INTERVIEW
中止を諦めきれず、新規事業で二度も復活。富士ゼロックス技術者の転換点とは
江草尚之(富士ゼロックス株式会社 開発企画管理部)

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2018.09.28

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期限まで残り1か月に追い込まれたとき、奇跡的な偶然が重なった。

HIP:カード以外でニーズを探っていたところで、カードの事業に行き着いたのですね。

江草:聞いてみると、当時の富士ゼロックス社内で動いていたあるプロジェクトがその背景にありました。社員証と一体化したICカード型個人認証セキュリティーカード「AFSC(All Fuji Xerox Security Card)」を全社に導入するというものです。これを推進していた富士ゼロックス社内のAFSCチームには、自社独自の技術でカードを印刷したいという思いがあったようです。

江草:クロスワークスは当時、ポスターなどの大きな印刷物をつくる大判印刷など、特殊な印刷事業を行っている企業でしたが、新たな柱となる新規事業を立ち上げたいと考えていました。もし富士ゼロックス全社に導入されるAFSCのプリントを、自社独自の新技術であるMOEでカード事業を立ち上げることができれば、同時に大きなビジネスチャンスを手にできる状況だったのです。

HIP:まさに奇跡的な偶然ですね。

江草:はい。MOEを商品化したいという私たちの思い、新規事業を立ち上げたいというクロスワークスの思い、富士ゼロックス独自の社員証サービスを構築したいというAFSCチームの思い、それぞれの強い思いがあったからこそかたちになりました。VHPの活動期限としていた半年まで残り1か月しかないところですべてが決まったので、本当にタイミングが良かったと思います。

「ビジネスモデルを考えろ」。1回目で得た教訓が、2回目に活きた。

HIP:そうした経緯で、ICカード発行サービスがクロスワークスにより事業化され、江草さんたちのプロジェクトチームはどうなったのでしょうか。

江草:クロスワークスのカード事業がある程度の軌道に乗った2008年に、VHPで活動していたチームは解散しました。しかし2012年になって、富士ゼロックスの子会社で新たな商品化の企画がスタートし、そのためにMOEのクオリティーをさらに向上させるよう技術開発の要求があったのです。これにより、解散したメンバーが集まることになり、胸が高鳴りました。

ところが、ほんの1年余りで新商品の話はとん挫することに。しかし私たちはすでに技術開発を進めていて、カードのみならず、布や木材、合成皮革などにもプリントできる「第2のMOE」を完成させていました。せっかくプラスチック以外に印刷できる技術が生まれたので、1回目で得た学びを生かして、ふたたびVHPで商品化に向けて活動することにしたのです。

HIP:2回目の活動では、どのようなことから始めたのでしょうか。

江草:1回目のVHP活動でビジネスモデルを考えることの重要性を学んでいたので、まずはそこから始めました。「オンデマンドで1枚から安価で印刷できる」というMOEの強みを活かしたビジネスモデルを考えたときに、大量生産よりも、オリジナリティーのあるものを少量だけつくる「アート」と相性がよいのではないかと思いました。絵画の複製ビジネスなど、いくつかの試行錯誤も経て、さまざまな展示会に出かけてアーティストたちに話を聞くなかで、事業化へのヒントが見えてきました。

アーティストとしては「オリジナルデザインの商品をつくりたいが、単価を下げるには大量生産する必要がある」「かと言って、たくさんの在庫を抱えるのは怖い」というジレンマがある。一方、ファン側には「好きなデザイナーの作品はもちろん購入したい」「世界に1つのグッズはプレゼントにもなる」というニーズがあることがわかってきたのです。

まさにこの悩みは、MOEなら解決できると思いました。結果、2014年に「アーティストによるオリジナルデザインでバッグやポーチなどの小物商品を制作し、販売する」というビジネスモデルで商品化にこぎつけたのです。

イラストレーターの瀧川裕恵さんとコラボレーションしたグッズ

HIP:1回目の学びをうまく活かされたのですね。

江草:ようやくカード以外で商品化することができ、ワクワクしましたね。それから2016年には「第2のMOE」をさらに改良し、もっと多様な種類の素材に印刷できる「第3のMOE」を開発しました。現在もVHPを活用し、この最新版MOEの商品化に向けて、試行錯誤しながら活動中です。

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