INTERVIEW
脱炭素社会の実現を。荏原環境プラントが挑む巨大リサイクル事業とは?
栴檀恵治 / 井原貴行(荏原環境プラント株式会社)

INFORMATION

2022.01.20

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近年「SDGs」や「ESG経営」の考えから環境問題に対して企業の取り組みに注目が集まる。ごみ処理施設の建設と運営を行なう荏原環境プラント株式会社も、その一社だ。2019年に同社は長く休止していた、廃プラスチックから化学製品の原料をつくりだす技術への取り組みを再稼働させ、2つのケミカルリサイクル事業を本格化。2030年までに社会へ実装していくプロジェクトを推進している。

「海洋プラスチック問題」の解決や「脱炭素社会」の実現に向けた大規模な本プロジェクトのカギを握るのが、「EUP®(加圧2段式ガス化システム)」「ICFG®(内部循環流動床ガス化システム)」という2つの特殊な技術だ。一般的には聞き馴染みがない技術だが、いったいどんなものなのだろうか。そして、大規模なプロジェクトならではの困難と、それを乗り越えるための心構えとは? 企画担当の栴檀恵治氏、開発担当の井原貴行氏に、課題とビジョンをうかがった。


文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:玉村敬太

廃プラスチックから化学製品の原料を取り出す技術

HIP編集部(以下、HIP):地球規模の課題解決のカギを握るかもしれない「EUP」「ICFG」という技術を、荏原環境プラントは持っているそうですね。それぞれどんな技術なのでしょうか?

栴檀恵治氏(以下、栴檀):どちらも簡単にいうと、「ゴミから化学物質を取り出す技術」です。ゴミを燃やすのではなく、熱分解することでCO2を排出せず、取り出した物質は燃料や化学製品の原料などにリサイクルすることができます。

EUPは荏原環境プラントと宇部興産の共同事業、ICFGは弊社の独自技術として2000年代から開発を進めてきました。

栴檀恵治氏

HIP:たとえば、どんなゴミからどのような化学物質を取り出すことができますか?

栴檀:まずEUPですが、家庭などで一度利用され使用済みになった「廃プラスチック」を熱分解し、そこから一酸化炭素と水素の合成ガスを取り出すことが可能です。この合成ガスは、アンモニアなどの精製に使われます。

ちなみに2003年から昭和電工さんに導入いただき、「昭和電工KPR(川崎プラスチックリサイクル)」という名前で現在も稼働しています。

EUPを導入している昭和電工川崎事業所(画像提供:昭和電工)

井原貴行氏(以下、井原):本来、アンモニアは天然ガスを分解して取り出した水素を原料に精製されますが、EUPを使えば廃プラスチックを使って精製できる。つまりゴミからアンモニアに必要なガスをつくることができるわけです。

一方のICFGですが、こちらは廃プラスチック以外に、生ゴミや汚泥、バイオマスなど、さまざまなゴミから化学物質を取り出すことが可能です。熱分解の温度を変えることで、合成ガスだけでなく原油の代替になる油、あるいは「エチレン・プロピレン」といった価値の高い化学工業原料も取り出すことができる仕組みになっています。

井原貴行氏

環境問題は「荏原」の得意分野。「過去の技術」を新規事業の柱に

HIP:そもそも、ゴミ処理施設の建設や運営を手がけてきた荏原環境プラントが、なぜこうしたリサイクル事業に乗り出すことになったのでしょうか?

栴檀:弊社は古くから「環境といえば荏原」といわれるくらい、環境問題に注力しており、とくに1990年代から2000年代は「ゼロ・エネミッション(排出ゼロ)」を掲げていました。そうしたなか、既存の「流動床式焼却システム」をベースに生まれたのがEUPやICFGです。

一般的なゴミ処理施設は、ゴミを燃やしながら処理する「ストーカ式」が主流です。しかし、流動床式焼却は高温の流動砂の熱量を利用することで、ゴミを瞬時に燃やします。この独自システムを使い、ごみを燃やすのではなく熱分解することによって化学物質を取り出す技術を2000年代の初頭に開発しました。

流動床式焼却システムの概要

HIP:技術そのものは20年前からあったわけですね。

栴檀:はい。しかし、ICFGは15年ほど前にいったん開発をストップしています。当時は現在ほど世界の環境意識も高まっておらず、そこまでの設備投資をしてリサイクルしなくても「燃やして発電することが合理的」という考え方が主流でした。そのため、技術はあっても使いどころがなかったわけです。

しかし、2015年の「パリ協定」以降にCO2排出削減や脱炭素といった考え方が広がり、同時期にはプラスチックによる海洋汚染も問題視されるようになった。そこから世界の環境意識が大きく変わりました。

そういった世間の流れもあり、20年前の技術を用いてEUPやICFGを活かしたリサイクル事業を行なうことにしたのです。

井原:EUPもICFGも、そもそもゴミを燃やさない、CO2を排出しないという点において大きな価値があります。2000年代初頭に一度開発に取り組んだ技術ですが、廃棄物の安定処理技術をベースとしながら、そのままでは処理しにくい、多様なゴミを広く受け入れることができます。炭素や水素といった元素を化学的に循環利用し、「モノをモノとして繰り返し利用する」ことでCO2の排出を抑制していきたいです。

2020年10月には日本政府が、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにして脱炭素社会を目指す「カーボンニュートラル」を宣言していますからね。それを実現するためにも、なるべく早くEUPやICFGを社会に実装していく必要があると考えています。

脱炭素社会の実現に向けて。企画と開発を同時並行で推進

HIP:ICFGを新規事業として再稼働していくにあたり、工夫したことや直面した課題はありましたか?

栴檀:新規事業を進めるうえで工夫した点は、技術の棚卸しです。先ほど、ICFGの重要性について気づいたのは、世界の環境意識の変化をあげましたが、私たち自身も、どのような技術を保有するのか、なにができるのかを把握し、調査することでICFGの発展性に気づきました。

官公庁や民間企業にヒアリングしていくうち、市場でも「カーボンリサイクル」が求められていることがわかってきたので、ICFGを活かすことができるのではないかと仮説を立てて取り組みました。古い技術とはいえ、新規事業の核になることはありますので、棚卸しという手法は重要でした。

井原:開発面の課題としては、長くストップしていた技術なので、もう一度基礎的な研究から始める必要がありました。またこの技術が現在の社会のニーズにどうマッチし、どう事業化できるのかあらためて検証しなければなりません。こうした「技術」と「企画」の両面を同時並行でスピーディーに進めなければならない難しさがありましたね。

開発には専門的な知識を要するので、それを正確に企画部に伝えないとアイデアの具現化が難しかったり、お客さまのニーズが捉えられなくなったりすることが目に見えていました。なので、私が双方をつなぐために、企画と開発を兼務する体制を取りました。お互いのイメージをマッチさせ、頻繁にコミュニケーションを取ることが事業スピードの促進につながっていると思います。

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