大企業のセクショナリズムに打ち勝つ。クレディセゾンに学ぶチームづくり
川原友一(株式会社クレディセゾン 経営企画部長 兼 IT戦略部 デジタル業務推進室 担当部長) / 田中泉(同 デジタル事業部 デジタルマーケティング部 メディア企画課) / 中川愛子(株式会社キュービタス 業務改革部)
2018.12.10

カードビジネスで約30年以上の歴史を持ち、国内のクレジットカード市場を牽引してきたクレディセゾン。近年、電子マネーや決済システムの多様化などフィンテック産業が成長するなかで、同社もイノベーション創出を積極的に推進している。

顧客の価値観の変化に対応し、既存ビジネスモデルから脱却し成長し続ける組織をつくるべく、全社的な業務の自動化、省力化に取り組む同社・経営企画部の川原友一氏は、その一環としてAIを活用した顧客対応の自動化、高品質化に向けたプロジェクトを企画した。コールセンターなどカードビジネスのプロセシング業務を担う関係会社キュービタスとの会社横断チームを立ち上げ、お客さま向けコールセンターのオペレーター業務の生産性向上と顧客満足度向上、また、お問い合わせに対してAIが自動応答するチャット機能をウェブサイト上に導入するなど利便性向上に取り組んでいる。

今回話を伺ったのは、川原氏と、同氏のもとで実務に取り組んだクレディセゾン田中泉氏、キュービタスの中川愛子氏。「まずはトップ層に受け入れてもらい、そして現場の意見を丁寧に吸い上げる」という方法で、確かな信頼関係で結ばれた理想的なチームをつくり上げ、会社横断プロジェクトを見事に成功させた三名の話から、人材マネジメント、プロジェクトマネジメントのヒントを探る。


取材・文:小野いこ 写真:金壮龍

年間600万件以上の電話がコールセンターにかかるなか、すべてには対応できていなかった。

HIP編集部(以下、HIP):まずは、AIを活用した今回のプロジェクトの概要について教えてください。

川原友一(以下、川原):AIを使って、お客さま向けコールセンターのオペレーター業務と、ウェブサイトでの自動チャットによるお問い合わせ対応の改善を行うことを目的としたプロジェクトです。2017年7月にウェブサイト側のリリースをしたあと、2018年6月にコールセンターの回答支援をスモールスタートし、現在もブラッシュアップを続けています。

同プロジェクトにより、クレディセゾンの公式ウェブサイトに設置された自動チャットお問い合わせ機能

川原:昨今、決済やクレジットカードの市場には、テクノロジーを活用した新たなサービスを提供するベンチャー企業など、新しい企業が続々と参入してきています。そうしたなかで、私たちが展開するセゾンカード、UCカードが築いてきた優位性は、全国にセゾンカウンターというリアルの顧客接点を持ち、対面でのコミュニケーションを大切にしてきたことです。

しかし、いまやお客さまの生活の中心はスマートフォン。対人の良さを残しながら、デジタル時代に合わせた顧客とのコミュニケーションのあり方を模索していました。そこで、まずは既存のお客さまとの接点のひとつであるコールセンターの業務を改善できないかと考えたのです。

株式会社クレディセゾン 経営企画部 川原友一氏

HIP:コールセンターには、どのような課題があったのですか?

中川愛子(以下、中川):クレディセゾンのコールセンター業務は、関係会社である私たちキュービタスが受託して行っています。コールセンターには年間600万件以上という膨大な数のお問い合わせのお電話があり、なかにはオペレーターが対応できないお電話も一定数発生してしまっていたんです。

この原因には、クレディセゾンの多様な商品やサービスに対してマニュアルも複雑化しており、お問い合わせへの答えをオペレーターがすぐに見つけられず、1件ごとの対応に時間がかかっている現実がありました。さらに、オペレーターの育成に時間がかかるという問題にもつながっていました。

また、お客さまがお電話で問い合わせをされる根本の原因を探ると、ウェブサイトで疑問を解決したくてもできない状況があることがわかりました。つまりコールセンターでのオペレーションとウェブサイト、両方に改善の余地がある。それをテクノロジーの力で解決できないかとプロジェクトが始まったんです。

株式会社キュービタス 業務改革部 中川愛子氏

まずは経営層に近い人物への熱いプレゼンを行い、理解者をつくった。

HIP:クレディセゾンとキュービタスのように、関係会社とはいえ、会社をまたいだプロジェクトの場合、軋轢や意識の違いなどが生じることも多いと思います。今回のプロジェクトはいかがでしたか?

川原:やはり、会社間の思惑の違いはどうしてもありました。キュービタスは、クレディセゾン以外の企業からもさまざまなオペレーション業務を受託しています。そのため、当社とのこのプロジェクトに対してリソースを割く意義を理解してもらう必要がありました。

中川:キュービタスはプロセシング会社ですので、新規プロジェクトを進めるには、コールセンターで実務を担うオペレーターからリソースを割く必要があります。一方で、先ほど挙げたような課題もあったため、AIでの業務改善に賛同する声も多くありました。

川原:そこで、まずはクレディセゾン、キュービタス両社のトップを説得しなければならないと思いました。たまたまキュービタスで意思決定に関わる常務の大野が私のかつての上司だったので、プロジェクトに人員を割いてもらえないかと直接お願いしました。

川原:さらに最終的なゴールはコールセンターとウェブサイト双方の改善なので、クレディセゾン側のウェブの担当部署も巻き込む必要がありました。会社も部門も横断するプロジェクトを、ブルドーザーのようなパワーで一緒に進めてくれる人がほしい、と思って話をしたのが、クレディセゾンのデジタル系部門を担当する傍ら、セゾン・ベンチャーズというCVC(コーポレートVC。主に本業とのシナジー効果を狙って、ベンチャー企業へ投資を行う事業会社)の代表も兼務している常務の三浦です。今回のような新しい取り組みを理解してくれる経営層を巻き込もうと考えてのことでした。

この二人には、「テクノロジーを活用して、当社の重要な顧客コミュニケーション拠点の抜本的業務改革を実現しましょう。お客さまに選ばれる会社を目指して、一緒に現状を変えていきましょう!」と自分としては熱い力を込めてプレゼンをしました。

私がこのプロジェクトにおいて一番がんばったのは、二人へのプレゼンかもしれません(笑)。日頃からテクノロジーや業務改革に対して感度の高い二人でしたので、すぐに受け入れてくれるどころか、「さっさとやれ!」と発破をかけられました。

「社内手続きはすべて自分が行うので、メンバーは実務に集中してほしい」と最初に宣言した。

HIP:熱を入れたプレゼンの後は、組織間で特に大きな問題が起こることもなく進行したのでしょうか?

田中泉(以下、田中):スムーズだったと思います。会社をまたいだプロジェクトですから、誰が決裁や予算を取って、稟議書を書くのか、というハードルにぶつかるところですが、最初から川原が「私が全部やります」と言い切っていたので、周囲も協力しやすかったのだと思います。

川原:じつは過去のプロジェクトの経験では、最初こそ大勢が活発に議論していたものの、具体的な業務に落とし込まれてくると「誰が稟議書く?」「予算あるんだっけ?」という話になって、仕事を押しつけ合って立ち消えしてしまうということがありました。こうした反省を踏まえて、今回は社内的な手続きをすべて自分がやると最初に宣言したんです。

田中:実務を進める側としては、すごく安心感がありましたね。「みんなはいいアイデアを出すことに集中してくれ」と言われると、現場も前向きな雰囲気になって、いいものをつくることだけを考えることができました。

株式会社クレディセゾン デジタル事業部 デジタルマーケティング部 田中泉氏

川原:予算については、キュービタスではなくクレディセゾンが負担しないと絶対にうまくいかないと思い、最初からそのつもりで進めていました。クレディセゾン社内に対しては、「内容はコールセンターの業務改善だけれども、最後はクレディセゾンの利益に返ってくる」と説明して押し切りました。

経営企画部という、決裁案件の管理と全社予算を担っている部署にいたからできたことでもありますが、うまくその立場を利用して、現場との役割分担を明確化したのはよかったのかもしれないですね。

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鍵となった、コールセンターの現場の視点。だが、最初はまったく意見が出なかった

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