ロケットメイカーズ代表取締役社長) / 黒柳茂(株式会社リム代表取締役社長) / エイミー・ジョーンズ(General Assembly Inc.)

INFORMATION

2022.12.14

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社会的に課題とされる労働人口減少、とくにデジタル人材の不足を補うため、今年10月3日に招集された国会で岸田文雄首相は、リスキリングに5年間で1兆円の支援を表明した。このリスキリングのパイオニア的存在であるのが、General Assembly(以下、GA)。同社は2011年の創業以来、10か国以上、約20万人に教育やキャリア転換支援を行なってきた。そして、2022年よりアンカースター株式会社をエンゲージメント・パートナーとし、日本市場に進出、さっそく国内の大企業を対象にプログラムを提供している。

GAは、日本においてどのようなプログラムを実施し、どのような価値を生み出しているのだろうか? アメリカ本国のGAのアジアパシフィックのスタッフであるエイミー・ジョーンズ氏、日本でGAが実施するプログラムの講師を務めたロケットメイカーズ代表取締役社長である八田浩氏、株式会社リム代表取締役社長である黒柳茂氏に、プログラムの特徴やリスキリングの重要性などを聞いた。


取材・文:サナダユキタカ 写真:タケシタトモヒロ

柔軟な教え方をする講師が、受講生を変える。ディスカッションを軸としたGAのプログラム

HIP編集部(以下、HIP):黒柳さん、八田さんのお二人はどのようなご自身の経験をもとに、講師を務められたのですか。

黒柳茂氏(以下、黒柳):私はデータサイエンティストとして、データを活用してさまざまな企業の新規事業開発や組織変革支援に携わってきました。その知識をいかして、「Digital Foundations For Leader」(リーダーのためのデジタル基礎)というプログラムの講師を担当しました。このプログラムはDX時代において、いかにデータを活用しながらリーダーシップを発揮するかといった内容です。これらを8週間かけて、学んでもらいました。

株式会社リム 代表取締役社長の黒柳茂氏

八田浩氏(以下、八田):私の場合はデジタルマーケティング領域を専門にしながら、事業投資・M&A・PMIや新規事業開発などに関わっています。今回はデジタルマーケティングにフォーカスし、最終的にはデジタルを活用したキャンペーンの策定ができるまでの知識獲得を目指し、2か月かけて計20回の講義を行ないました。

株式会社ロケットメイカーズ 代表取締役社長の八田浩氏

HIP:GAの講師になったきっかけを教えてください。

八田:デジタルマーケティング全般を教えられる人を、GAが探していると知人から紹介されたのがきっかけです。最初は、「大企業がリスキリングで本当に変われるのだろうか?」という疑問が、正直ありました。というのも、日本ではデジタルマーケティングなどの専門領域を外注先に任せる傾向が強い。企業のDX化はニュースになっていますが、どこまで本気で日本企業が取り組めるか懐疑的でした。

一方で、日本人はグローバルに浸透しているモノやサービスを受け入れる傾向が強い。外資のGAが日本に進出してリスキリングに取り組むことで、「大企業が変わるきっかけになるのでは」と可能性を感じたんです。いざプログラムをスタートさせると、「自分の業務にすぐにでも活かしたい」と取り組む、受講生のみなさんの前向きさに驚きました。

黒柳:私は過去にもデータ活用に関する講義を行なっていたので、その流れからGAの講師を担当することになりました。日本だと講師が話し、受講生が聞くという一方通行な講義が主流です。しかし、GAの講義は講師が教えたら、あとの半分は議論をしながら、気づきをもたらすような余白があり、日本とは大きな違いがあります。

講師もある程度の柔軟性やファジーさがないと、受講生とのインタラクション(やり取り)が生まれません。加えて、講義をうまくファシリテートする力も必要。たとえば、思わぬ質問や意図しないアウトプットが受講生から出た場合に、「私もその考え方は正しいと思います」と柔軟に意見を受け入れ、議論を深堀りする場合もあります。そういう意味では、講師にとっても学びは大きいです。

八田:講師になる前にGAの面接を受けたのですが、そこでは柔軟性をとくに見られましたね。講義のテストもありましたが、ファシリテーションに評価の軸を置いていたように感じます。もちろん講義の質も求められますが、その進め方や話し方、どのタイミングで理解度を確認するかなどは細かく確認されました。

HIP:では、GA側が講師を採用する際、重視されている点は何でしょうか?

エイミー・ジョーンズ氏(以下、エイミー):大きく分けて、4つが挙げられます。幅広い専門的なバックグラウンドを持っていること、メンターシップとプロフェッショナルコミュニティーへの貢献の実績があること、グロースマインドセットを持っていること、本質思考であること、です。特に、黒柳さんと八田さんの話にあったように、柔軟性のある講師が受講生の成長につながりますので、その点は大切にしています。

GAのエイミー・ジョーンズ氏

受講者にモチベーション高く学んでもらうための工夫。注力した講義内容の検討と資料づくりとは

HIP:GAの講義の特徴は、受講生がいかに頭を使い、モチベーション高く学べるかという点にあるとの印象を受けます。講義のなかで、工夫した点などありますか。

八田:講義内容の検討や資料づくりは、注力しました。アメリカで使用されている講義資料をベースにするのですが、デジタルマーケティングにおけるメディア選定などは、アメリカと日本ではちがいます。共通なのはGoogleとFacebookくらいで、日本はLINEが強いなど特徴がありますので、そうした点は日本の実情に併せて内容をつくり変えましたね。

講義を始めて5回目くらいからは、使用する資料を日本向けにどんどんチューニングしていきました。ほかにも、今回の受講生はBtoBの企業の人々であったため、消費財などのBtoCの話だけでなく、業務に関わりのあるBtoB向けの内容を多く入れることでより理解が進むようにしました。

オーストラリアのGAで人気の講師がメンターとしてついてくれて、彼と週に1回相談をしながら講義の内容を検討しました。使用する講義資料の変更を相談したら「変えちゃえよ! ぼくのはこうだよ」と自身が使っているものを見せてくれて。それもかなり本国のGAが制作した原本からチューニングされていましたね。

講義中の八田氏。今回は八田氏がデジタルマーケティング、黒柳氏がリーダー向けの講義内容だったが、GA全体ではソフトウェア・エンジニアリングやユーザー・エクスペリエンスなど多様なプログラムを用意している

エイミー:私たちも、プログラムをどれだけ日本市場向けにローカライズできるかは、今後も引き続き追求していかなければならないと考えています。コースの内容やケーススタディー、使用するデータなどを、日本のビジネスコンテキストに置き換え、実践的に活用できるよう、調整する必要がありますね。

HIP:本業もあるなかで、講義の準備をするのはとても大変だと思います。それでもGAの講師を引き受けた理由を教えてください。

八田:大企業の人々が自ら学んで、新しい知識を手に入れようとしていて嬉しかったからです。日本企業はデジタル領域において、世界から遅れをとっています。このままだと本当に日本が大変なことになるというタイミングで、リスキリングに関われるのは面白いなと。

一方、正直にいえば講義の前後でやることはたくさんありました。質疑応答含め2時間半ほど講義を行なうのですが、その前に準備がありますし、受講生25人分の課題の添削が週2回あります。自分で課題を出しておいて何ですが、このチェックは大変でしたね。

HIP:八田さんも黒柳さんも同じ企業の社員に講義をしたそうですが、GAのプログラムはその人々に何をもたらしたと考えていますか。

黒柳:冒頭でお話ししたように、私は「Digital Foundations For Leader」というリーダー向けの講義を行ないました。たとえば、仕事において一回でも失敗をしたら、それで終わりといった文化が大企業であればあるほど根強く残っています。

GAのプログラムの場合は反対に、「たくさん失敗しよう」というスタンス。それには失敗ができる心理的安全性が必要で、それがあるからこそチャレンジングなことができるという点を今回の受講生のみなさんは学んでいきました。

競合他社の考え方も、日本の企業では同業の大企業が相手だと考えがちです。しかし、受講生が働く会社ではアプリなどもリリースしていました。ある側面では、ユーザーはNetflixをはじめとした最高のユーザーエクスペリエンスを届けようとしている企業のサービスとも利便性や快適性を比較します。こうした広い視野で、物事を捉えられることの大切さも伝えました。

また、プログラムを進めるなかで、顧客中心主義でサービスを設計すること、それらをチームで徹底していく姿勢が、受講生から見られるようになりました。学んだことが彼らの共通言語となり、いざ社内で連携するときに「これは講義でやったよね」と、リーダーとして方向性を見つけやすくなったのではないでしょうか。

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