創業以来200年以上にわたり、日本の食卓を支えてきたミツカン。2018年、同社が掲げた「未来ビジョン宣言」を体現するブランドとして生まれたのが「ZENB」だ。「おいしく健康的で、地球環境にもやさしい食品を」――原材料の検討から商品開発まで、その理想を妥協なく追求している。
ミツカングループがはじめて手掛けるD2C事業としても、注目を集める同プロジェクト。その事業化までの道のりや現在地、今後の展望についてZENB事業マネージャーの長岡雅彦氏にうかがった。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 写真:坂口愛弥
「おいしさ」「カラダにいい」を一致させる
HIP編集部(以下、HIP):ZENBは2019年3月に、ミツカングループでは初めてD2Cに特化したブランドとして誕生しました。はじめに、ブランド立ち上げの背景を教えてください。
長岡雅彦氏(以下、長岡):ミツカンは2018年に「未来ビジョン宣言」を発表しました。創業から210年を超え、現在ではグローバルに展開しているわれわれが、未来の社会に向けてどんな貢献ができるのかをまとめたものです。
この宣言を策定する際に、議論と並行して開発を進めたのが「ZENB」。ある意味、未来ビジョン宣言の象徴として位置づけられるブランドになります。
HIP:未来ビジョン宣言とは、どのようなものでしょうか?
長岡:大きく2つのことを宣言しています。1つは「おいしさと健康の一致」です。油や塩、砂糖などを増やせば味はよくなるものの、身体への負担が増してしまいます。一方で、健康的な成分だけを取り出したサプリメントなどは身体にはいいけれど、食事としておいしく味わうことはできません。
やはりミツカンとしては、食事としてのおいしさと健康を両立できる食生活を提案していきたいと考えています。
2つ目は、「人と社会と地球の健康」です。自分たちの健康について考えるのはもちろん、社会や地球に負担をかけない食生活を提案していきたい。ZENBは、この2つの宣言を体現するブランドとして開発されました。
HIP:どのような商品があるのでしょうか?
長岡:まず、ZENBではそもそものアプローチとして動物性よりも環境負荷の少ない植物性の食品を中心に提案しています。また、その植物性の食材を使ううえで、加工の際に捨てられてしまっている部分も含めて、可能な限り丸ごと使うことを大切にしてきました。
たとえば、2019年に発売した「ZENBペースト」という商品では、とうもろこしの芯や枝豆のさや、ビーツの皮まで丸ごと使っています。丸ごと使うことでゴミを出さずに済みますし、普段は捨てられてしまうこれらの部位には、じつは食物繊維などの栄養素が豊富に含まれているといったメリットもあるんです。
また、2020年に発売した「ZENBヌードル」という商品では、食物繊維や植物性たんぱく質が豊富な黄えんどう豆を使用しています。つなぎや添加物には頼らず、黄えんどう豆を100%、薄皮まで使ってつくった麺です。
HIP:ZENBヌードルのように毎日食べられる主食がラインナップにあると、日々の食生活に取り入れやすそうですね。
長岡:そうですね。このブランドを立ち上げるにあたり「新しい主食」を提案したいという考えがありました。最近は糖質制限やグルテンフリーなどが注目を集め、できるだけ主食を摂らないようにしている人も増えています。ただ、主食はやはり食卓の中心ですし、本当は我慢せずに食べたいと思っている人も多いはず。
そこで、しっかり食べることで健康になれるような主食をつくれないか、との思いから開発したのがZENBヌードルでした。見た目はパスタに似ていますが、パスタ以外にもラーメンや焼きそば、混ぜ麺など、さまざまな食べ方ができる汎用性の高い麺となっています。
既存事業で培った調理の知見を活かす
HIP:食材を丸ごと使うといっても、野菜の皮や芯は硬かったり、苦味やえぐみがあったりすると思います。味を損なわないために、どんな工夫をされていますか?
長岡:一般的な加工食品の場合、乾燥野菜をそのまま使うことが多いのですが、ZENBはそこに一手間加えています。たとえば、とうもろこしなら茹でて柔らかくする。ビーツや枝豆は蒸して使う。パプリカは、逆に生のまま使うなど。野菜によって調理法を変え、それぞれの素材が持つ甘さや旨味を引き出すことに、かなりこだわっています。
HIP:そうした調理の知見は、ミツカンが既存事業で培ってきたものがベースになっているのでしょうか?
長岡:おっしゃるとおり、ベースの技術はミツカンが長い歴史のなかで培ってきたものです。とうもろこしの硬い芯は細かく粉砕することで滑らかにしているのですが、もともと別の商品で使われていた特許技術を応用しています。
また、ZENBヌードルの場合、つなぎを使わず豆だけでおいしい麺をつくるのはかなり難しいことなのですが、これも過去にまったく別のテーマで検討していた技術を用いることで実現にいたりました。もともとあった技術を組み合わせたり、さらに進化させてものにしたりが品質につながっているというところですね。