BMWが日本のスタートアップと協業を推進。海外から見た日本企業の強さは?
ルッツ・ロートハルト(ビー・エム・ダブリュー株式会社) / ファリザ・アビドヴァ(Trusted株式会社)
2022.11.30

世界的自動車メーカーのBMWグループは、数年前からスタートアップとのコラボレーションに力を入れている。その軸になっているのがスタートアップ支援プログラム「BMW Startup Garage」。世界のさまざまな国でユニークなアイデアや技術を持つスタートアップを探し出し、協業に向けた取り組みを進めてきた。日本でも2020年に初めてのピッチコンテストを開催。そこで発掘した2社とは現在も密にコミュニケーションを取っているという。

世界的に見て、スタートアップ環境が十分に整っているとはいえない日本の現状。そこにはどんな課題があり、どんな可能性が眠っているのだろうか? また、スタートアップに限らず、今後、日本と海外の協業は進んでいくのだろうか? BMWデベロップメント・ジャパンのルッツ・ロートハルト氏、世界と日本の企業の協業を支援するTrusted株式会社のファリザ・アビドヴァ氏にうかがった。


取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:豊島望

投資ではなく「クライアント」の立場で支援。BMW Startup Garageの概要とは

HIP編集部(以下、HIP):BMWグループでは数年前から、スタートアップ支援プログラム「BMW Startup Garage」をグローバルに展開しています。まずは、この取り組みの概要から教えてください。

ルッツ・ロートハルト氏(以下、ルッツ):BMW Startup Garageは、BMWグループとの協業が可能なスタートアップ企業を対象とした支援プログラムで、これまでに日本のほか、シリコンバレー、上海、テルアビブ、ソウルなどで実施されてきました。採用されたスタートアップ企業は、BMWグループの各領域のエキスパートによるサポートをはじめ、プロトタイプの商品化に必要な支援を受けることができます。

ビー・エム・ダブリュー株式会社 デベロップメント・ジャパン本部長のルッツ・ロートハルト氏

HIP:こうしたスタートアップ向けの支援プログラムや投資を得るためのピッチコンテストはほかにもありますが、BMWのプログラムならではの特徴は何でしょうか?

ルッツ:まず、そもそもの考え方としてわれわれはスタートアップに「投資」をするわけではありません。投資ではなく、「クライアント」という立ち位置でかかわるのがBMW Startup Garageのスタンスです。そのスタートアップの最初のクライアントになってさまざまなサポートを行ない、一緒に商品やサービスをかたちにしていく。そして、それをBMWグループの商品の高機能化および高付加価値化につなげていくというのが基本的なコンセプトです。

BMW Startup Garageにファイナンスの人間ではなく、エンジニアを置いているのも投資目線ではなく「プロダクト自体のおもしろさ」を重視するためです。もともとBMWはプロダクトに強いこだわりをもつ会社ですが、そこをさらに強化するために、スタートアップと協業していくことを考えました。

ファリザ・アビドヴァ氏(以下、ファリザ):私たちTrsutedとしては、このプログラムに側面からかかわる一方で第三者の目をもつようにもしていますが、その点から見てもBMW Startup Garageはとても優れたプログラムだと感じます。ここまでしっかりスタートアップとの協業の仕組みを構築しているケースは、ほかのヨーロッパの大企業にもなかなかありません。

特にユニークだと思うのは、このプログラムのみに従事する専任の担当者を置いている点です。BMW Startup Garageのメンバーがグループ内のさまざまな課題をピックアップし、それを解決できるスタートアップのパートナーを世界中から探してくる。そのことに100%フォーカスするチームが社内にあるというのは、とても大きな強みとなっています。

Trusted株式会社 代表取締役のファリザ・アビドヴァ氏

HIP:日本では2020年に第一回のピッチコンテストが行なわれましたが、そこではどのようなパートナーが見つかったのでしょうか?

ルッツ:2020年には最終的に5社にピッチをしていただき、2社とは現在もコミュニケーションを取っています。また、そのうち1社とはドイツ本社側と具体的な協業の話が進んでいます。

HIP:その日本の2社はどんな会社で、どのようなコミュニケーションを行なっていますか?

ルッツ:プログラム自体は非公開ですので具体的な社名は明かせませんが、一つはAIの会社、もう一つは事務手続きなどバックエンドの支援を行なう会社です。車とはあまり関係のない領域に感じられるかもしれませんが、BMW Startup Garageではジャンルを限定せず、なるべく多くのスタートアップとつながりたいと考えています。

もしかしたら、そのうちの9割はフィットしないかもしれません。それでも、残りの1割がクオリティーの高いプロダクトをつくっていれば新たな広がりが出てくるはずです。何よりも、BMWはクオリティーを大切にする会社ですからね。そうしたより多くの面白いアイデアをもつ企業と関係を構築することで、オポチュニティー(機会)が増えていくはずです。

BMW Startup Garageのサイトには、「私たちはこんなスタートアップを探している」とプログラムの目的が記されている

グローバルな視点から見る日本のスタートアップ。「企業数は少ないが、質が高い」

HIP:世界と比較して、日本のスタートアップ環境にはどのような特徴がありますか?

ルッツ:世界的に見ると、日本はスタートアップの数自体が極端に少ないです。教育や就職のシステムなどいろいろな理由が挙げられますが、「起業にはリスクがあり、大企業に就職することを安定」と捉える考え方も大きな要因の一つではないかと思います。起業をするにしても、まずは大企業で経験を積み、アイデアとスキルが成熟してからチャレンジする人が多いのではないでしょうか。

ただ、それは必ずしも悪いこととはいい切れません。日本は諸外国に比べてスタートアップの数自体は少なくても、一つひとつの企業の技術やスキルの精度は高い。逆に、アメリカなどの場合は、アイデアとビジョンだけで起業するケースが多く、リスクテイキングという点では素晴らしいのですが、そのぶん玉石混合ですから。

HIP:つまり、選択肢は限られるものの、信頼に足るパートナーが見つかりやすい環境であると。

ルッツ:そう思います。ドイツの本社でよく使う「PUSH」と「PULL」という表現があるのですが、PUSHはわれわれBMW Startup Garageのチームから本社に対し、「こんな面白い技術をもったスタートアップがあります」と提案することを指し、PULLは逆に本社側から「こんな技術はないですか?」という要求を受け、それにフィットする企業を提案することを指しています。

日本の場合はどちらかというと、PULLのシチュエーションが当てはまるのではないかと考えています。

スタートアップが陥りがちな悩みとBMWの取り組みを紹介する動画

HIP:ファリザさんにもおうかがいしたいのですが、BMWに限らず、日本のスタートアップと協業したいと考える海外の大企業は多いのでしょうか? また、彼らは日本の企業のどんな点に期待しているのでしょうか?

ファリザ:日本のスタートアップに注目している企業は少なくないと思います。特に、ヨーロッパの大企業と日本のスタートアップのマインドセットは非常に近しいものがあり、長期的に安定したパートナーになれる可能性を秘めているのではないでしょうか。

また、とりわけ注目されているのが、高齢化社会で生じる問題を解決するようなソリューションです。世界に先んじて超高齢化社会に突入した日本のマーケットから出てくるユニークなビジネスモデルをいち早く発掘し、ヨーロッパへ持って行きたいと。たとえば、金融や保険関連の新しいビジネスの仕組みなどは非常に注目度が高いですね。

ほかにも、日本は素材やケミカルの分野などは非常にクオリティーが高いということで、こうした企業と協業を望む声も多いように感じます。

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