INTERVIEW
日本でユニコーン100社は誕生する?海外雇用を促すDeelが説く、勝つための組織
中島隆行(Deel Inc. カントリーマネージャー)

INFORMATION

2023.01.24

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2019年にシリコンバレーで創業し、わずか3年で評価額120億ドルのユニコーン企業となったDeel(ディール)。EOR(従業員の代替雇用)という日本ではあまり聞きなじみのないサービスを軸に、急成長を遂げている。

サービスの概要は、法的な雇用をDeelが代行することで、商習慣や報酬、税金の支払いといった国ごとのルールの違いに縛られることなく高度人材を柔軟に雇用できるというもの。リモートワークの普及を追い風に需要が急増し、2021年12月には日本でもローンチされ、国内企業にもクライアントが存在する。

すでに、世界1万5000社の企業が導入しているというDeelのサービスは、なぜグローバルに必要とされているのか。また、世界で巻き起こる人材獲得競争に、日本企業はどう向き合うべきなのか。そして、ユニコーン企業を数多くつくろうとしている日本という国全体として、人のマネジメントはどう行なうべきなのか。Deel日本法人の立ち上げメンバーである中島隆行氏にうかがった。


取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:タケシタトモヒロ

シリコンバレーで起きている「ギグワーカーの奪い合い」

HIP編集部(以下、HIP):はじめに、Deelのサービスの概要を教えてください。

中島隆行氏(以下、中島):Deelでは、94か国にある各国の自社法人を活用し、Deelが企業と従業員とのあいだに入る形で、給料の支払いや税金の申告などを代行しています。これにより、企業はどこの国の人材でも柔軟に雇用することができるわけです。

企業が海外在住の人材を雇う際には、基本的にその国に雇用の受け皿となる現地法人をつくる必要があります。しかし、それにはコストがかかりますし、言語はもちろん国ごとに給与の支払いや税金のシステム、商習慣がまるで異なるため、せっかく優秀な人材がいるのに雇用するのは難しいというケースがあるんです。

そこで、Deelの国境を越えた先にいる人材を雇用できる仕組みが、クライアントの皆さまに活用されています。

Deel Inc.カントリーマネージャーの中島隆行氏

HIP:雇用はDeel側で行ない、実際は依頼先の企業で働くということでしょうか?

中島:そのとおりです。企業の海外雇用を代理する「Employer Of Record(以下、EOR)」というもので、アメリカなどではすでに一般的となっているサービスです。

法律的にはDeelが雇用しますが、実際にはクライアント企業でコンサルタントというかたちで働いていただきます。なお、人材を見つけていただくのはクライアント企業自身ですね。

HIP:Deelは2019年にシリコンバレーで創業しましたが、立ち上げの背景を教えてください。

中島:2つの背景があります。まずは昨今、シリコンバレーのスタートアップ界隈では、スキルのある人に仕事が集中し、現地のギグワーカー(中長期ではなく、プロジェクトごとに仕事を請け負う人)の奪い合いが起きています。さらに彼らへの報酬もどんどん高騰している。そこで、国外からも優秀なエンジニアやクリエイターなどをリモート雇用するという動きが広がっています。

もう1つは、先ほどお話ししたEORの需要の高まりです。EORは従来、50あるアメリカの州、一つひとつに法人を立ち上げなければならない企業の悩みを解消するものとして生まれました。なぜかというと、50州それぞれで法律や税制が異なるため、たとえばニューヨークの会社がロサンゼルスの人材を雇用するときにEORの存在があることで円滑に雇用関連の事務が進むのです。

しかし、今後はアメリカだけでなく世界的に国境を越えた人材雇用の仕組みが求められるだろうという予測から、Deelが設立されました。

HIP:実際、Deelは起業後すぐに急成長していますよね。

中島:2019年の設立から間もなく、新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、世界的にリモートワークが当たり前に活用されるようになりました。

そのタイミングでDeelの需要も急拡大し、現在では世界1万5000社のクライアントと15万人の労働者をつなぐサービスとなっています。

企業も人もより「らしく」働くためには?これからの雇用

HIP:Deelを通じて働く人についても教えてください。どんな職種の方がいるのでしょうか?

中島:8割くらいはIT・DXに関する人材です。AIやデータサイエンス関連といったいわゆる高度人材もいますし、ソフトウェアエンジニアもいます。 契約形態もEORを通じてフルタイムで働く従業員から、時間給や成果報酬型で働くコントラクター(業務委託)までいます。

HIP:というと、IT以外の職種もいるのですか?

中島:必ずしもITとは関係ないというわけではありませんが、海外進出を推進するビジネス開発、コンテンツづくりを手掛けるクリエーター、ローカライズや言語的な支援を行うコールセンターなど、現地の人材を活用しリモートで働いてもらった方がメリットがある職種は結構あります。

例えば日本のソフトウェア企業がある国へ進出しようとし、Deelを通じてその国の人材を確保するとしましょう。どれだけ優れたソフトウェアでも、進出する国のキャッチーな言葉やコンテンツで伝えないと、顧客の反応を得られないことも考えられます。

そうしたときに、現地を知る人材のサポートがあれば、より顧客にリーチする可能性が生まれます。ほかにも、カスタマーサポートやリサーチができる人もいますし、なかにはマネジメントまで行なえる人材もいますね。

HIP:基本的にフルタイムで働くかたちでしょうか?

中島:いえ、パートタイムで働く方も、フルタイムで働く方も、どちらもいます。フルタイムの場合はEORを活用されるケースが多いですが、コントラクターの場合はフリーランサーとして時間給を基準に働くパターンもありますし、成功報酬のようなかたちで専門分野に特化して複数のプロジェクトを掛け持ちで働かれるケースも多々ありますね。そこは、クライアント企業と労働者の意向から柔軟に対応しています。

Deelとクライアント、コントラクターの関係を表す図(提供:Deel)

HIP:得意分野を活かしたいコントラクター、必要なプロジェクトや業務で働いてもらいたい企業の、どちらにとっても利となる柔軟性であると。

中島:そうなりますね。日本やヨーロッパ諸国だと、企業側は「従業員を簡単に切ることはしない。その代わり、オフィスに出社し、就業中は時には業務の範囲を超えて働いてもらう」といった思考になりがちです。

ただ、それだと本当に優秀な人材に来てもらうことは難しいのではないかと感じます。優秀な人ほど、より自分らしく働ける場所を見つけやすいですから。企業側もそうですし、働く側も相応の柔軟性を持っていたほうがよいはずです。

ますます厳しくなる人材獲得競争。日本企業の課題は給与水準と文化の壁

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