ベネッセだけでも、ソフトバンクだけでも、「Classi」は実現できなかった。
HIP:加藤さんからは、ベネッセにどういう相談を持ちかけたのでしょうか。
井上:「学校にフォーカスし、ICTを活用した教育事業を立ち上げて、先生をサポートしたい」というお話があり、その想いはわれわれと一致していました。しかし、ソフトバンクは非常に先進的な企業。少なからず不安もありました。その不安を加藤さんにお話したところ、われわれの立場や考え方を尊重し、足並みをそろえて進めていきたいと仰ってくれたので、パートナーシップは組みやすそうだと感じました。
HIP:進研模試や進研ゼミのリソースを使って、ベネッセだけで「Classi」のようなサービスを実現することはできなかったのでしょうか?
井上:ソフトバンクと一緒に組んだほうがよいと思った理由の一つは、世の中の環境が変化するスピードの速さ。ベネッセの学校カンパニーでも、早くからICTを活用した教育サービスを検討していました。しかし、世間では、どんどん新たな技術が開発されていきます。そのスピード感のなか、われわれだけでやるよりも、テクノロジーに強い会社と一緒にやっていくほうがさらにスピード感をもって対応していけると考えました。
ベネッセには、進研模試のデータに基づいた学習ノウハウはたくさんありますが、それらをスマホやタブレットを使った勉強コンテンツに落とし込むには専門性が必要です。そう考えたときに、われわれはこれまで蓄積してきたノウハウを活かしてソフトバンクと組めば、いままでにないイノベーションを起こせるという発想が生まれました。
HIP:お話しをうかがう限り、ベネッセとソフトバンクは理念も一致しているし、補完関係もあります。共創は順調に進みましたか。
加藤:簡単だったとは言えませんね(笑)。
井上:何度も経営陣へ事業説明を行い、説得しました。たしかに、理念やベネフィットには問題ない。では、「両社で法人を設立して頑張りましょう」となるかといえば、そう簡単ではありません。
そもそも、いままでソフトバンクとの関わりも薄かったので、「メリットが少ないのではないか」とか「良いとこだけを持って行かれるのではないか」といった懸念があったのも偽らざるところです。
加藤:当時は、「Classi」のベータ版サービスのスタート時期を決めて、水面下で準備を進めていたため、設立時期をずらすことはできなかった。井上さんが必ず社内を説得してくれると信じていましたが、もしできなかったらと思うと……。本当にギリギリの状態でしたね(笑)。
大企業同士が出資するジョイントベンチャーなら、50:50の株主比率がおすすめ。
HIP:経営陣を説得できた決め手はなんだったのですか。
井上:私にはこの先、ICTが学校教育のなかに組み込まれ、主流になるのは間違いないという確信がありました。いずれ訪れる未来なら、先にわれわれがやったほうが良い。それもやるならば、当然スピード感がある会社と組んだほうがいい。それを何度も粘り強く、丁寧に説明することで納得してもらいました。また背景には、同じことを行っているだけでは、少子化などによる低成長は免れないという危機感もあったのだと思います。
HIP:「Classi」は、ベネッセとソフトバンクが50%ずつ株を持っています。その取り決めについては、両社から反対意見はなかったのでしょうか?
加藤:私の最終目標は教育事業をやることだったので、パーセンテージや主導権にはあまりこだわりはなかった。ソフトバンクだけではできない事業を一緒に実現したいのがベネッセだったんです。そもそも、株主の比率にこだわって、優位性を保ちたいと考えている会社同士のコラボレーションなんて、最初から上手くいきません。
井上:「Classi」は、どちらかが優位に立って進める事業ではありません。お互いの強みを活かすことを優先した結果が50:50だったんです。同じ比率なので、責任は両社にあります。ベネッセもソフトバンクも本気でやらなければいけません。そういった意味では、この数字で良かったと思っています。
加藤:大企業同士が出資する新規事業なら、50:50の会社をつくるのは一つの手だと思います。ただし、50:50は互いの意見が食い違ってビジネスができなくなったとき、一方的に解任することができなくなるなどのリスクもある。それを避けるためには、事業に携わる人を見極めることがとても重要になります。
私が今回大丈夫だと思えた理由は、井上さんと山崎さん(山崎昌樹氏。ベネッセコーポレーション取締役副社長 兼 Classi代表取締役社長)が信頼できる人だと確信したからです。すごく失礼ですが、最初はお二人がどんな方なのか、ものすごく見極めようとしました。ちなみに、井上さんの第一印象は「怖い人」でした(笑)。