デジタル人材不足を解消するには?ゼネラル・アセンブリーのリスキリングに学ぶ
ライアン・マイヤー(General Assembly) / 苔口穂高(アンカースター株式会社)
2022.09.05

超高齢化社会に突入し、労働人口の減少が大きな課題となっている日本。そのなかでも問題が深刻化しているのは、デジタル人材の不足だ。政府は、デジタル田園都市国家構想の実現のために必要なデジタル推進人材を330万人と推定、2026年度末までに230万人育成することを目指すとしている。

こうした状況下で求められているのが、働く人々のリスキリング(学び直し)。その育成プログラムを構築したパイオニアといえるのが、米国のGeneral Assembly社(以下、GA)だ。2011年の創業以来、10か国以上、約20万人に教育やキャリア転換支援を行なってきた。そしてこのほど、海外企業の日本進出を支援するアンカースター株式会社がエンゲージメント・パートナーとなり、日本進出を実現。2022年よりデジタル人材を育成するプログラムの提供をスタートさせる。

GAは日本のマーケットをどのように捉え、新たな価値を提供しようとしているだろうか。GAのアジア太平洋エリアのマネージングディレクターであるライアン・マイヤー(Ryan Meyer)氏、GAの日本進出をサポートしているアンカースターの苔口穂高氏に話を聞いた。


取材・文:サナダユキタカ

なぜGAがリスキリングのパイオニアに?誕生背景と企業成長の理由

HIP編集部(以下、HIP):リスキリングのパイオニア的存在でもあるGAは、どんなきっかけで誕生したのでしょうか。

ライアン・マイヤー(以下、ライアン):GAは2011 年にニューヨークで誕生しました。その頃は金融危機によってマーケットが大きな打撃を受け、コンサルタントのような高所得者も新たに職探しをするような時代でした。そうしたなかでテック企業が徐々に増え始めたのですが、今度はエンジニアやマーケター、プロジェクトマネージャーといった人材が不足。よって、テック企業を起業したくてもできないという状況に陥ってしまったのです。

そこで、GAでは社会人や起業家などに向けてITやデジタル領域の最先端教育プログラムの提供をスタートさせました。もともと私たちはコワーキングスペースを提供していたため、そのニーズを把握していたのです。

当時、例えばソフトウェアエンジニアになるためには、大学に通ってコンピューターサイエンスの学位を取得する必要がありました。しかし、それだと、膨大なお金と時間がかかってしまいます。そこでGAが、ソフトウェアエンジニアになるための教育プログラムを提供するようになりました。

なかでもGAの思想である「早く、効率的に新しいスキルを身につける」を実践し、教育の費用対効果(ROI)を重視。受講者は大学に通って学位を取ってから新しい職を探すのではなく、短期集中でスキルを身につけながら、同時に仕事探しもサポートするようになりました。

米国からリモートでインタビューに応じたGeneral Assemblyのライアン・マイヤー氏

HIP:GAが大きく成長した理由は何だったのでしょうか。

ライアン:従来の「学位を取ってから就職・転職する」というやり方ではなく、「新たな市場環境に必要なスキルやマインドセットを身につけ、新しい職を見つけるための最適な方法を提供してきたこと」が挙げられるでしょう。現在、世界中で約2万人がGAを通して新しい仕事に就き、20万人以上が新しいスキルを身につけています。

HIP:日本進出はいつ頃から視野に入れていたのでしょうか。

ライアン:2016年から考えていました。私自身、日本の大手企業である大日本印刷のニューヨークオフィスで働いていた経験もあって、日本の文化や商習慣などを理解しており、GAは日本でもフィットすると考えていました。GAのファウンダーとも議論を重ねながら、日本進出の準備を進めてきました。

デジタル人材不足を解決するには? 育成方法の構築とダイバシティーの醸成の重要性

HIP:日本はデジタル人材が不足しているといわれますが、なぜうまく育てていくことができないのだと思いますか?

ライアン:デジタル人材が不足しているのではなく、デジタル人材になるための方法が不足しているだけだと考えています。最近ではオンライン講座を受けながら、独学で学ぶ人も増えてきています。

しかし、オンラインだとコミュニティーやエコシステムの構築が難しい場合があるでしょう。オンラインで解決できないことも、開かれたコミュニティーがあれば、疑問点を詳しい人に聞いてみようといった行動がとれます。学び方がわからない人がいれば、逆にこちらから手を差し伸べることもできるのです。

HIP:GAのプログラムで、デジタル人材の育成を成功させた代表的な例などありますか。

ライアン:ウォルト・ディズニー・カンパニー(以下、ディズニー社)で行なった、リーディングプログラムですね。これは3年前のプログラムになりますが、当時、ディズニー社でソフトウェア・アプリ開発に関わっている大半が白人の男性でした。このダイバーシティーのなさに課題を感じた経営層が、GAと組んで社内の女性社員をソフトウェアエンジニアに育成するプログラムを立ち上げたのです。

ディズニーパークの清掃スタッフからピクサーのクリエイターまで、ディズニー社のあらゆる部門の女性社員に声をかけ、数百名の応募の中から50名を選抜。ソフトウェアエンジニアの育成プログラムを受講し、そのなかの9割が3年経ったいまでも、ディズニー社で活躍しています。

エンジニアの育成プログラムを学んだ社員が、本当に適応できるのか不安があるという声を聞きます。しかし、ディズニー社の例によって、どの企業もチャレンジすれば、デジタル人材の育成を実現できることが明確になったのです。

GAのキャンパス

HIP:GAにとって、日本はどのようなマーケットだと捉えていますか。

ライアン:私自身、日本の企業で長く勤めて感じたのが、日本人はテクノロジードリブンであること。誰もがテクノロジーを手に取って、試したがる傾向にあるということです。研究開発にもお金をかける文化もありますね。

さらに、企業のカルチャーとして、内製化したがる傾向も強い。新しいテクノロジーを、自分たちの手でつくり出そうとしています。そういった国だからこそ、次世代のスキルを提供する私たちのビジネスがマッチすると考えています。

一方で、日本のマーケットに合わせてGAも変わらなければならない部分があります。海外では転職希望者に当社の学習プログラムを2、3か月学んでもらい、新しい仕事に就いてもらうというBtoC型の事業モデルがメインです。

しかし、それでは前述のような自社内でテクノロジーを生み出そうとする日本のマーケットにフィットしない。そこで、「新しいテクノロジーを扱いたいけど、人材が不足している企業」をターゲットにBtoB型の事業モデルとしてサービスを展開することにしました。

日本企業にこそ、日本を変えられるポテンシャルがある。アンカースターが期待していること

HIP:日本進出にあたって、アンカースターとパートナーシップを結んだ(※プレスリリース参照)理由を教えてください。

ライアンアンカースターと組んだ最大の理由は、ビジョンやバリュー、目指す方向性が合致していたからです。日本という国の文化や商習慣については私も知っているつもりですが、サービスのローカル化に伴う知識を得ることは難しい。

アンカースターは、VIA Transportation, Inc.やKickstarter PBCといったグローバルスタートアップの日本ローカライズを成功させており、そうしたサポートするべき部分を把握したうえで、私たちが持つ起業家精神を尊重してくれるので、とても信頼しています。

HIP:アンカースターは、GAの日本進出を聞いてどのような感想を持ちましたか。また、どのように支援していこうと考えているのでしょうか。

苔口穂高(以下、苔口):「GAの進出が、これからの日本のためになる」と思ったのが率直な感想です。日本にもリスキリングを提供する企業や組織が増えていますが、グローバルにこれだけのスケールで大企業に向けてビジネスをしている企業は少ないと感じています。デジタル人材不足という大きな課題を抱える日本に、GAを必ず進出させたいと思いました。

また、GAがミッションドリブン(すべての意思決定や行動がミッションに沿っている)であることも、サポートしたいと考えた理由になります。同様にほかの海外企業・組織からも日本進出の話がありましたが、GAがそのなかでも目指す世界が大きいと感じワクワクしました。

さらに、純粋に教育事業だけで収益を上げているのもすごいと思います。デジタルスキルを持つ即戦力人材を育て、企業に紹介し、採用されると、手数料として年収の3割程度を受け取る人材紹介ビジネスを採用する企業も多いですが、GAはそういった事業を一切やらないのも魅力です。

GAをどのように支援していくかは、いまでも試行錯誤しているところですが、先ほどライアンさんからお話があったように、BtoBとして展開していくのは日本独自の戦略となります。日本企業にこそ、日本を変えるポテンシャルが大きいと信じているので、そういった企業がGAのプログラムを導入できるようにサポートしていきます。

アンカースターの苔口穂高氏

HIP:日本企業に対して、プログラムの提供は始まっているのですか。

苔口:実証実験の段階ではありますが、デジタル人材の教育プログラムを企業に提供しています。サービスの正式なリリースは、秋頃を予定しています。

ライアン:秋頃からリスキリングに特化したプログラムを、大企業に向けて提供していく予定です。米国ではすでに、Fortune100の半分近くがGAのBtoBプログラムを採用していただいています。5人にも500人にも同じように提供できるサービスだと自負しています。自社のデジタル人材を強化して、競争力を上げていきたい企業をサポートしていきます。

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学歴よりも重視されるべきことは? 世界のデジタル化の流れと求められる人材

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