INTERVIEW
大企業のセクショナリズムに打ち勝つ。クレディセゾンに学ぶチームづくり
川原友一(株式会社クレディセゾン 経営企画部長 兼 IT戦略部 デジタル業務推進室 担当部長) / 田中泉(同 デジタル事業部 デジタルマーケティング部 メディア企画課) / 中川愛子(株式会社キュービタス 業務改革部)

INFORMATION

2018.12.10

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実現したいことを経営層にしっかり理解してもらえたからこそ、適した人材が集まった。

HIP:プロジェクトの実務を担ったメンバーは、どのように集めていったのでしょうか?

川原:取締役や部門長を集めた初期メンバーの会議で大きな方向性の合意をとったあと、私が初めにプレゼンをしたクレディセゾン、キュービタスの常務や、関連する部門長にお願いをして、田中や中川をはじめとした7、8人を集めてもらいました。「何事にも前向きで、新しい話を聞いたら『ノー』からじゃなく『イエス』から入れる人を連れてきてくれませんか?」と。

田中:私の上司もプロジェクトの初期メンバーの一人でしたので、面談でこのプロジェクトのことを知り、すごく共感しまして。私自身、以前はセゾンカウンターでお客さまと対面する仕事をしていたので、現在の部署であるデジタル事業部で得たノウハウが現場の業務改善に活かせることにやりがいを感じました。それで立候補して、メンバーに加えてもらったんです。

川原:最初に二人の常務に、実現したいことに対してしっかりと共感してもらえたからこそ、適した人材が集まったと思います。

HIP:良いメンバーが集まった一方、基本的には本所属の組織の業務と並行してのプロジェクトだったそうですね。兼務の難しさはありましたか?

田中:私の場合は上司もプロジェクトに参加していたので、意義を理解して後押ししてくれました。たとえばプロジェクトの仕事が忙しい時期は素直に上司に相談したり、キュービタスのメンバーに協力をお願いしたり、周りの支えもあってそれほど困ることはありませんでした。ただ、自分で希望して参加したプロジェクトであるぶん、決して本務を怠ることがないようには気をつけていました。

中川:私は参画した当初は本務が忙しく、上司に「プロジェクトに時間をもっと割きたい」と相談して、本務の業務量を調整してもらいました。

ただ、自分のこと以上に苦労したのは、コールセンターの実務を担当しているメンバーの時間をもらうことでした。コールセンターのトップに相談して、電話応対業務の時間の一部をプロジェクト参加にあてるパイロットチームをつくってもらいましたが、「その分の電話をどう対応しようか」という話になり……。最終的には、大阪の拠点にその分の電話対応を受けてもらえるように依頼して、トータルの仕事量をカバーできるように調整しました。

最初はまったく意見が出なかったコールセンターのメンバー。対話を重ね、徐々に打ち解けた。

HIP:コールセンターのメンバーは、プロジェクトにおいてどんな役割を担っていたのでしょうか?

中川:AIをメンテナンスする仕事です。今回使ったAIは、正解(教師データ)を覚えさせることで学習するタイプのプログラム。コールセンター業務なら、音声認識から導き出されたマニュアルが適切かどうか、ウェブサイトのお問い合わせチャットなら、お客さまが入れたキーワードに対してAIが出した回答が合っているか、などの検証がメインでした。

メンバーには、AIによるサポートを一番必要としている新人もあえて入れました。業務習得が難しいという理由で、もともと新人の離職率の高さも課題としてあったので、それをなんとか改善できればという思いもありました。

都内にあるキュービタスのコールセンター。常時400人以上のオペレーターが待機し、お客さまサポート業務を行う

川原:私や田中は普段お客さまの声を直接聞く立場ではないので、現場の感覚をわかっているメンバーを、中川が巻き込んでくれたのは非常に助かりましたね。

HIP:参加された現場の方の声にはどんなものがありましたか?

中川:教師データを増やすたびに、AIの答えがどんどん良くなっていくのが実感としてわかるので、大変だけど関わって良かったという声が多かったです。

それまでコールセンターのメンバーは、自分たちの力では変えられない、あらかじめ用意されたマニュアルやシステムをもとに仕事をしていました。でも今回は、そのマニュアルから一緒につくるような仕事です。「もっとこうしたら良いのでは?」という現場の意見が反映され、それがメンバーのモチベーションにつながるという、非常に良い循環ができました。

HIP:会社をまたぐという面も含めて、こうした協力体制をつくるまでに工夫されたことはありますか?

中川:コールセンターのメンバーは、一から新しい仕組みをつくり上げる経験をおそらくいままでしたことがなかったので、最初はまったく意見が出なかったんです。「使いにくいよね?」と聞くと、「そうなんですけど……そういうものだと思っていました」と。

それに対して行ったのは、特別なことではないのですが……。意見を求めるにしても漠然とした質問では答えにくいので、私自身がコールセンターで電話を受けていたときの経験を思い返して、あたりをつけて質問してみたり、定期的なミーティングでじっくりと話を聞いたり。地道な積み重ねで少しずつ話してくれるようになり、「一緒につくっている」という雰囲気が出てきたと思います。

「むりやり仕事を変えられる」という不信感から一転。思いを実現してくれる希望の存在に。

川原:私も初顔合わせのときに「一緒に変えましょう!」と熱く語ったんですが、リアクションはあまりなく……(笑)。最初は私たちクレディセゾンのメンバーがいないところで意見が出てきて、中川を通じて伝え聞くようなかたちだったのですが、そのあと何度もミーティングを重ねることで少しずつお互いの距離が縮まって、いまでは一緒にディスカッションができるようになりました。

川原:コールセンターのメンバーのあいだには、AIを活用した今回のプロジェクトで自分の仕事が変わっていってしまうんじゃないかという不安が少なからずあったと思います。それも社内で立ち上がったプロジェクトならまだしも、関係会社が外からやってきて、トップダウンで強制的に変えられるんじゃないかと。

そういった不安は、理屈で説明して納得してもらうより、繰り返し足を運んで顔を合わせて会話することでいつかほぐれるのかなと感じており、実際そうだったと思います。明るい雰囲気のディスカッションをしたくて、少しでも笑いが起きるように、くだらない話もよくしていました。

中川:コールセンターで働くメンバーの多くは普段クレディセゾンの方々とは話す機会がないですし、クライアントと受託会社という立場もあります。そんななかでも「意見を言えば、それを必ず実現してくれる」二人だったからこそ、コールセンターのメンバーも希望を持って少しずつ変わっていったのだと思います。

また、クレディセゾンの人たちが、「どんなシステムを使っているのか見たい」とコールセンターを訪れて、オペレーターの真横まで来てくれる機会もしばしばありました。いままでにないことだったので、社内で注目のプロジェクトに参加していることを実感し、自分たちの行動によって本当に変化が起こせるかもしれないと感じてくれたんじゃないかと思います。

田中:私自身はプロジェクトのなかでの自分の立ち位置を模索していた時期もあったのですが、現場の方々から意見をもらえたことでやるべきことが見え、とてもありがたく感じていました。

最終的にはコールセンターのメンバーから、直接の担当ではないウェブサイト内のFAQコンテンツに対する改善案まで、自発的に出るようになったんです。コールセンターによる案内や自動チャットと照らし合わせ、表現のちょっとしたゆらぎをなくしたり、お客さまがわかりやすい言葉を選んだり。コールセンターのメンバーのおかげで、私たちの視点だけでは気づくことができなかった点も顧客目線で見直すことができました。

トップダウンからボトムアップへ。現場へのバトンタッチの際、気をつけるべきこととは?

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