少子化による労働人口の急減。日本の将来はどうなる?
HIP:2021年12月からは日本でもサービスがローンチされました。中島さんはその立ち上げメンバーですが、日本進出の背景を教えていただけますか。
中島:日本は経済が停滞しているといわれますが、マクロで見れば未だにGDP世界3位の経済大国です。それだけの大きな経済規模に加え、海外との取引量が多く、企業の海外拠点は7万5000ほどもある。
しかし、その一方で労働人口は急減しています。現時点で約6,800万人といわれていますが、20〜30年で5,000万人程度まで落ち込むという予測(※1)もあるなかで、GDPを維持するには国外の人材を積極的に活用しなくてはいけません。そうした背景から、日本市場には十分なニーズがあるだろうと考えていました。
HIP:現状の日本企業は海外の高度人材をあまり活用できていないのでしょうか?
中島:そのとおりです。海外ではソフトウェア関連の高度人材を中心に奪い合いが起きている状況で、人材の流動化が激しくなっています。しかし、先進国のなかで日本と韓国だけが大きく出遅れてしまっている。
ちなみに、日本では2030年までに45万人のIT人材が不足するといわれています(※2)。人材不足を補い、上位1%の人材を獲得するためには、少しでも早くグローバルなタレントプールにアクセスする必要があるでしょう。
※1:経済産業省資料「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」(2018年9月)より
※2:2019年に経済産業省が発表したIT人材需給に関する調査より
日本企業が世界に負けないため、必要とされる多様な働き方と組織
HIP:日本企業が世界の人材獲得競争に打ち勝つには、何が必要ですか?
中島:まずは、やはり給与水準の引き上げですね。よくいわれることですが、世界的に見て日本の給与水準はかなり下がってきています。
例えば、日本への人材ソーシング国を担っているベトナムの平均給与は年間約5%ずつ上昇していて、ほかの東南アジア諸国も数%上がっています。リモート雇用を前提とした高度人材の給与はさらに高騰しているんです。当然、日本の初任給と比較しても水準は高く、まずはそこから変えていく必要があるでしょう。
HIP:なるほど。報酬面以外にはありますか?
中島:これまでは海外の人材を雇用する際、基本的には日本に来て働いてもらうという考え方の企業が多かったように思います。しかし、今後はリモート雇用を前提に、世界中どこでも働ける仕組みと文化を根づかせていく必要があるのではないでしょうか。
リモートならビザの取得や日本滞在のための生活費といったコストもかからず、そのぶんを報酬に上乗せすることもできるはずです。
HIP:これまでの日本のマネジメントスタイルも変える必要があると。
中島:そうですね。リモートワークを導入している場合でも、日本企業では未だに「上司が監視をする」といったマネジメントスタイルが主流ですよね。
先ほど申し上げたことと重なりますが、成果に対して評価をするジョブ型の働き方にシフトしていくことが大切です。つまり、成果を出しさえすれば働く場所や時間は問わないという考え方ですね。
特に、海外在住のリモートワーカーが、日本式の「9時、17時」の就労時間にならう必要はありませんよね。各々が住んでいる国の生活時間やライフスタイル、カルチャーに基づいて働けたほうが、生産性も上がるはずですから。まずは企業側がそうしたマインドセットを変えていくべきではないかと思います。
HIP:それができれば、日本企業における人材の多様化も進みそうです。
中島:そうですね。単に高度人材を獲得するというだけでなく、さまざまな国籍、言語、あるいはナレッジを持つ人たちを柔軟に集めてリモート雇用することで、企業に多様な価値観がもたらされるでしょう。
日本企業はどうしても日本人を採用したがりますが、いまやボーダーレスなテクノロジーの世界にあって、世界市場に進出するためにはいかに多様な組織をつくれるかが鍵になります。
それぞれの国のニーズやカルチャーを理解したうえでプロダクトやサービスに反映していかないと、成功することは難しいですから。
HIP:中島さんはこの1年半にわたり日本企業のクライアントと接してきて、そのあたりの意識の変化は感じますか?
中島:そうですね。特にリモートワークに対する意識は、ここ2、3年で大きく変化していると感じます。きっかけは、やはりコロナ禍。一時期、水際対策で海外から日本への入国が制限されていましたよね。
海外人材を入国させたくてもできない時期に、じつは多くの企業がDeelを活用したリモート雇用を導入したんです。結果、リモートでも何ら問題がないことがわかり、そこから大きく流れが変わってきたように感じますね。
日本政府が目指す「ユニコーン100社」ははたして実現できるのか?
HIP:日本でDeelがローンチしてから1年半が経ちましたが、現状、日本企業からの引き合いはどれくらいあるのでしょうか?
中島:現時点で約100社の企業にご利用いただいています。大部分はスタートアップですが、大企業のお客さまも少しずつ増えていますね。
HIP:例えば、どんなクライアントが、どのようなかたちでDeelを利用していますか?
中島:さまざまなパターンがありますが、一例を挙げるとグローバルなメーカー企業からスピンアウトしたスタートアップにご利用いただいています。
要は、大企業が持つ最新鋭のテクノロジーをスピーディーに世界へ展開していくために母体から完全に切り離して独立させたわけですが、それによる弊害も生まれてしまいました。
HIP:具体的にどのような弊害でしょうか?
中島:それまではグループ会社が世界各地に持つ100か所の拠点を通じ、各国で人材を採用していたのですが、独立によってグループから切り離されてしまったため、雇用の受け皿がなくなってしまったんです。
あらためて、イチから拠点をつくっていくとなれば、膨大なコストと時間、さらにはリスクが生じます。万が一、撤退するような状況となれば、そのためのコストや雇用している人の処遇に頭を抱えることは明白です。そこで、なるべくミニマムに、スピード感を持って事業を展開していくためにDeelを活用いただきました。
HIP:Deelのようなサービスが浸透していくことで、日本企業の海外展開のアプローチや考え方も、大きく変わっていきそうです。
中島:これまでの日本企業は、その国ごとに駐在事務所を立てて、一つひとつ組織をつくっていくという考え方が主流でした。しかし、これだけリモートワークが浸透し、分散型のテクノロジーが充実している状況で、そのやり方を続けるのはあまりにも非効率ではないでしょうか。
必要なのはグローバルな戦略のゴールに向けて、圧倒的なスピード感を出せる組織をつくること。そのためには、国ごとのオペレーションの違いに振り回されることなく、優秀な人材を迅速に活用していく必要があります。
HIP:そのためにも、Deelのような仕組みを活用してほしいと。
中島:そうですね。高度人材の雇用に際し、国や地域の壁がなくなれば、企業が持つ本来の強みをさらに生かすことができるはずですから。
現在、岸田内閣が中心となり、ユニコーンと呼ばれるようなスタートアップを100社つくっていくことを目標としています。本気でそれを実現するためには日本国内だけでなく、当初から世界を見据えて事業を展開していく必要がある。
アイデアやテクノロジーに加え、組織体制や人材雇用も含めて世界に展開できるポテンシャルを示すことで、海外のVCが投資したくなるような企業をつくっていかなくてはならないと思います。Deelがその一助になれたら、こんなに嬉しいことはないですね。