セブン&アイが教育分野へ?中学生向け新規事業D-Stadiumとは
山田智樹(株式会社セブン&アイ・ホールディングス経営推進部)
2021.02.22

一方的なプレゼンの形式ではなく、双方向的なディスカッションにする

HIP:とはいえ、セブン&アイ・ホールディングスにとって教育事業はまったく未知の分野です。新しい市場に進出するためのリソースやコストなどの問題もあります。そんななか、どうやって「D-Stadium」をスタートさせたのでしょうか?

山田:セブン&アイ・ホールディングスでは毎年、さまざまな社会貢献活動を行っています。

社会貢献は単発で行うのではなく、活動を持続することが求められますが、余剰利益の一部を充て続けるのでは持続可能とはいえません。そんな背景のなかであえて幾ばくかの先行投資をし、経営推進部が主導するかたちで社会課題解決に特化した新規事業創出に取り組むことになったのです。

社会課題解決型ビジネスの第一人者である株式会社ボーダレスジャパンさまに全面協力をいただき、セブン&アイ・ホールディングスに特化した「ボーダレスアカデミー」という新規事業創出プログラムをつくってもらいました。既存領域にとらわれず、各個人が考える「社会課題解決」をキーワードに挑戦者を社内募集したんです。

そのアカデミーの第一回目の参加メンバーとして活動しています。ただ、教育事業は前例がないだけに、単純な課題解決の提案だけでは最終審査を突破できなかったと思います。

HIP:どうやって審査を突破したんですか?

山田:アカデミープログラムがスタートしてから実際に事業を検討開始するまでに、合計3回の審査会がありました。一般的な審査であれば、提案者が持ち時間内でプレゼンを行い、決裁者が質疑応答と採点審査をして終了になりますよね。初期の審査会ではやむを得ずこの方法をとったのですが、検討を進め、事業の解像度が上がってきた段階でやり方を変えたんです。

2020年末に行った3回目の最終審査会では、こちらが一方的にプレゼンするだけでなく、決裁者と「じっくり議論」するというやり方に変更しました。プレゼン8割、質疑応答2割くらいだったのを、プレゼン4割、議論6割にしたんです。

事業の概要を端的かつ詳細に説明したのち、決裁者のみならず、外部識者(WiLパートナー、ボーダレスグループ副社長)の客観的な意見も交え、徹底的に議論し、最終的には決裁者がジャッジをするという。その一部始終は、経営推進部内にライブ配信もされていたので、昔のテレビ番組『マネーの虎』みたいなイメージですね(笑)。

HIP:ディスカッションの狙いは何だったのでしょうか?

山田:やはり新規事業の提案って、結局は儲かるか儲からないかの話になりがちです。もちろん数字はきちんとロジックを組んで、売上目標はこうですと説明しました。

でも、オンライン教育事業のように、これまで自分たちの会社がやったことがない分野の数字を議論したって限界がありますよね。リスクなんて考え出したらキリがないし、仮説なんて突っ込もうと思えばいくらでも突っ込めるわけです。

それよりも会社としてこの事業をやる意義を、いかに想像してもらえるかがカギでした。いまの社会や地方にとって教育がいかに重要なのか。セブン&アイ・ホールディングスがなぜそれをやるべきなのか。そのことを決裁者に「自分ゴト」として理解してもらうためには、ディスカッションというかたちが必要だったんです。ちなみに売上目標などの数字はあえて控えめに出しました。

HIP:どうしてですか?

山田:新規事業を提案するとき、売上や利益が小さいとボツになるんじゃないかと不安になって、つい強気の数字をプレゼンしてしまいがちです。でも絶対にそこは突っ込まれるんですよ。

というのも、人間には自分が理解できる情報や得意な領域、過去に事例があることを議論の主戦場にしてしまう傾向があります。この場合、売上や利益は主戦場になりやすく、新しい提案や未来の展望、仮説などの不確実な要素は脇に置かれてしまうんです。

VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の時代ってよく言われますが、不確実性こそ議論の主戦場にすべきで、それこそが新事業創出の要諦だと思ったわけです。

このときの提案ポイントは「なぜ、セブン&アイ・ホールディングスが教育事業をやるべきなのか」、そして教育事業を「どのような魅力的なコンテンツで実現するのか」の2点でした。

だから、事業やコンテンツの話をメインにするために、あえて現実的で控えめな数字にしたんです。下手に数字で興味を引いたり、突っ込まれたりしてしまうと、大事な話ができなくなってしまうので。

HIP:なるほど、弱点を中途半端に補うのではなく、長所を強化しようと。

山田:はい。もちろん事業ですので、数字は重要な判断材料のひとつです。でも、そこがメインになってしまうと新規事業なんてできない。既存事業の延長しかできなくなってしまうんですよ。

本当に新しいことをやろうと思ったら想像力が必要なんです。この事業がなぜ必要なのか、私たちのリソースで可能なのか、そこを徹底的に議論すべきなんです。数字はその結果でしかないので。

「自分の想い」を発信し続けていれば、多様なメンバーと出会える

HIP:ほかの新事業担当者にとっても参考になりそうな話です。そんな「D-Stadium」は、現在どのようなメンバーで運営されているのでしょうか。

山田:いまのところ社内メンバーは、私と事務をサポートしてくれるスタッフだけ。あとは外部の方々の力を借りています。

これもすごく重要で、社内のリソース・ノウハウ不足を解決するだけでなく、外部の方々にちゃんと対価をお支払いして運営することで、どれくらいのクオリティーのコンテンツをどれくらいのコストで実現できるのか。そのためにはどういう価格設定がよいのかなど、新規事業を持続させていくためのリアルな学びが得られるんです。

インタビューや文章関連のプログラムには、元フリーライターの湯川カナさん、編集者・メディアプロデューサーの有田佳浩さん。また、オンラインでの主体的なコミュニケーションを活性化するためには有能なファシリテーターが必要と考え、日本ファシリテーション協会の竹本記子会長、『ZOOMオンライン革命』の著者・田原真人さんから力を貸りています。

講師 湯川カナさん

HIP:教育の専門家はいないんですか?

山田:いまのところ一人もいません。教育に限らず、まったく新しいサービスでこれまでにない価値を生み出したいのなら、むしろ専門家ではなく素人を集めたほうがいいと考えています。

グループ会社のセブン-イレブンやセブン銀行がいい例で、創業メンバーがその業界にどっぷり浸かっていないからこそ斬新かつ柔軟な思考が生まれ、イノベーションを起こせたのだと思います。

ファシリテーター 竹本記子さん(日本ファシリテーション協会会長)

HIP:面白いですね。でも、教育事業の経験のない山田さんが、こういった多様な外部メンバーと知り合い、巻き込んでいけたのはなぜなのでしょうか?

山田:知人からの紹介が中心ですが、大事なのは「自分の想い」を発信し続けることだと思っています。今日のインタビューでお話したようなことを、いろんな場所で何度も話しているんです。それを続けていれば、そういえば「こんなこと言ってる奴がいたな」と思い出してつなげてくれることがある。

ちなみにSNSではほとんど発信していないです。やっぱり内容が薄く伝わってしまうんですよね。直接会うことが難しい最近でも、「ZOOMで15分だけください!」って、アポをとってプレゼンする。そこで印象に残った方がいろいろ紹介してくれたりするんです。

HIP:起業家が投資家にアピールするときのエレベーターピッチみたいですね。それによってお金ではなく、人やつながりを集める。

山田:そうです。3分、5分、10分、30分バージョンのプレゼン資料を常に用意しています(笑)。3分バージョンで響かなかったら5分バージョンに切り替えるときもあるし、相手の反応を見て、資料を何度も修正しています。最近の私の仕事はほとんどこれかもしれません。

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